第九話 「さっきの敵は今の友作戦」
冥界で一つの魂が散った。
だがその魂は散り散りになった欠片を集め魂を再形成しそれから……
――――――――――――――――――――――
「ーー侵入者たちよ、貴様らは何者だ?」
奎の耳に聞き覚えのある声が入った。
「…え?」
奎は自分の周りを見る。目の映る光景はどこまでも広がる闇。ではなくたくさんの兵士と豪華な装飾が施された謁見室だ。
そしてフォビアの質問。
これは、聞き覚えがあるしこの先誰がどう答えるかも奎には予測がついた。
「私達はおそらく別の世界から転移してきたのです。私達はこれを異世界転移と呼んでいます。そして私達は決して怪しいものではなく貴方達に手を出す気はありません。」
違和感などない。
予想通り西園寺が答えた。
奎は額に嫌な汗が走る。
奎は鬼神・メイに斬られて確かに死んだのだ。自分で自分が死ぬことを理解していたし魂が消えていく感覚も味わった。
だが、自分の命が終わったと自覚した瞬間にここにいた。
これまでのことが夢だとしても出来すぎている。
「(正夢…いやこんなとこで寝るなんて冗談じゃない…)」
奎はゴクリと固唾を呑む。
このあと、メイがこの謁見室に柊を抱えて来る。
それが起きればもう、認めざるを得ない。
「手を出す気が無いと言ったが先ほどお前たちの仲間の一人が暴れたそうじゃないか」
このあと、西園寺が「あ、」と言えばそのすぐあとにメイが来る。奎は起きないことを祈る。メイが来てしまえば死が確定するようなものだ。
「あ、」
西園寺がそう溢した瞬間奎たちの後方にある大扉が大きな音を立てて開く。
「(冗談キツイだろ…こんなの。)」
扉の先にいたのは奎の命を奪った張本人、鬼神・メイだ。脇には水浸しの柊を抱えている。
これでほぼ確定した。
奎が転移前に読み漁った小説やアニメ、漫画でたまにあった能力。いや、スキル。
「(俺のスキルって死に戻り…?)」
奎はあれほどチートスキルを欲していたが手に入れてみれば最悪の気分だ。
「(死に戻りって確かにチートスキルだけど、俺の精神がもたねぇよ!)」
奎が転移前に読んだ物語に出てきた死に戻りのスキルを有するキャラクターは一度は死に戻りによる精神的負荷に倒れた場面があった。
そして死に戻りと言っても制約があったりする。
「(回数制限はよくあるよな…あと口外禁止とか。死に戻る身になったから分かるけど他人に言ったら碌なことにならねぇだろうな。不死身の特攻隊長とか絶対に嫌過ぎる!)」
奎がそんなことを考えている間にも話は進んでいる。フォビアが絶叫し兵士が魔術を放ったがそれが無効化される。
「鬼神・メイ、侵入者たちを斬り殺せ。7人…いや5人残せばそれでいい。」
奎がハッとしたのはそんなときだった。
もう、死へのカウントダウンが始まってしまった。 メイが兵士の集団の中から歩き出した。あと死まで1分と言ったところだ。
「(やべぇ、どうしたら。このまま立ってても死ぬだけだよな。)」
奎が周りを見る。
西園寺と遠藤と東雲がみんなを守ろうとしている。
そして、目に入ったもの。それは柊。
「(柊って死んでも復活してたよな…)」
思い立った奎は勇気を出して周りをかき分けて倒れている柊の元へと走る。手を縛られているためかなり動きづらそうだ。
そして柊の元に辿り着いた奎は柊の体を揺さぶる。
メイの方を見るともう名乗りを終えようとしている。
「鬼神・メイ」
そう言って赤い刀を抜き、消えた。
いくら体を揺さぶっても柊は起きない。
そして奎はこんなことにならなければ絶対にしない行為に出る
柊の耳元に口を付くくらい近づけて叫んだ。
「あぁぁぁーー!!!!」
奎が叫ぶと一気に周りの視線が奎に降り注ぎ奎は少し萎縮してしまったが結果は得られた。
「ん……」
柊が目を覚ましたのだ。
奎が数秒で考案した『さっきの敵は今の友』作戦である。