第三峠 二人目の幼馴染
幼馴染は悩む。
「ここか……」
会いたかったよ。……五年も待たせてごめんね、撫島くん。
懐かしい家。まだ私が一つだった頃から何も変わってない。でも……。
二階の窓を見る。白いカーテンがかかったままだ。まだ昼の四時だというのに……。
「……」
なんだか胸騒ぎがする。急がなきゃ――。
金の短髪少女が意を決してドアノブの方へ手を伸ばした。
「や…っちゃった――?」
再会して三十分。まさか抱き着かれたことにびっくりして突き放して気づいた時には――。ゴンッ。鈍い音と同時に撫島が倒れていた。幼馴染の峠はすぐさま撫島の元へ駆けよった。
「ねえ起きてよ! 死んでないよね! ……まさか……死ん……だ?」
「うっ……」
「あ、生きてた」
震えながら苦しそうに呻く撫島を前に、峠は何をどうすればいいか分からずあたふたと慌てていると、突然、居間の襖が開いた。峠は体をビクつかせながら襖の方を見ると――、
「全く……だからあなたは脳筋バカと呼ばれるんですよ?」
髪色や服装は違う。でもそれ以外は自分と全く同じ少女は、眉を顰ませながら横たわる撫島の元へ足早に移動して、いつの間にか持っていたトートバックから銀色の立方体の何かを取り出した。見た目は全色同じ色の3×3のルービックキューブだが、同じ顔の少女がちょっとそれを持つ手に力を込めた瞬間、それぞれの一面から小さなミミズ(?)が出てきて、そのまま撫島の背中の中に侵入していった。何で侵入できたのか驚いた峠だったが、ミミズ(?)の周囲が発光していて光で出来ているように見えた。
「って、お前は……誰だーーー!!!!????」
「うるさい人殺し」
「!??????」
同じ顔の少女は非情な言葉を吐きながら峠を睨む。見つめ合う二人……。するとハッと峠は口を開いた。
「お前は一体何じゃと言っている!」
「私こそが、真の頭乃峠爪限無ですわ。に・せ・も・の・さん?」
こいつは一体何を言っているんだ。という顔で峠は、自分を峠と名乗っている少女を負けじと睨む。こっちも負けてはいられない。
「あ……アタシだって峠……えっと爪の限り無し? ……だー!!!」
「なあに?」
「なにって――」
――ガチャッ 「あら? 誰か来たのかしら……?」
峠が叫んだ直後、撫島の母が帰ってきてしまったのだ。一組多い靴を発見、不思議に思っている所から、まさか同じ顔の女は合いかぎを持っている? という思考は峠にはなく、とにかく目が飛び出んばかりの顔になっていた。だが、やばい。同じ顔が二人いたら撫島のおばさんを驚かせてしまう……。
って、あれ? あいつは――??
真の峠(以下略)を名乗る少女は、いつの間にか消えていた。居間には驚きすぎて顎が外れた峠と、さっきまで苦しんでいた撫島が今ではすっかり落ち着きを取り戻した状態で横たわっていた。
「本当に峠ちゃんのご両親に連絡しなくていいの?」
撫島のおばさんにそう言われけど、もちろん断った。だってアタシは今生きているかどうか分からなかったからだ。プラモデル、魂の液、何の異常もないこと自体がどこか気持ち悪い自分の肉体全部……。ここで考えてもおばさんの邪魔になるだろうと思って、一旦撫島を元居た二階の撫島の部屋まで運ぶことにした。どう考えても撫島の方が重いはずなのに、全然重くなかった。
「何かいる?」
「いえいえ。アタシ今チョー元気なんで! あ、そだ。なんか手伝えることありますか? 今めっちゃ力有り余ってるっていうか……」
「大丈夫よ、大体やること終わったし。……じゃあ暫く隆明をよろしくお願いね……」
「はい!」
……。撫島が起きるのにそんなに時間はかからないだろう。突然現れた変な奴。アタシと同じ顔の変な奴は箱から出したうねうねした生き物で撫島を治した……んだよね。
「ああ~もう、何なの……アレ?」
情報が大きすぎてパニックになりそう……落ち着け……深呼しろ、アタシ……。少しでも気持ちを整理しなくちゃ――。
まず、自分は死んでる? 死んでない?
プラモデルってプラスティックとかで作るやつだよね?
アタシ……もう美味しいっモノ食べらえないの?
そんで、あの崖崩れの時…………、
「頭乃―!」
「撫島―!」
伸ばした手はどんなに伸ばしても届かなかった。その後、伸ばした手はすぐ下の崖にぶつかって痛くて痛くて……、それと同時にいつ着地する分からない怖さで頭がいっぱいになっていた。――そして、大きな音がした。それから今日、この部屋で目が覚めるまで私は何の間もなかった。身体はいつの間にか五年も成長していて、撫島や撫島のおばさんはすっかり年を取っていた。
私だけが取り残された……そんな気分がどこか寂しい。私だけ五年分の記憶がなくて……、
「あ」
そういえば撫島は五年経って、どこか苦しそうな顔してた気がする。撫島のおばさんはいつも通りに振舞っていたけど、そこか撫島を心配そうな顔で見る時がある。五年の間に何があったんだろう……。何も知らない。あいつのこともアタシのことも……。
「あ~あ、アタシ……」
――死んだほうがいいなんて言っちゃだめだ!
「……」
布団の上で目を瞑る撫島。そんな撫島の頬を摩る。
「ねえ、アタシって何だろ……。魂の液体ってやつが本体……みたいな? はは……」
乾いた笑いは静かな部屋に飲まれて消えた。あ~この感じ苦手だ。もっと騒いでほしいのに……。おいお前、聞きたい事沢山あるんだぞ。もっと遊びたいし――、
「そうですね」
「!????」
いつの間にか撫島の部屋の窓を開け、あの同じ顔の女が姿を現していた。峠は驚いた拍子で撫島の頬を思わず抓まんでしまったが、まだ起きない。
「また撫島くんを傷つけようとしているんですか」
「!?? 意味わかんない! いい加減自己紹介しなさい! ……あ、後、撫島を助けてくれて……ありがとう……」
峠は驚きと怒りを乗せて同じ顔の相手に指を突き付け言い立てた(最後の方は小声だった)。
「あら? もう言いましたけど? ……ああ、そう。まだあの事知らないですか」
「あ……のこと?」
したり顔でこっちを見る女に、峠は慄きながらもまだ指を下ろさない。
トン。
と、床を軽く叩く音がした途端、気づいた時には既に撫島の顔を自分の胸に埋めさせるような格好で座っていた。そして――、
「私は頭乃峠爪限無の胴体、首から肛門まで、が、本物ですわ」
「……は?」
「そしてあなたは……魂、頭乃峠爪限無の魂だけ本体の、ある意味で(・・・・・)偽物ですわ」
「……は~?????」
胴体峠は、魂峠に向かってニコリと微笑んで真実を告げたのだった。
頭乃峠爪限無-かしらのとうげつめかぎりなし-
長い名前の少女はまさに天使爛漫、喜怒哀楽がはっきりした性格で、撫島は何事も石橋を叩いて渡る慎重派な性格。撫島の母はふくよかで割烹着の柄のテーマは『海』。夫はまた後程……。という中に突如現れた少女とは……的なあらすじですね。
この峠のキャラはもちろん元ネタがあります。約二名の幼馴染キャラが融合して出来ていますが、皆さんどんなキャラを思い浮かべましたでしょうか。次も色々とキャラも増えていくので、お見逃しなく……。