第三話 「再会の憤り」
兵士によって斬られた柊の脇腹からはとめどなく血が出続けていた。
命が溢れる感覚が柊には確かにあった。
「クソ…クソ…止まんねぇ…」
そんな柊を見下ろして鉄剣を振り上げていた兵士は一つの違和感を覚える。
「ん?……おい貴様それだけの出血で何故…」
兵士が見下ろす地面には柊の血溜まりができていた。その大きさは大雨が降った後のグラウンドにできる大きな水たまりのサイズだ。
それにより兵士の動きが止まる。しかし奎たちは気づけない。
「これ…止めた方がいいんじゃないの…?」
皆が沈黙する中耐えきれなくなったのか1人の生徒が声を出す。
声を出したのは高めのポニーテルに左右で色が少し違う瞳を持つ女生徒、高梨梨乃である。
そして高梨を発端に高梨の周りの3人が口を開く
「止めるって言ってももう柊君斬られてるし…」
「もうあれは助からないね。」
「まあいいんじゃない?」
「「「柊君だし」」」
3人が同時に発した言葉は柊への鬱憤だった。
それに奎は若干同意しつつも同じクラスの仲間が死にかけているときにそんなことを言うのはどうなのか、そして
「…なんで先生止めないんだよ…」
奎たちの担任、西園寺星羅は普段から少しの揉め事も許さず校則を破ることも許さない。
しかし異世界に来てから…否。来る前から奎は西園寺への違和感を感じていた。
そんなことを奎が考えている間にも柊への鬱憤は加速していた
「あっ…兵士の人が剣を振り上げたよ!」
「柊…ご愁傷様だな」
兵士は柊から未だ漏れ続ける莫大な量の血への違和感を振り切り今度こそ鉄剣を構え,振り下ろした。
「さらばだ。」
「うわぁぁぁ!!!!」
柊は何かを抗議するように少し待てとジェスチャーするがそれは異世界人には届かなかった。
振り下ろされる刃は柊の肩に食い込みそして肉を引き裂き骨を断ち臓腑を切りつけ次の刹那に柊の体内から脱出し空に振り抜かれた。
「がばぁぁっっ!!」
右肩から胸にかけて切り裂かれた柊の体は右腕が肩から千切れ落ちそして柊は戻すように吐血して何も言わなくなった。
「……兵士長、終わりました。他の侵入者たちの扱いはどうしますか?」
「先程と同じく国王様の判断に委ねる。」
そう兵士長が言うと兵士たちは一斉に「ハッ」と言い部屋を出て行った。
そして部屋に残されたのは一つの死体と数十人の人だった。
柊というクラスの暴君の死にクラス中が驚き言葉を失っていた。
しかし
「ぐ…ぬ……あぁぁ!!!」
「えっ?柊くんが!!」
奎の前に座る1人の女生徒が口に手を当て驚く。名は、加藤美咲である。
「柊!?」
今まで押し黙っていた柊の取り巻きの今泉も思わず声を上げる。
柊の千切れた右腕は右肩から出た細い神経のようなものによって持ち上げられ次第に右腕を右肩に癒着させ柊の右腕が元の状態に戻る。
そして切り裂かれた腹は針で縫ったように閉じていき最初に斬られた脇腹の傷も閉じる。
「肉が繋がった…?」
今泉につられて奎も言葉をこぼす。
「ぬぅ……あ?俺生きてる?」
起き上がった柊はまるで寝起きのように頭をボリボリと掻き手をグーとパーにするのを繰り返す。
「柊!お前すげぇよ!!」
今泉がその場から立ち上がり柊の方に走っていく。
今泉は今生の別の再会のように手を広げながら柊に向かっていくが柊からの返答は拳だった。
「死ね」
「ぐはぁっ!!」
頬をぶん殴られた今泉はもんどりうって転がっていく。そしてそれを見届けた柊が奎たちのほうに歩いてくる。
「友達が死にかけてんのに助けにこねぇ野郎は死んだけ!!おいお前らも!聞こえてたぞ?俺が死にそうだったのに…」
柊が目を迸らせながらのそのそと歩いてくる。服が無くなり露出した右腕からは太い血管が隆起しドクドクと波打つ。
「転移でチートスキル手に入れるのは鉄板だけど…アイツかよ…」
奎が歯をギリギリと噛み締めながら誰にも聞こえないよう呟く。
奎の推測では柊は『不死』のスキルを手にしていた…