帰路の灯火
『帰路の灯火』
私は灯台になりたい。
あなたという船が帰ってこれるように。
いつかまた、あの頃のあなたに戻ってもらえるように。
私はあなたの帰り道を照らす灯台になりたい。
「消えろ! 消えろ! 人間やめろ! わかったぞ、虫め!」
叩かれても、蹴られても、私は平気です。
わかっているから。あなたはきっと戻ってくれると、わかっているから。
「違う違う違うそうか。そういうことか。いないんだ。わかった」
でも辛いのはあなたが私を見てくれないこと。
殴られても、叩かれてもいい。私を見て下さい。
私はあなたの灯台になりたい。
見てくれないと、探してくれないと、灯台にはなれないのだから。
「見られてる、ここは危険だ……遠い違う。わかった。ここは違う」
駄目。私を見てくれないと。
見て。お願い。妄想でも狂気でも幻覚でもいい。
私を見て。
「逃げるんだ……ここは居るべきところじゃない……逃げなきゃ、逃げろ逃げろ、違うよ、ここは違うよ……」
見て。私を見て。
見て。見て。見て。
見て。
「赤い」
熱い。熱い。熱い。
燃える。
「赤いね」
でも、見てくれている。
「赤いね」
私はやっと灯台になれたんだ。
燃える手を伸ばす。
ここがあなたの帰る道だよ。
「あは、あははははははははは」
燃える。
炎が世界を燃やす。
全てが消える。
でも、あなたは私を見ている。
燃える。二人で。
嬉しいね。
『帰路の灯火 おわり』