第二話 「暴動と制圧」
冷たい石畳に投げ出された奎たちはようやくのことで状況を飲み込むことに成功した。
そんな状況を整理しようと奎たちの担任である西園寺が口を開く
「まず、体調がおかしい子はいない?おかしいならすぐ言いなさい。」
沈黙。奎も自分の体調におかしなところがないか確認するがおそらく何もない。
「ん…いないみたいね。ならとりあえず全員いるか確認するから番号順に並びなさい。」
「デカ女〜!そんなことしてる暇あるなら早くこっから出ようぜ!」
西園寺の先生として完璧な非常事態の進行の中、口を挟んだのはクラス随一の問題児柊だ。
転移する前に脱いでしまったのか柊以外の生徒はブレザーを着ているのにも関わらず柊は着崩したシャツ一枚だ。
「そうだぞ〜!」
柊に呼応して声を出したのは柊の取り巻きの茶髪の男、今泉だ。
「静かにしなさい。貴方達の命が危ういかもしれないのよ」
「んなことあってもかかってきたやつ全員ボコボコにしてやるよ!」
柊がいけしゃあしゃあと腕の血管を隆起させながら言う。
「……みんな、並びなさい。」
「返す言葉もねぇかよ!」
「…そうよ。貴方には特にね…」
柊に煽られた西園寺はそんな言葉をボソッとこぼすと「さあ早くしなさい」と言い。生徒全員を番号順に並ばせた。すると、
「先生…アレク君とミハイル君がいません!」
そう言って先生に伝えたのは出席番号8番の奎の3番前の男、遠藤守である。
この男は熱い男であり口癖が「気合いだー!」というアニメに出てくるような発言をする。
そして奎が数少ないクラスの中で嫌いではない人物の1人である。
「そう…アレク君とミハイル君が…あっ奎君は知らないわよね?」
西園寺は形のいい顎に手を当てながら奎に聞く
「…えっ?あっ、はい。知りませんね…外国人の方ですか?」
まさか自分が話しかけられると思っていなかった奎は驚いてしどろもどろしながら西園寺に答えた。
すると西園寺は肩にかかり始めていた後ろ髪をバサッと背中の方は飛ばすと話し始める。
「そうね。アレク君とミハイル君はロシアからの転校生なの。それにしてもなんでいないのかしら…」
「もしかしてここは異世界で…転移にズレが生じた…とか?」
奎が異世界小説により得た知識を勇気を出して披露すると奎の後ろから声が響く
「確かにその可能性があるね…ここがもし君の言う異世界というものであるなら俺達が転移するときにズレが生じてアレク君達がいなくなったのかもしれないね。」
このザ・真面目な男子高生を体現したようなメガネをかけた男は木戸直人と言う名前であり見た目通りバカ真面目で木戸も奎が嫌いではない男の1人である。
そして奎は木戸が言ったことを聞いてほぼ自分が言ったことを復唱しただけだと思ったが、自分への言葉に反応してくれたことの嬉しさが勝っていた。
すると木戸の後ろの倉本綾乃という女子が木戸の言葉に反応する。
「でもアレク君たちなら1人でも生きていけそうじゃない?だってあの人たちすっごい頭いいじゃん?だから心配いらないと思うよ?」
「そうね。確かにアレク君たちは毎回テストで満点近い点数を取るし少し経歴も特殊だから大丈夫だと思うわ。」
西園寺がそう話をまとめると我慢できなくなったのか柊が叫ぶ。
「いつまでこんなとこにいんだよぉぉ!!!!」
その声は広い床も壁も石で構成された空間に響き渡り松明の炎が少し揺れた。
そして数秒すると大勢の足音が上から響いてくる。
「おっ?誰か気づいたんじゃね?ここだぞーーー!!!」
柊が更に大きな声を上げて足跡の主達を呼ぶ。
するとバン!と言う音と共に松明以外の光源がなかった空間に一気に光が入ってくる。
「何者だ!!貴様ら!!」
入ってきたのは数十名の鎧をきて兜を被り手に鉄剣を持った兵士たちだった。奎それを見て異世界であることを確信して少し口元が緩んだ…
西園寺は兵士たちの姿を確認すると生徒たちの前に出て両手を上げて宣言する。
「私たちは貴方達の敵ではありません!どうか寛大な対応を求めます!」
そう言うと兵士たちは鉄剣を下げ鞘に戻して顔の見えない兜から声を出す
「…貴様らはここで待っていろ!貴様らの扱いは国王様によって決まる!!」
「おいおい!こんなクソ寒いところで待っとけってか?」
奎も他の人たちもいい感じだと思っていた雰囲気をぶち壊したのはやはり、柊だった。
「なんだ貴様?侵入者の分際で意見するな!」
そう兵士は吐き捨てると部屋を出ようとする…奎は兵士たちが激昂することがなくホッとしていたがそれも束の間、柊はその場を飛び出していた。
「テメェ!調子乗ってんじゃねぇぞ!!!」
200センチはありそうな巨体からは考えられないほど速いスピードで走り柊は兵士たちにラリアットをかけに行く。
しかし兵士たちはそんな柊を見ても一切動揺することなく一斉に鉄剣を抜き柊に向け構えた
「止まれ侵入者、死にたくなければ。」
兵士のリーダー格の兵士が真ん中に立ち言う。
鉄剣を見た柊は恐れ慄いて引く…なんてことはなくそのまま突っ込む。
「うそだろ…?」
柊の怖いもの知らずにクラス中の生徒たちが驚き奎もおもわず声が漏れる。
「おらよぉぉ!!!!」
柊はラリアットの構えから切り替えて拳を振り上げて1人の兵士に狙いを定める。
「仕方ない。やれ」
リーダー格の兵士にそう言うと柊の狙いの兵士は鉄剣を振り上げた。
「ふぅぅん!!!」
柊の拳は…空を切った。
避けられると思っていなかったのだろう柊は驚きの表情を浮かべる。
そして兵士は振り終わりの隙を狙い柊の脇腹に向けて鉄剣を振る…
「ぐぅっ!!」
その一撃はまともに柊を捉えて柊の脇腹がバッサリ斬れて血が飛び出す。
柊は夥しい量の血を見て顔を青くして尻餅をつき後ずさる。
「う…ぐ…クソ!なんだよお前!!」
「……情けない男だ。兵士長、斬り捨ててよろしいですか?」
「ああ、構わない。」
リーダー格の…否、兵士長の許可をもらった兵士は腰を抜かし目に涙を浮かべる柊に向けて鉄剣を突きつける。
「おい…やめろよ…俺を殺すなんて!」
柊の考えなしの暴動によりここは戦場と化した…