第十四話 「魔石坑の囚人たち」
牢屋の鉄扉が重々しく音を立てて開かれ、看守たちが中に入ってきた。
「異端者ども、作業の時間だ!」
彼らは奎とシダルタを見るなり手に持った金属製の鎖のような武器をチラつかせて奎を外に出す。シダルタもそれに慣れた様子で続き、奎に向かってニヤリと笑った。
「さてと、初日から音を上げんなよ?相棒。」
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奎が連れてこられたのは、牢屋から少し上層の方へ上がるとある巨大な洞窟だった。岩壁には無数の松明が掛けられ、ぼんやりとした灯りが空間を照らしている。その中には奎とシダルタ以外の囚人もおり、ツルハシを手に取り掘り進め始めている。
「ここでの作業は魔石掘りだ。」
シダルタが奎の耳に向かってぼそりと説明する。
「魔石?」
「なんだ魔石も忘れちまったのか。魔石はな、魔力の少ないやつがデカい魔術を打つために使ったりするんだよ。それにアスフェリアの魔石は高品質らしくて結構高値で売れらしいぜ。もはやアスフェリアのお財布を支えているのは俺たちかもな?」
そう言ってシダルタはツルハシを2本持ってきて奎に一本手渡した。
奎は渡されたツルハシを握り、周りの人たちの見よう見まねで岩壁の中でも紫色の水晶のようなものがあるところにツルハシを振り下ろす。
「……意外と楽だな?」
奎は魔石をとんでもなく硬い物だと思い込んでいたが実際のところはツルハシがめり込んだ瞬間に魔石は割れ、その欠片が奎の足元に散らばった。
「確かに俺も最初はそう思ったぜ相棒。でもな、これを死ぬまで続けるんだぜ?」
「……は?」
奎の手が止まる。シダルタは淡々と続けた。
「異端者に人権なんざねぇ。ここに入った時点で終わりだ。つまり俺たちはここで一生魔石を振り続けるってわけさ」
冗談めかして言うが包帯に隠された顔が笑っていないことは奎も見て取れた。
「マジかよ……冗談じゃねぇよシダルタ。」
「マジだよ相棒…まあ、今さら嘆いても仕方ねぇ。脱獄するにしても俺はアウロナを見つけてからだ。」
シダルタはツルハシを振るいながらそう言った。奎はため息をつき、再び作業を始めた。
◇◇
しばらく無言で作業を続けていたが、奎はふと、ある違和感を覚えた。
「(なんか、ここ…)」
周囲を見渡す。異端者と呼ばれる囚人はみな男ばかりだった。
「(女が一人もいない…?)」
牢獄にいるときは気づかなかったがこうして大量の囚人を見渡すと、異様な光景に思えた。
「なあ、シダルタ」
「ん?」
「この収容所女いなくない?男女分けでもされてんの?」
確かに元いた世界の刑務所は男女が分けられていた。だがしかしこの人権を踏み躙ったような環境を提供する異端収容所にそんな配慮が存在するのか。そう奎は思った。
するとシダルタが目を丸くする
「……!!」
シダルタはツルハシを持ったまま固まった。そして周囲を見渡し明らかに動揺した様子で小声で呟く。
「…ほんとだ。マジで1人もいねぇ……」
「今気づいたのかよ」
「いや、考えたこともなかったっていうか……」
シダルタは眉をひそめ、頭をかきながら苦笑した。
「…俺、ここに入ってまだ3日しか経ってねぇんだよ。」
「え?あんな先輩風吹かしといて?」
「そうさ。てっきり長いこと捕まってたみたいに見えたか?」
シダルタはこの収容所の事情に詳しそうな雰囲気を醸し出していた。しかし、たった3日であの態度を取れるのはすごいと奎は思った。
「……嫌な予感がするぜ相棒。」
「妹さんか?」
「ああ。異端者に人権なんてねぇ。だからツラのいい女の異端者なんていたら……」
その瞬間シダルタのツルハシを振り下ろす威力が強くなった気がした。
「相棒、俺の妹を…アウロナを一緒に探してくれないか?」
その時のシダルタの目はいつになく真剣で、奎は断る言葉を思いつかなかった。
「ああ。妹さん、無事だといいな」
二人はツルハシを握り直し、再び作業を再開した…