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枯れ花に口づける鬼  作者: 夢咲 紅玲朱
屍食鬼編

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18/58

人質

(人質にこの高待遇は何かしら・・・)


雪は首を傾げながら、眼の前の膳に盛られた白飯と味噌汁、魚の塩焼きを見つめていた。


両手は後ろ手に一括りにされているが、なぜだか縄ではなくリボンだ。痛くはないし、解こう思えば解ける。

やわらかい座布団も、使っているのは雪だけだ。


ここは花散里の空き家。庄屋がかつて引っ越す前に利用していた屋敷だ。蜘蛛の巣はあちらこちらにぶら下がり、とても住めたものじゃないが、事件現場の屋敷はもっと『えげつない』ので、ここで我慢しているらしい。


雪は屍食鬼――つまりは龍胆と菫をおびき出すための『餌』だ。それをわかっていても、雪はあまり動じなかった。龍胆の強さは、ごく最近目の当たりにしたばかりだし、周りをちょろちょろと忙しそうに周る隊員には悪いが、龍胆の足元にも及ばないだろう。


それより心配なのは、自分が果たして『餌』としての価値があるかどうかということだった。


ここは怪異討伐隊の本拠地だ。来れば戦いになるだろう。


来なかったら、このまま雪は人里へ返される。龍胆とは二度と逢えなくなる。


どちらも胸が痛い。雪はぽろりと涙をこぼした。



遠くのほうで、それを見つめる隊士たちがいた。


「いや~、美人っすね」

「隊長に内緒で優しくしちゃいましたけど。あんな儚げな美人に手荒な真似はできねえよ」


「行く先がなかったら、俺が嫁にもらおうかな・・・」

「お前っ!抜け駆けはなしだぞ!」


呑気なやり取りの中、「報告」との知らせが入った。


「桜の巨木の中、空洞あり。無数の女の死体あり。調査せよ!」

「女の死体!? 隊長はもう向かわれたのか?」


すると威圧感のある声が響いてきた。


「うるさい貴様ら。今帰ったところだ」


隊士たちは姿勢を正す。白木蓮は機嫌悪く大股で雪のもとまで闊歩した。


「百年前、この里で変死が多発した。その『被害者』の骸は、ずっと回収されてなかったが、さっきようやく見つけたところだ」

「百年ですか。もう白骨化していたでしょう。よく女だとわかりましたね」

「防腐処理がしてあるらしい。まるで『生き人形』。みんな肌はぴちぴちのまま保管されてたよ」


――あやめのものだ。雪は沈黙したままそう思った。


白木蓮は息を呑む隊士たちをよそに、雪の隣へ片膝をつく。


「あんたも、死体収集家の鬼に狙われてたんだってな。雪さん。――なぜあんただけ魔の手から逃れられた?」

「・・・」


だんまりを決め込む雪。その白い顎をつまむように掴むと、白木蓮はずいっと顔を寄せた。


「言え。この村には何匹鬼がいる? 見つけたのは死体だけじゃない。『がしゃどくろ』が雪の結晶になっていた。あれはあやかしの中でも特に手を焼く災いの権化。御仏でもない限り、倒すのは不可能だ。――それと」


一呼吸置くと、白木蓮の冷たい眼はギラッと殺気を帯びた。


「あんたをじっと見つめていた鬼――おそらく屍食鬼だ。奴の名はなんだ!?」


男の声はビリビリと大気を震わせる。雪はぶるりと身体が勝手に震えた。


「・・・存じ上げません。ご自分で突き止めたらどうですか」


雪はめいいっぱい勇気を振り絞って睨み返す。涙目のそれは、残念ながらまったく威嚇になっていない。


「・・・ふん」


白木蓮は立ち上がる。「自分に『餌』の価値はないと?」と上から雪を見下ろす。


そしてガラリと障子を開け、寄りかかった。


「里の気配が変わった。あんたを捉えたあの墓場にも、餓鬼が山ほどいた。今、地道に焼き殺している。山中がざわざわと騒がしい。あんた一人をとらえただけで、だ」


白木蓮は目をまんまるにしてそれを聞く雪を、怪訝な顔で見下ろした。


――この世のすべての鬼に愛される女。


「あんた、いったい何者だ?」


御仏のごとく慈愛に満ちた眼差しを持ちながら、その赤い唇は、どの鬼も吸い付きたがる魅力を持っている。


雪はしばらく口をつぐんでいたが、やがて唇を薄く開いた。



「わたしが知りたいくらいです」

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