第六峠 両手の見解
増え続ける幼馴染に撫島は……。
「撫島~はよこ~い!」
頭乃峠が手を振っている。それ以外はよく見えない。頑張って頭乃を追いかけると、頭乃は小さくなっている。五才くらい背丈だ。頭乃が振り返ると目の前は公園。自分たちはさっそくいつも遊んでいる遊具が鉄棒しかない公園で、唯一遊べる砂山で時間いっぱい遊びまくった。お城を作っては崩し、作っては崩しの繰り返し。いつも同じ遊びをしていると、ついに頭乃は飽きたと言って、そのまま仰向けに倒れて寝た。自由奔放にもほどがある、と当時の自分も思ったけれど、自分も同じように寝た。背中がむず痒かゆくて寝られなかったけど空は見えた。雲が横に並んだり、疎らだったりで空は飽きない。「くかー」と横で寝息を立てる頭乃は違うらしい。
こんな日がずっと続くと想った。
音が少し騒がしくなった。どれくらい寝ただろうかと目を開けると、同じ顔の頭乃がわんさかいた。人数的に十人くらい? もうわけが分からない。
元気いっぱいの頭乃。
落ち着いた頭乃。
勉強好きな頭乃。
手に一杯のお菓子を抱いて美味しそうに食べる頭乃。
いつも怯えている頭乃。
色気ある頭乃。
いつもぼーっとしている頭乃。
怒りんぼうの頭乃。
泣き虫な頭乃。
意味深な笑みを浮かべるだけの頭乃。
後は……頭乃が十一人、頭乃が十二人、頭乃が……。
「うっ、う……」
撫島隆明が唸りながら眠る中、現実では隆明の生死を分けた岐路に立たされていた。
「撫島―!!!」
アタシにそっくりな女が撫島家の庭から行儀よく入ってきたかと思ったら、いきなり撫島に向かって殴りにかかってきた。この獣の腕が撫島を狙う。これを食らえば撫島はただじゃ済まない。しかも撫島は寝てる。誰かが助けないと――落ち着け。叫ぶ暇があるなら何かできるはず。なんたってアタシはプラモデルなんだから……! って、そういえばプラモデルって何だっけ? 自分の説明書読んだけどあんましわかんなかったし…………。ああ、もうとにかく!
(ロケットパーンチ!)
プラモデルと化した幼馴染・頭乃峠(以下略)は昔のアニメでやっていたロボットアニメを思い出し、無我夢中で手を空中に向かって殴った。すると――、
「峠ちゃんの手が!?」
同じ現場にいた隆明の母が驚いて手を覆い隠す中、頭乃峠の手首から先が無事アニメのように発射された。峠の拳は急加速し、獣女の左顔に直撃。そのまま獣女は奥の分厚いコンクリート壁に吹っ飛ばされ、ドンっと大きな音を立てて激突した。こうして撫島家は峠により二度目のダメージを受けたのであった。念のため言っておくと、飛ばした拳は手首と金属製のワイヤーで繋がっていて、手首の骨が出っ張っている所がボタンになっており、それを押すと拳を元に戻すことができる。
「まだだ!」
峠はすぐさま獣女の元へ接近。獣女の体を激しく揺らしてみるが、反応はない。気絶しているようだ。ホッと胸を撫で下ろす峠だったが、このままにしておくわけにはいかない。とにかく……、
「おばちゃん、縄!」
「……は、はい!」
呆然と立ち尽くしていた撫島の母は、峠の突然の甲高い声にまたも驚きつつも、台所に偶然あった縄を持ってきて峠に渡すと、獣女を縛り上げた。だがしかし、このまま放置するわけにはいかない。峠はある(・・)行動を取った。
当の撫島は殺されそうになったにもかかわらず、ぐっすり二度寝中。本当に呑気な幼馴染だと峠はため息をついた、その刹那。
「はあぁ」
峠の背後でため息が響いた。撫島家の居間が瞬く間に悪寒が走りぬける。声は峠に似ているが違う。今度はどんな奴だろうかと、峠は恐る恐る後ろを振り向くと……、
「左腕が勝手なことしてごめんね~。あ、アタチは穏便に行く派なんで~、今日は帰りま~す」
「……へ?」
場の凍り付いた雰囲気が一気に抜けていく。顔は至る所に化粧を施してあり、服も今の流行なのだろうか独特な服を着ている。というか肌色が茶色に焦げていて所謂『コギャル』というやつだ。峠はぶるっと寒気を覚える中、コギャル峠は終始にこにこした顔で言葉を続けた。
「あ、アタチは『コ峠』って呼んで? 同姓同名だとめんどくさいし~。後は……そうそう頭乃の右腕なんでよろしく~……後はないか」
「右腕ってことは、こいつは――」
「そ、左腕の『ヒヒ乃』」
峠は万が一のことを考えて獣女改めヒヒ乃とコ峠を見張り続けるが、二人に意識を集中し続けるにも限界がある。……どうする? もしヒヒ乃が目覚めたら……と峠は一瞬ヒヒ乃に意識を向けた。その隙にコ峠は動いた。
「じゃっ! アタチはこの辺で~、今度は隆ちんの家壊さないようにするから~、ゴメンね隆ちんママ」
と、隆明の母に手を合わせて謝罪する。隆明の母はどう反応していいか分からず、とりあえず引き笑いをした。峠はすぐに襲ってこない敵だと認めると、今一番聞きたいことを質問した。
「ねえ、なんで撫島を襲ったの?」
「ん? だってパパが隆ちん殺せって言うから」
「……なn」
「じゃ、もう帰るね~」
「待って!」
「ヒヒ乃も返してもらうね~」
「!??」
いつのまにかヒヒ乃を抱きかかえたコ峠は色々な真実を突き付けられ挙動が遅れてしまった。コ峠はこうなることを分かっていたのだろう。余裕な表情で、開けっぴろげの庭の引き戸から軽やかなステップで手を振って帰って行った。
朝十時に差し掛かろうとする今日、自分と同じ顔を三度見た峠は、自分に似た顔から言われた言葉を何度も反芻するのだった。
だんだんと見えてきました。あ、やっぱりそこまで見えないかも。峠は最終的に何人に分裂するのか、作者の私は不安で堪りません。というわけでポケモン新作で、とあるキャラに似せられたので(割っちゃプリマジのあうる)、結構楽しく遊んでます。好きなポケモンは……どうでしょうかね。最近のポケモンは本当にいろいろ手を出してるな……と関心してます(石炭ポケモンとか)。
といわけで次回も峠と撫島から広がる世界お会いしましょう……では!