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枯れ花に口づける鬼  作者: 夢咲 紅玲朱
屍食鬼編

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花散里

・・・馬鹿馬鹿しい。子供の世話など。


だが龍胆の足は、自然と花散里へ向いていた。


近頃、雇い主の金払いが悪くなっていた。・・・と、理由をこじつける。

本当の理由は、本物の鬼に脅されたからであるが。


不思議と穢土を出るのは簡単だった。妙にあっさりした気分で、龍胆は旅をする。


(人斬り以外の生き方? そんなもの、俺は知らない)


だが、わずかなりとも興味はあった。

幸せな家庭の匂いなど知らない。


だが、その雪という娘と出会うことで、自分の中のなにかが変わるのなら。

変えられるのなら。


(あの鬼には、人間のものさしを超えたものが見えているに違いない)


今さら後戻りは許されない身なれど、すでに人間をやめた男の助言は刺さった。




やがて、満開の桜が散る村へたどり着いた。


異常なほど桜が多い。薄紅の花びらがびゅうっと乱舞し、龍胆の黒髪をなぶる。だが村人たちに花を愛でる余裕はなさそうだ。

皆暗い顔で、よそ者を睨みつけている。


(無理もない・・・。穢土で頻発している辻斬りが地方に落ち延びてこないか警戒しているのだろう)


もっとも、その辻斬りは俺だが。


その一言は飲み込み、鬼の言う雪という少女を探す。




雪は、民家の軒下に膝を抱えて座り込んでいた。


ずいぶんとみすぼらしい姿だ。


髪はぼさぼさ。

頬は涙の跡が痛々しく残ったままだ。しばらく風呂にも入っていないのだろう。汗の匂いが鼻を突く。

瞳はうつろで、霞がかかったようにぼうっとしていた。


『親を殺されたんだよ』


案内した男が、眉をしかめて言った。龍胆は心臓がかすかに跳ねた。


『・・・誰に殺されたんだ?』


やったのは自分ではない。だが心臓を鷲掴みにされ、握りつぶされたような、息苦しさを憶えた。


『さあねぇ。鬼だか人間だか、誰にもわからねぇんだ』


男は語り始める。

百年前、ある事件を皮切りに、この村で変死が頻発したのだという。


『とある商家の若旦那がいてね。男とは思えぬほど麗しかったそうで、えらく女にモテたそうだが。若旦那はこの村の娘に惚れ込んだんだ。娘は黒猫を飼っていてね。猫も娘に懐いて、幸せに暮らしてたそうだよ』


――だが、片思いってのがあるだろう? 必ずしも両思いになれるわけじゃない。


『若旦那は求婚したが、断られた。――だが、その娘欲しさあまりに、勢い余って殺しちまったんだ』


その時だよ。若旦那の中でなにかが目覚めたのは。

声を低め、村人は言葉を紡ぐ。


『娘の死顔が、あまりに綺麗だったんで、死体の収集を始めたんだ。以来、この村から若い娘がいなくなった。・・・そしてその家族も一人残らず斬殺されたのさ』

『ちょっと待て』


龍胆は静止した。


『その若旦那が生きていたのは、百年前なんだろう? 雪となんの関係がある?』

『関係大ありさ。なんたってその若旦那は、まだ死んでないんだから』


さらりと告げられた事実。龍胆に戦慄が走る。


『死んでいない、だと・・・?』


人生五十年。長生きしたとしても、よぼよぼの老人ではないのか。


『若旦那は歳を取らなくなったんだよ。あまりにも人を殺しすぎたんで、妖怪だか人間だかわからねえバケモノになっちまったのさ。百年経った今でも、雪の親を殺し、我が物にしようとしてる。・・・もっとも、雪はまだガキだ。ねらわれた娘の中では最年少かな』


よくも飄々と言えたものだ。龍胆はじっくりと手のひらが汗ばむ。


あの鬼が言った通りだ。人を殺しすぎた人間は、バケモノになってしまうのか。

ふと、雪へ視線がうつる。


このまま放置していれば、雪は――・・・・・・。


『雪には悪いが、どうしようもねえよ』


村人はさらりと言った。

冷たい声は、かばいきれないと切り捨てている。


『あんたが連れて行ってくれるなら、村は助かるよ。口減らしできるし、死ぬところを見ないですむ』


それだけ言うと、村人はその場をあとにした。


龍胆はぎゅっと拳を握りしめた。


薄情者と、言いかけた。

だが、言えない。人を斬ってきた自分が、言えるわけがない。

責めるのは、お門違いなのだろうか?


『・・・・・・』


しばし、龍胆は離れた場所から雪を見つめる。親を失ってから、口がきけなくなったらしい。ただ朦朧と、死に向かって時を刻む姿は、胸を締め付けられた。


龍胆はゆっくりと、雪に近づく。

その正面までくると、膝を折った。


『やあ。・・・君が雪ちゃんかい?』


なるべく優しい声を取り繕う。人斬りが子守など初めての経験だ。

だが、なにかが龍胆を掻き立てる。


庇護欲なのか。

償いなのか。

それとも・・・・・・??


『俺と一緒に来ないか?』



答えは、御仏だけが知っている。





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