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スマイル  作者: 小町翔石
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第十八話  意地悪のシンイ

「はい。真夏って名前だから、まなったん。なっつんて呼ぶひともいるんですよ」


 何も知らないのだから、真夏は笑顔で話した。

 その無垢さがカズマには痛かった。

 アユミには、どうだったのだろうか?


「こちらの彼は、彼氏? 友達?」

「友達です」

「そうよね。つきあってたら二股ってことになっちゃうかもしれないからね」

 と今度はアユミが笑顔で話した。

「え?」


 真夏は意味を図りかねて、言葉に詰まった。

 意地悪な笑顔だとカズマは思った。

 あるいは意地悪の対象はまなったんではなく自分なのかもしれないとも思った。

 そしてそれは正解であったと、次のアユミの発言で確信することになる。


「まさかカズマがこないだ話してた映画の相手が真夏ちゃんだとは思わなかった。世の中って狭いわね。本当に」

「え? かっちゃん、知り合いなの?」

「……うん」

「そう。知り合い。でもつきあってるわけじゃないから、カズマと真夏ちゃんがデートしても浮気にはならないんだな」


 いまだ事態を飲み込めずにいる真夏と、意地悪に笑うアユミと、困惑顔のカズマ。

 傍から見たら親しげに見えるかもしれない三人の会話は、もっと複雑になっていく。


「お弁当、ありがとう」

「うん」

 数秒の間沈黙したあとで、カズマはそう答えた。

「お弁当? どういう意味ですか? ねえ、かっちゃん、どういう意味?」

「俺とアユミさんは知り合いなんだ。知り合って一年くらいになるんだ。上手く説明できないけど、ちょっとしたことで知り合って、俺が料理の専門学校に通ってるって言ってから、頼まれて、弁当作ることになって」


 アユミはやはり笑いながら、言葉を選びながら話すカズマの言葉を受けた。


「お互いのアパートの合鍵も、交換してあるのよね」


 それが意味するところはひとつで、よほど鈍感であるか、よほど世間知らずでなければ真意に気がつくだろう。

 気がついた真夏の顔は青ざめた。

 はっとカズマを見た。

 アユミは続けた。


「でもさっきも言ったけどべつにつきあってるわけじゃないのよ。だからいいじゃない。ふたりでデートして楽しんだら。それで服も買ってもらえたら、お店だって儲かるし、私も嬉しいし」

「つきあってないのに、合鍵は交換してあるんですか?」

「そう。たまにセ○○○するから」

「アユミさん」

 とカズマはたまらずに言った。

 言ったのだが、続きの言葉は出なかった。

「え、してるでしょ、セ○○○」


 カズマは答えられず、その様を見た真夏は真実なのだと理解した。

「してないの? してるの?」


 顔を上げたカズマは意地悪な笑顔を見た。


「してる。してるけど、何もいま言わなくたって……」


 そこで言葉に詰まったのは、地雷を踏んだかもしれないと気づいたからだ。


「いいじゃない、本当のことなんだから。それとも私とセ○○○する関係だっていうのを隠して、真夏ちゃんともセ○○○するつもりだったの?」

「そうじゃない、です」

「そうよね。そんなんじゃないわよね、カズマは。だから真夏ちゃんも好きになったんでしょ? 違う?」

「はい、そうです。好きになりました」

「おお」

 とアユミは感心した。

「私はかっちゃんが好きです」

「そう言ってるわよ。どうするの? カズマは」

「……どうって」

「怖がってないではっきり言いなさいよ。べつにそれでキレたりなんてしないわよ。いまのこの状況でって意味じゃなくて、アパートに帰ってからも」

「キレるって」

 と真夏が言った。

「そう。私、癇癪持ちなの」

「じゃあ、かっちゃんが顔腫らして学校に来たことあるのって」

「そう、正解。私がやったの。もちろん、私以外にやられたことがないってわけじゃないだろうけどね」

 真夏が抱いていた疑念が正解であったと告げられた。真夏はそれが間違いであってほしいと思っていたのだが。

「そんな、そんなひどいこと」

「私は悪いとは思わないわよ。セ○○○もさせてあげてるんだから、それでオアイコじゃない。違う?」

「暴力振るって悪いって思わないんですか?」

「うん」


 とても軽く、アユミは答えた。

 真夏にとっては絶句してしまう返事だった。


「真夏ちゃんはない? ムカついてぶっ飛ばしてやりたくなること」

「あります。あるけど、それを実行に移そうとは思いません。それが常識なんじゃないですか? ひとを傷つけるなんて、それを悪いと思わないなんて」

「間違ってる?」

「はい。それが私にとっての当たり前です。アユミさんっていうんですよね? あなたみたいにひとを傷つけるなんて、私にはできません」

「真夏ちゃんの当たり前は、私にとっては当たり前じゃないんだな。ひとそれぞれにそれぞれの価値観があって、自分の物差しでは非常識だからって人を非難するのは、それも非常識っていえるんじゃないかな?」

「そんなの屁理屈じゃないですか」

「そのとおり」

 とアユミはまた意地悪に笑った。

「笑わないでください」

「かっちゃんはどう思う?」

 とアユミは楽しんでいるようだった。

「馬鹿にしないで。私は真剣に話してるんです」

「じゃあ私も真剣に訊くわ。カズマはどう思ってるの?」

「どうって……」

 とカズマは言葉に詰まった。

「ああ、もう。煮え切らないわね。真夏ちゃんのほうがよっぽど男らしいじゃない」

「そんな言い方しなくたっていいじゃないですか」

「ほら」


 真夏の反論にも、アユミはまったく悪びれていないようだった。

 カズマにはなぜアユミがこんなにも意地悪に振舞うのか、わからなかった。

 だからふたりの話を聞きながら、考えた。


 なんでこんなときにこんなにも意地悪なんだろう?


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