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枯れ花に口づける鬼  作者: 夢咲 紅玲朱
屍食鬼編

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38/58

幸せな時間

外はすっかり春になっていた。


『屍食鬼の館』へ来て、初めての平和な時間だ。


雪は野菜を切る。台所へ立てるようになった。




「痛っ」


雪は包丁を置いた。怪我するのはしょっちゅうだった。


すると「ただいま」という声とともに、龍胆が帰ってきた。以前のように、薬売りで生計を立てている。


白い髪をしっかりと隠し、人間のように暮らしている。


雪はぱたぱたと小走りで出迎えた。


「おかえりなさい」


「おや、雪。手はどうしたのだね?」


「・・・また包丁で切っちゃって」


雪の白い指から滲む赤い血は、煽情的ですらある。


龍胆はほほ笑むと、指を口に含んだ。


「っ!」


「甘いな、雪の血は」


龍胆は手を取ったまま、トロンとした瞳で雪を見上げる。雪は真っ赤になった。


「もうっ。おわたむれはやめてください・・・」


龍胆は薬箱の中から軟膏を取り出す。雪の指に丁寧に塗り込んでいった。


「あとは俺がやる」


龍胆はたすき掛けすると台所へ向かう。龍胆は人間に戻ってから食事する。もう、吐くことはない。


すると裏口から、子どもたちが(主に小梅が)泣きながら雪に抱きついてきた。


「助けて、『お母さん』! どら猫がいじめるんです!!」


「いじめてないよ、雪お姉ちゃん。その子すぐ泣くの」


菫は小石を足で蹴飛ばす。雪がなにか言う前に、龍胆は苦笑した。


「子育てとは、容易にはいかないね。――なあ、雪。俺が思うに、薔薇さまは常に狂気と戦っていたのではないかな」


「え?」


「大勢の子供達を育てるのも、慕われるのも容易ではない。やはり、父親だったこともあったのかもしれないね」


「そう、かも、しれませんね・・・」


雪は小梅と菫の頭を撫でる。


「龍胆さま。食事の前に行きたい場所があるのですが」


龍胆は瞬いた。





花散里は桜が満開だった。所狭しと植えられた桜が一斉に開花している。花という花がほころび、こぼれるように花びらが散る。




雪と龍胆は育ての両親の墓の前に来ていた。その隣には、産みの母の墓を新しく建ててある。


母の遺品は、ほとんどない。中身はない墓だが、きちんと埋葬されたかすら不明な母への、雪の気持ちだった。


「正直に言えば、まだ心の整理はできていないのです」


雪はぽつりと言った。


桜の枝を供える。手を合わせる姿は、ため息が出るほど美しい。薔薇に似ているといえばそうだ。


「それでいいと思うよ」


龍胆は言った。


「俺もそうだ。かつての部下だった白木蓮も、隊をやめて新しい職を探している。皆心に深い傷を負ったからね」




手を繋いで、『屍食鬼の館』へと帰る。龍胆はふと、白髪をなびかせ、空を見上げた。



庭の桜が、一枝だけ咲いていた。


見上げながら、


「雪。ずっと言いたかったことがある」


「はい?」


雪は首を傾げた。龍胆は雪を引き寄せると、抱きしめてふわりと笑った。




「愛している。一緒になろう」




ざあっと桜の花びらが乱舞する。


「はい」


互いに唇を重ねる。


龍胆の身体が黄金に輝き、髪は白から黒へと変わってゆく。




人間にもなれる。


あやかしにもなれる。


半端者同士の二人。



唇が離れてゆく。ふたり、おでこをこつんと合わせて、笑いあった。



こうして生きてゆく。永遠とわに――・・・・・・。



『屍食鬼編』はこれにて完結です。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

ストックをためてから、続きとなる『穢土城編』をお見せできたらなと思っております。将軍や正室、死神、和風悪魔など個性豊かなキャラクターたちがまた暴れます。雪と竜胆の甘いお話や、子どもたちとのやり取りも魅力的になっております。

精一杯がんばりますので、ぜひお待ちいただけたらと思います。


今後の活動の励みになりますので、もしよろしければ★★★★★などの評価やブックマークを押して頂けると幸いです。

またご感想などいただけると大変嬉しいです。


皆様のご反応や応援に支えられ、ここまで来ることができました。本当にありがとうございました。




夢咲 紅玲朱

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