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枯れ花に口づける鬼  作者: 夢咲 紅玲朱
屍食鬼編

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26/58

人斬りの子育て

龍胆は光りに包まれながら、懐かしい夢を見た。


雪と初めて出会ったあの日の夢。


夕暮れ時に手をつなぎ、泊まる宿もあるはずもなく、行くあてもなくただ、歩いていた。


剣ばかり握っていた手に、小さな手を握っている。その感触は、今でも忘れられない。


やがて、あばら家を見つけた龍胆は、丘の上へ――現在の屍食鬼の館へ足を踏み入れた。


家の中は酷い有様だった。


蜘蛛の巣はあちらこちらにぶら下がっている。破れ畳は土とホコリで真っ黒に変色している。


やむなく、龍胆は草履のまま土足で屋敷を見て回った。


しばらく人間がいた形跡はない。村から離れた場所だから、訪問客もそれほどないだろう。


龍胆は雪の手をはなすと、無造作に破れ畳に寝転がった。


雪は相変わらずぼうっとした瞳でそれを見ていた。


やがて、雪は何を思ったのか、龍胆の脇の下へ潜り込んできた。


『――』

『・・・・・・』


雪も龍胆も無言だ。しかし雪の小さな手は、龍胆の着物をがっしりと掴んで離さなかった。


なんとも奇妙で、あたたかい空気が流れる。


(波長が合う娘だ)


龍胆は内心首を傾げた。初対面なのに、どうやら信頼されたらしい。そのまま雪は寝てしまった。まだ食事も取っていないが、まあいいだろう。


龍胆はふっと笑うと、旅の疲れに身を任せ、目を閉じた。




朝、雪が目を覚ますと、そこには誰もいなかった。龍胆のやぶれた上着がかけられていた。


雪は飛び起きて、あたりをキョロキョロと探し回る。やがて、本当に龍胆がいないことに気がつくと、じわっと涙が込み上げてきた。

ガラッと、玄関の戸が開いた。


『ただいま。・・・なんだ、目が覚めたのかい?』


龍胆が風呂敷いっぱいに荷物を詰めて、敷居をまたぐところだった。


雪は『ふえ・・・』と唇を噛むと、ぴょんとその膝へしがみついた。


びぇええっ! と声の限り泣く。龍胆は呆気にとられた。


『・・・ごめんよ。生活に必要なものを買いに、隣町まで行ってたんだ。昨日からなにも食べていないだろう? 今作るから、そこで待っていたまえ』


雪は嫌だと首をふる。龍胆は目をぱちくりした。


(ここまで懐かれるとは思わなかった)


やむなく荷物をその場に置き、雪を抱き上げる。雪はむう・・・とむくれていた。勝手に出ていったのがよほどご立腹のようだった。


仕方なく、雪を背中におぶる。赤子ではないので自分でしがみついてもらうことにして、龍胆はテキパキと料理に取り掛かった。


(父親というか、母親というか・・・。なんだか不思議な体験だな)


龍胆はふうと息を吐くと、土間に置いた荷物の中から、買ってきた鍋やら包丁やらを取り出し、並べてゆく。


大根を切る音のあと、美味そうないい香りが、あばら家の外まで漏れ出た。


雪はというと、その華麗な包丁さばきに見とれていた。


龍胆は料理に夢中だった。久しぶりに野菜を切る感覚は心地よかった。


いつの間にか、雪は背中から飛び降りていた。龍胆が焼き魚を焼く頃に戻ってきて、龍胆の裾を引っ張る。なにかを後ろ手に隠しているようだった。


(急に何だ。虫か、蛙か?)


龍胆はどきどきしながら雪を見つめる。やがて、雪は枝を差し出した。


それは、桜の枝だった。


『さくら? 今摘んできたのかい?』


雪はうなずく。まだ声は出ない。


(くれるというのか? 桜を? この俺に?)


雪はぐいぐいと龍胆の顔に枝を差し出す。おずおずと受け取った龍胆は『・・・きれいだね』としか言えなかった。



雪はニコッと笑った。




歯がかけているその無邪気な笑みは、龍胆が見たどの花より、ほころんで見えた。




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