第四峠 幼馴染の胴体と魂のにらみ合い
あんな事故の後、こんなことになるなんて思いもしなかった。
五年も経ってた――とか、それどころじゃない!
アタシ!
何で――!?
むにゃむにゃむにゃ……。そんな寝言を垂れながら幼馴染『頭乃峠爪限無(胴体)』の胸の中に埋まる少年は撫島隆明――を他所に、二人の同一少女がバチバチと睨み合っていた。一人は自分を頭乃(以下略)の胴体と言いだし、もう一人の少女に向かって「お前は頭乃の魂だ」と言い放ったところである。
「……あんたの言葉をどう信じろって?」
そう魂と呼ばれた頭乃の言葉に、頭乃(胴体)は顎をクイと上げると人差し指をピンと立て更に続けた。
「もちろん、私だけではありません。右腕、右足、左腕、左足、そして頭。胴体と魂のあなたを合わせて6つが合わされば完全な頭乃峠爪限無として再び人生を歩むことができるのです」
「じゃあ、何でバラバラにしたの? 最初から一つにすれば……」
「それは……」
と、胴体の頭乃が答えようとした時、胸に埋もれていた撫島が苦しそうな声で息が出来る場所を探し始めた。このままでは起きてしまう、そう感じたのだろうか。胴体の頭乃はすぐさま撫島を元の布団の中に優しく寝かせると、足早に先程入ってきた窓へ移動した。
「今はまだ私を知られるわけにはいきませんので。では……私はこれで――」
ぺこりと一礼して去ろうとする頭乃胴体。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! もっと詳しく――」
「最後に」
「!」
「6つに分かれた人格とバラバラの肉体。もし一つになってしまえば、解りますよね?」
「……ゴクリ」
頭乃胴体の言葉に、頭乃魂もまた理解した。
「6つの人格は果たしてどうなるか――」
胴体の頭乃はそう言うと、ハラリと木の葉のように窓から消えて行った。次から次へと襲い来る真実の大群に魂の頭乃は気絶しそうになった。だがそれよりも気になること。それは……。
「なんか……アタシより胸大きくなかった……?」
お椀型の胸。最終的にそこが気になって他の真実はどっかに飛んで行っていた。
「ああ、それは努力の賜物ですよ。胴体を撫島様の理想に近づけるために頑張ったのですよ……?」
「!!! って、帰るんじゃなかった!?」
「あ、ではこれで――」
バッと忍者の如く再び消え去った頭乃胴体を追って、二階の窓を前のめりに乗り出した。だが、今度こそ帰ったのだろう。人が作り出した光と鳥の鳴き声と自然が作り出したオレンジ色の夕日以外、頭乃胴体の姿は跡形もなくなっていた。
そんな中、撫島は寝ぼけ眼で周りを見渡すと、再びモフモフの布団に入って眠りに就いたのだった。現在16時過ぎ。すっかり夕方になっていた。
撫島が目を覚ましたのは夜九時。5時間近く眠っていた撫島はもう一度眠りに就こうとしたその時、すかさず魂の頭乃のチョップが撫島の頭上に振り下ろされた。
「イタっ!」
「ちゃんと加減したからね? ってことでアタシのご飯よろしく」
ぐ~とプラモデルと化した幼馴染の腹から聞こえる。そこも人間と同じなのか。と、起きたばかりでボーっとしていた撫島だったが、段々と意識が鮮明になっていく。そしてハッと何かを思いついたように、頭乃がバラバラに入っていたプラモデルの箱を一回の居間から持ってきて、その中から何かの辞典かと思うほど分厚い説明書を開いてペラペラと何枚か捲りだした。
【7846番目に作っておいた『栄養ドリンク-幼馴染バージョン-』の中に水を入れます(水は何でも構いませんが、ジュースや酒は絶対やめてください。壊れる原因になります)。その後、箱に付属している『〈W〉特製ジェル』を入れ、7840番で作った『栄養ドリンク-幼馴染バージョン-の蓋』を閉め、三十秒ほどよく振ります。はい完成!】
「……」
頭乃魂は撫島の後ろから説明書を覗き見て一言。
「はい作って! 今すぐ!」
「……お、おう」
頭乃のいつにない勢いに押されるように、撫島は説明書を片手に寸分の狂いもない完璧な栄養ドリンクを完成させた(因みに居間にある水道水を使用)。頭乃は勢いよく撫島から栄養ドリンクを搔っ攫うと、腰に手を回し、天を仰ぐようにドリンクを一気飲みした。
「ぷはぁ~生き返るー!! 味しないけど……」
「おい、少しは感謝しなさい」
「あ、ごめんごめん。ゴチになります!」
「奢ってはないけど……、まあいいか。……あ」
と、気の抜けた声を放つ撫島に、頭乃も「ん?」と返した。
「一日一回体を洗えだって。今から風呂洗うけど、先入る?」
「あ……うん」
撫島の家の風呂に入るのは初めてだと気づいたのは、頭乃がお風呂に入ってすっかり眠たくなった後だった。前もって説明書を読んでおいた撫島の話によると、寝る(=体力を回復するための行為)にはお尻に謎の注射器をぶっ指すらしい。その注射器が充電の役割を果たしていて、注射器のお尻にはコードが伸びていた。仰向けで寝ようとすると、その注射器が邪魔で眠れない。渋々(しぶしぶ)横で寝ることにした。深夜十二時前。プラモデルでもウトウトするのかと思いながら、撫島に注射を指してもらって寝た(注射嫌いで絶叫しようとする頭乃を口で抑えながら頑張って刺した)。
うとうとする目が閉じる前、頭乃魂は今まであったことを考察しようとし、眠気が襲ってきて止めた。
(とりあえず寝よ。色々ありすぎて限界……)
もう一人の頭乃の話をいつ撫島に話したらいいかを考えながら、頭乃魂は目を閉じたのだった。
深夜二時を回ろうとする中、撫島家を見下ろす少女が一人。
「くっくっく……。あれがなでじまの家か……」
双眼鏡を覗き込んでほくそ笑むは、くるりと回る動物の尻尾を生やした少女。どこまでが人でどこまでが獣か、曖昧な姿の少女は木の上で仁王立ちの状態で見ていた。
その名も……、頭乃峠爪限無-左腕-」
ふぅー。ちょっと時間が空きましたが。もうちょっと進めないとうんこの出が、いや物語の初めの出を出し切ってません。早いとこ読んでくれる皆様に待ちぼうけさせないように頑張るぞー!
というわけで次回。新たな刺客編で……。