第十一話 「異端の烙印」
モルグリムに言われた兵士が判術石を持ってきた。
「モルグリム様、判術石をお持ちしました。」
見た目はただの石板に赤い宝玉のような物が埋め込まれており、所々ひび割れ兵士の手から砂状になった石屑がこぼれ落ちている。
「ありがとう。戻っていいぞ…ふむ。ではスキルを判明させる前に一ついいか?」
モルグリムがそう言って西園寺に話しかける。
「はい…なんでしょうか?」
「お前さんたちの全員分のその珍しい服についたその金色に光る物をくれないか?」
西園寺は最初少し警戒していたが、なんだそんなことかという顔をした。
「ああ…ボタンですね。構いませんが、何個ほどですか?」
モルグリムはそう言われ少し顎髭を手でくるくるしながら考える。
「…全員分じゃな。一個づつでいい。よいか?」
「はい。みんなもいいわよね?」
そう言って西園寺が奎たちの方を振り向く。
その瞬間みんなが呼応するようにウンウンと頷いた。奎も参加している。
「良いみたいじゃな。では頂こう。」
そう言ってモルグリムはフォビアの側を離れ一人一人のボタンをモルグリム自身が回収した。
最初奎たちは西園寺に全員分集めようとしたがモルグリムが一人一人行くと言ったからだ。
そして奎の番がくる。奎は急いでボタンを制服から引きちぎりモルグリムに手渡す。
「ど、どうぞ…」
「うむ。ありがとう。」
モルグリムは礼を言うと奎のボタンを回収しその他のクラスメイトたちのボタンも同じように回収し、フォビアの側に戻った。
「お前さんたちの金色のボタンは受け取った。では判術石を使いスキルを判別するとよい…では最初は大きな声を出したお前さんからいこうぞ!」
そう言ってモルグリムが指差した先にいたのは奎だ。
奎は驚き自分に指を差しながら言う
「え、お、俺ですか?」
「そうじゃよ。今の状況があるのはお前さんのおかげかもしれないからな」
奎がたじろいでいると後ろからクラスメイトたちの声が耳に入る
「神代!お前が行かなきゃ誰が行くんだよ!」
「神代くんすごかったしね!」
「神代いけ!」
奎の背中を後押しする声が聞こえ、それに背中を押され奎は一歩踏み出す。
そのまま歩き出し奎はモルグリムの元に着く。
するとモルグリムが石板を差し出してくる
「こいつに手をかざすんじゃよ。スキル持ちであれば神様の声がするはずじゃ。じゃがワシらには聞こえんから判明したら教えるのじゃぞ?」
モルグリムは念押しするように最後、強く言った。
奎は頷き石板に手をかざした。
すると石板が輝き出し光を放つ。そして放たれた光が収束すると…
「え?」
「なっ…!」
奎とモルグリムは全く一緒のタイミングで声を漏らした。フォビアも目を丸くして奎の手元を見ている。
なんと、判術石が粉々に砕けたのだ。奎の足元には石の欠片が散らばり赤い宝玉は輝きを失い黒ずむとすぐにパリンと音を立てて割れた。
「(俺、なんかやっちゃったのか…?あ!もしかして俺の死に戻りが強力過ぎた〜とかか!やっぱ一応チートスキル判定なのか!?)」
場の空気が凍りつき誰も喋らなくなってしまった。奎は浮ついた妄想をしているがモルグリムの顔は険しい。
すると周りにいた兵士たちが奎の元へ集まり鉄剣を抜き奎に突きつけた。
「っ!え?は?なんで…?」
奎は両手を挙げる。
するとモルグリムが口を開く。
「久しぶりに見たぞ…判術石が割れるのは。」
「(おっ!やっぱ俺の死に戻りのせいか!いや、じゃあなんで今俺こんな大量の兵士に囲まれてるんだ?」
モルグリムが歯をギリギリとさせながら、言った
「貴様異端連合か!コケにしてくれおって…!」
そう言ってモルグリムがドンと壁を叩いて叫んだ。
だが奎は何が何か分かるわけがない。
「えっ?えっ?お、俺別に何もしてな…」
「捕えろ!!」
そのモルグリムの号令で兵士全員が奎に飛びかかり奎の姿はすぐに見えなくなり兵士の山が形成された。
完全な異常事態。
西園寺がモルグリムに言う
「モルグリム様!これは何かの間違いです!彼は…奎君は…」
その額には汗が滲んでおり必死な弁明といった感じだ。
それにモルグリムは厳しく返す
「間違いなどではない!判術石はスキルを判明させる一方でもう一つの役割を持っておる!それは…」
「悪しき異端連合の者の判別じゃ!!」
奎は兵士に捕えられ手に絞められていた縄が更に強化され足も縄で縛られ口は猿轡のようなものを付けられ、奎は完全に抵抗するための機能を奪われた。
「モルグリム様、異端収容所ですか?」
そう一人の兵士がモルグリムに聞くとモルグリムは血管を隆起させて返す
「当たり前じゃろう!そんな穢らわしい者と会話しておった事実が穢らわしい!!最深部に捨ておけ!!」
そうして奎は木の棒に手と足をくくりつけられ豚の丸焼きのような状態で兵士たちに鉄剣を向けられながら運ばれる。
「(なんでなんでなんで!!俺は何もしてないのに…そうだ!みんな!!)」
奎が一筋の希望を見出しクラスメイトたちの方を見る。奎は確信していた。誰かが助けてくれると。
だがーー
「(なんだよ、その目…その目で俺を見るなよ!さっきまであんな目じゃなかったじゃねぇかよ!なんであんなジジイ一人の意見でお前らは意見を…人の見方を変えるんだよ!!クソクソクソクソ!!!俺のおかげで助かってるんだぞ!俺の!俺の…!!」
奎を見るクラスメイトたちの目は温かなものではなく、奎が嫌だったあの軽蔑の目だ。
神代奎はクラスから追放された…