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枯れ花に口づける鬼  作者: 夢咲 紅玲朱
屍食鬼編

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36/58

第六天魔王

龍胆も、薔薇でさえも。驚愕に目を見開き、僧侶をじっと見つめる。


雪だけが、呆然と、だが妙な懐かしさを覚えて立っていた。


父というより叔父や祖父、のような。親戚に会ったようなものだ。


僧侶――第六天魔王は龍胆へ視線を向ける。


「俺の忠告を受けても人を斬り、鬼となったか。やはり、俺の目に狂いはなかった」


「どういう、意味だ」


声に怒りが満ちていた。龍胆は刀に手をかけたまま僧侶を睨む。


「雪は我が娘。夫は俺が選んでやった。残忍で、哀れで、絶えず哀しい血の匂いがする男。極上の鬼にお前さんを育て上げたのは俺だ」


「・・・すべて貴様の差し金だったのか?」


「ほざくな小僧。義父は敬えよ」


魔王はひょうひょうと語る。


「俺は神でも仏でもない。厄災の権化。死体を食う鬼なんぞとは比べ物にならない魔物だ。そんな俺にしては優しくて手ぬるかったはずだが? 俺はな、哀しくて、酷で、残虐なものが大好きだ。我が娘から両親を奪ったのも、おまえと十年別れさせたのも、馬小屋で寝かせたのも、俺の愛。かわいい我が子の人生を哀しく彩るのは親心だ」


「あやめに両親を殺させたのは、貴様だったのか?」


「何度も言う。俺は哀しい厄災の権化。神仏かみほとけではなくとも俺と縁を結べば自ずと不幸が訪れる。人間の号哭は実に美しい。うっとり聞き惚れてしまうほどに」


「雪をそんな目に合わせて、貴様はそれでも父親か!?」


「人間の物差しで測るんじゃない。龍胆」


薔薇が、静かに言った。「尋ねるだけ無駄なこと。同じ答えが返ってくるだけだ」


魔王は龍胆と薔薇を無視すると、おもむろに雪のもとへ歩いてゆく。


雪は一瞬戸惑った。先程の話をされて、冷静でいられるはずがない。


雪は龍胆が戦っているときから冷静ではなかった。


自分は魔王の娘と言われ、実の母親は自害し、両親が死んだことも、今まで辛かったことすべてが魔王のせいだと判明し。


もはや怒る気にもなれない。皆が自分の人生を狂わせていくような、やるせない感情でいっぱいになった。


「哀しいか? 恫喝して喉をかきむしりたいだろう、我が娘」


魔王は満面の笑みで雪の顔を覗き込む。


すると。龍胆が後ろからふわりと抱きしめてきた。


背後から青い炎が上がる。菫は雪を守るようにシャーッと威嚇した。


「ほう。あやかしに随分愛されているようだ」


魔王は物珍しそうに雪を見た。


「そなたは、あやかしとなら、俺の大嫌いな幸福というものを手にできるやもしれぬな」


雪を凝視した魔王はにやりと笑う。


「夫の愛が勝ったか。躰の中に、仏の加護が視える」


雪ははっとした。龍胆が食べさせてくれたおかゆ。それに入れられたのは御仏が植えたとされるゆりの根だった。


「人に戻したり、あやかしに戻ったり。愉快な夫婦になりそうだ」


魔王はすこし悔しげだったが、雪から離れる。膝をつく薔薇の下へ向かった。


「そうび。おまえの魂は俺のものだ」


「――」


「どこで終演を迎えるかも決めるのも俺だ。朝廷に召し捕られ生き恥をさらすのはおまえらしくないだろう。――なんとまあ、俺も雪のように優しくなったものだ。この男の哀しみの声も聞きたかったのだが。俺も娘には甘い」


刹那、薔薇は円形の結界に囲まれた。それは次第に中の薔薇ごと小さくなり、飴玉ほど小さくなった。コロコロと転がってきたそれを魔王は拾い、懐にしまう。


「俺の用事は終わりだ」


終始あっけらかんとした男だ。雪の感情もそのままに、さっさと帰るつもりらしい。


ゴオッと突風が吹く。


消える間際、雪の耳には届いた。


「いい夫婦になれよ、雪」


風はふっと消える。乱れた雪の上、立っているのは龍胆と菫、雪のみだった。




「何だったのでしょう」


雪は言う。


「わたしのお父様たちは、わたしを何だと思って・・・!!」


涙が止まらない。泣き崩れそうな雪を菫が支え、龍胆が抱きしめた。


「俺がいる。雪。俺も、菫も、だれもおまえを悲しませない」



雪の頬を両手で包む。すっかり冷え切った頰に口付けを落とし、龍胆は言った。




「ここは冷える。帰ろう。――我が家へ」


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