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幼馴染は息をしない  作者: Sin権限坂昇神
8/13

第八峠 元友人 長谷川(はせがわ)真ゐ(まこい)

僕は生きたかった

もっと広い心で、気にしない体で……

でも現実は、僕を生まれた瞬間から引き裂いた

「……僕は女になりたかった」


 5年前。下校中の小学三年生・撫島隆明(なでじまたかあき)河川敷(かせんじき)の橋下の草むらで(うつむ)いて座り込む少年(・・)に出会った。黒いランドセルを背負っているので小学生だと解る。でも一度も見たことがない。今日は友達が風邪で休んだので学校の宿題を持って帰る役目がある。だから早く帰りたい。帰らねば――――。


いつの間にか隆明は少年の(となり)に座っていた。ただ、なんだかこのままにしておけない気がしたけど、同時に一緒にいるからなんだという気持ちもあった。ただ一緒にいて、空を(なが)めて、向こうの川を眺めて、上で時々走る電車に反応しては時がゆっくりと流れていった。頭乃(かしらの)、怒ってるかな……。撫島は幼馴染の頭乃以外の友達がいなかった。

 気まずい。分かり切った展開なのにどうして体が動いてしまったのか。用事があるのに。あっちから話してこないかな~と、時々チラリと横を見る撫島。一時間を超えた時、ついに少年の口から言葉が解き放たれた。


「僕は女に産まれたかった。でもなれなかった」


 今でも泣き出しそうなくらいの(ふる)え声は、瞬間、撫島の記憶に深く刻み込まれた。






 僕は、産まれた瞬間から違和感があった。違和感の正体に気づいたのは性が目覚めた4才の時。あそこにあれがあるのがおかしいと母に言うと、


「男なんだから当たり前じゃない」


 母の言葉は僕の本能に強く響いた。これ以上どんなことを言っても意味はない、僕の本能はそう判断し、それ以上の詮索(せんさく)を止めた。この性で生きよう、4才の時にそう決めたのだった。

 だが、我慢はいつか爆発する。日に日に自分の体が嫌いになっていく、その度に僕は気分が悪くなったり学校を休んだりするほどの腹痛に悩まされるようになった。8才になってほとんど学校に行けなくなった時、両親は心配して病院に行かせるが、心の病は僕が伝えない限りどんな医者も解らない。ならば、と精神病院に行かせようとする両親を僕は全力で止めた。何度も止め続けると両親は何かを察したように、それ以上僕を病院に行かせることを止めた。これで僕は晴れて自由の身になった。もちろん男であることには変わりはないので我慢は続く……。


 さらに一年が過ぎると、僕は死にたい願望に(とら)われるようになった。死ねばどんな苦しみからも解放される。9才になって僕はどうやって死のうか考えるようになった。もちろん死ぬ勇気はないので考えるだけだ。

 そんな時に彼に出会った。何も言わず、ただ横に座って時折僕を見るだけ。何しに来たんだろうかと思ったが、無視することにした。明日、明後日(あさって)も同じ場所で同じ時間で座っていると同じタイミングで会うようになった。でもやることは同じ。ただ横に座ってるだけ。いい加減ウザったくなった僕はついに口を開いた。


「僕は女に産まれたかった。でもなれなかった」


 そう言うと、彼は驚いた顔で僕を見た後、(しばら)くしてこう言った。


「なれないの?」

「うん……」

「どうしても?」

「……うん」

「そうなんだ」


 取り留めのない会話。でも、それでも、僕の(うずたか)く積もった僕の(よど)んだ心は少しだけ軽くなった。四度目に会った時、僕は死ぬ以外の事を考えていた。それが何だったか今となっては思い出せないけど、僕は彼にこう言った。


「僕が女じゃなくても、僕を好きになってくれる?」


 今にして思えば明らかに異常な発言だ。でも彼は、名も知らない彼は間を開けず言った。


「好きってどう意味?」

「……一緒にいたい……とか?」

「うーん。じゃあ、好き……かなぁ」

「……」


 彼がどう考えながら言ったのかは分からないけど、彼の言葉で僕の心が軽くなると同時に、別の感情が生まれるのを感じた。それは今になって解る。


 “好き”なんだ、と――。


 でも、それ以降彼に会うことはなかった。四度目の時、僕は彼の事を考えながら帰路に着くと、玄関には既に両親がいた。それともう一人、僕と同じクラスの『霧弄罵(むるば)鏡夜(きょうや)』が両親と仲良さそうに立っていた。

霧弄罵鏡夜。彼は有名な医者の後を継ぐ有望な生徒で、趣味は人の体を(いじ)ること。霧弄罵の趣味を理解したのは僕の体が弄られた後だった。






(眼鏡……返してもらえなかったな……。目、悪いのに――)


 はあ、と長谷川(はせがわ)(まこ)ゐはため息をつきながら、下駄箱を開け自分の(くつ)()き替える。いつも下校は何時も誰よりも早かったが、いじめっ子のリーダーに捕まれば最後、誰よりも遅い時間になる。何故誰もあの男を糾弾(きゅうだん)しないのだろう。追い出さないのだろう、そうすれば全てか解決するのに……。

そして僕は、あの男に言い返すことも出来ずに(あらが)う力もなく、ある事を引き受けてしまった。


“あいつが帰ってくるまでお前が俺のおもちゃだ!”


 あいつはきっと撫島くんだ。僕が不登校の時にクラス替えでやってきた生徒だが、あまり見たことがない。はあ。誰があんなモンスターを生んだのだろう。僕は駄目な人間だ。生まれてくる世界も性別も間違えた人間の失敗作。それが僕なんだ。

 真ゐは自嘲(じちょう)気味(ぎみ)に口角を上げ、学校を後に――


「ねえ」


 ふと、昇降口の中央に声が響く。すぐに振り向くが、そこには誰もいない。真ゐは自分の目を何度も(しばたた)かせてみるが、あの消え入りそうな声の主は見えない。疲れてるのかな……と思いながら、真ゐは学校を後にした。






「隊長、頭乃峠爪限無(かしらのとうげつめかぎりなし)(胴体)と長谷川真ゐが接触しました」


 真ゐが学校を後にする場面を一部始終監視する者二人。昇降口から(はる)か先、グラウンドの一番端の草むらに全身を隠していた頭乃の右足と左足であった。右足だけが頭乃で他は包帯で身を包んだ体操服姿の少女と、左足だけが頭乃で他は黒い布とタイツで全身を包んでいる少女は、父の命で撫島隆明に最も合わせてはいけない超重要人物・長谷川真ゐを四六時中見張っていたのだ。右足が朝昼、左足が夜深夜で交代しながら見張っていた。横で爆睡(ばくすい)している左足を他所(よそ)に、右足頭乃はあの一瞬で現れた自分の胴体に怒りを覚えながら父の命を待つ。右足頭乃は前から思っていた。胴体(どうたい)頭乃は何を考えているのか分からないから隊長(父)の邪魔になると進言したが、父は――


自分(・・)を信じられないのか。もしもの時は前たちが止めればいい。だって――”


 と言って笑っていたが……。この事態になれば、回収して監禁(かんきん)するしかない。私なら絶対そうする!

 右足頭乃がそんなことを思っていると、(しばら)くして父は口を開いた。


〝    〟


 父の言葉に、右足頭乃は言葉を失った。「ナゼ?」右足頭乃の頭はその言葉でいっぱいになった。――その時。


「あいつ……追わないの?」


 左足頭乃は右足頭乃の肩に手を叩いた。右足はハッと正門を抜けようとする長谷川真ゐを確認すると、「追うよ!」と(あわ)てて真ゐの監視を続けるのだった。






 正門を抜けた先、真ゐはいつもの道を歩いていた。何事もない地獄の日常。死ねなくなったことで更に増した絶望が真ゐの体を帯びていた。あの男さえいなければ……。いっそのこと殺してしまおうか……いや、自分すら殺せなかった僕が他人を殺せるわけ……真ゐの心は9歳の時様に淀んでいた。

 

 またあの時みたいに彼が来ないかな……はあ。


溜息(ためいき)とは……幸せが逃げてしまうますね?」


 !? 住宅地の境、人一人が通れる道に差し掛かった瞬間、またあの声が聴こえた。綺麗で何の淀みのない清らかな声。


「え……、ちょ!」


 不意に真ゐの体が左に(かたむ)いた。これは真ゐの意志ではない。無理やり左腕を掴まれ引っ張られたのだ。普通なら自己防衛が働いて引っ張った相手に攻撃するのだが、声の先を見た直後、真ゐの自己防衛が働くことはなかった。そのまま狭い路地に(いざな)われるように落ちていった。

 その後、両足頭乃二人組は忍者の(ごと)く静かに走って路地のある所まで追い付いたが、そこに真ゐの姿形は忽然(こつぜん)と消えていた。

 長谷川真ゐ。外見はまだ考え中なので、ご自由に想像してください。とりあえず頭乃と正反対にしたいなあと思っております。まさに頭乃の天敵、ライバルの登場。でも頭乃魂が出てきません。すみません出すの忘れてました。次回出そう!

 そういえば、次のプリキュアは青らしいですね。青って主人公キャラにいなかったんだな……と思いながら、「スカイ」ってことだから……うーん。どんな物語になるか気になります。デリーシャスパーティーはやっぱりハピネスチャージもだけど男女の仲が気になりましたね。まだデリパは途中までしか見てないので、後半見ないとですが……。というわけで次回。頭乃胴体が気になります! 超重武者強化おめでとう! 強すぎて禁止はやめてー!!!

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