第二峠 心は九才、身体は十四才
頭乃峠爪限無-かしらのとうげつめかぎりなし-
名の長い少女が”プラモデル”として帰ってきた。
二人の少女の運命が動き出す。
「おりゃあー!」
「うわぁ!?」
「よし二連勝~!」
「うっ……次こそ」
「三連勝っ……あ」
「ふぅ……阻止」
五年前のあの日まで、僕とあいつは学校が終わればいつも家でゲームをしたり、外で冒険したり遊んでいた。外はあいつの遊び場で、僕はゲームを主な遊び場にして遊んでいた。感覚派のあいつは時々ゲームで真価を発揮する時がある。色んなゲームを持ってきて挑んでは、そのまさかという場面で逆転負けしてしまうことがあって、遊ぶのが飽きなかった。
それが今、五年の時を経て蘇る。まるでさっきまで遊んでいたかのように、テレビ画面をにらめっこしながら僕のゲームを勝手に遊んでいた。
「え~と、これをこーして、あーして……できた! って、これ机か? なんか変な形になってる……」
声はあいつそのもの。後ろ姿もどこかあいつと重なる。でも五年前に死んだあいつが、こんなに大きくなって戻ってくるはずが……、ん? ……ちょっと待て。あいつが着ている服も、裾の下からチラ見する下着も、ヘアゴムも……それだけじゃない、この中で一番あり得るはずのない、あいつが普通に成長して手に入れるはずがない大きなあの垂れ乳……!
「あの箱に入ってたプラモデル!??」
人生で二番目に大きな驚きが自分の思考と体を同時に止めた。すると僕の声を聞いたあいつが、後ろを振り返り、目と目が合った。瞬間――、
「お、撫島じゃん! いつまで寝てんのよ。学校終わったんなら、はよゲームしよ」
まるであの山の事件がなかったかのように、自分が死んだ事柄がまるごとどっかへ消えたように、五年前と同じようにあっけらかんとした顔で言って、テレビ画面に向き直った。
「お? ……じゃねえよ!? おまえ死んだはずじゃ――」
「ああ、そだったな」
と、あまり驚かない頭乃に、僕は肩透かしを食わされたようにへたりこんだ。不意にカレンダーを見る。もちろん五年前が消えたわけじゃない。近くにあった鏡を拾って見るが、五年も経った自分の顔はいつも通りのキモ顔だ。
――きめーんだよブス!
――早く死ねよ
――さあさあ! みんなお前が死ぬのを待ってるぜ~?
「「「「死ーね! 死ーね! 死ーね!」」」」
嫌な記憶を思い出した。顔が少し変なだけで、変な趣味なだけでこうも――、
「隆明!!! いつまで寝てんね(怒)!!!!!」
ガチャリ――という音の前に、母さんの怒鳴り声が部屋中に響き渡った。
居間現在。頭乃と母に向かい合うように座った状態で――、
「もう~、生きてるんなら生きてるって言ってよ~!」
こんなに早く来るとは思わなかった。まさか昼過ぎまで寝てたなんて……。でも、どうする。幼馴染がプラモデルになって帰ってきたなんて言えるわけ……。でももし嘘をついても、頭乃の両親に連絡されれば即アウト。今頭乃の両親は海外へ行ってると母さんから聞いた。……まあ、証拠もあるし……いやいやいや! やっぱり駄目だ。もっと考えな――、
「隆明」
母さんは俺の動揺する顔を見かねたのか、優しい言葉で息子の名前を呼んだ。
「正直に話して? あんた一人でどうにかできるなら話さなくていいから……」
その言葉がとどめになった。覚悟を決めた僕は一年間前に届いた箱の中が頭乃だったことを、バラバラになっていた頭乃を一年かけて組み立てたことを話した。
何秒経っただろう。第一声は――、
「「アタシが(峠ちゃんが)プラモデル!??」」
頭乃と母の共鳴だった。どうせ信じてもらえないだろうと、部屋から持ってきたあの頭乃が入っていた箱を持ってきてみせると、母さんと頭乃は目をどでかく開けて箱の中の残りの部品をまじまじと見た。部品には別バージョンの髪型や胸部、服、メイクフェイスなどが残っていた。そして当然と言えば当然なのだが、そのどれも頭乃にぴったりなサイズと肌色だった。
「うわあ……、生きてたと思ったのに……まさかプラモデルにされてたなんて――」
「ねえねえ、ぷらもでる? ……って何?」と言った母さんは突然思いついたようにスーパーへ買い物に出かけていて、今頭乃と二人きりだ。自分がプラモデルだと聞かされて以来、無言が続いている現在。“魂”という液体を入れて動いている頭乃、確かに、これは生きて帰ってきたとは言えないのだろう。僕は恐る恐る、今頭乃に知ってもらいたい事実を語った。
「さっき説明書を読んだけど、
その一 … 動きます。感度もあります!
その二 … 喋ります。相手がどんな言葉でも解りますし、その言葉で返せます!
その三 … 充電装置があるので電気で動きます。ご飯は電気!
その四 … 幼馴染の形状の詮索はお止めください。後々ややこしいことになります!
って、書いてある」
説明書を頭乃に分かりやすく説明すると、頭乃は背伸びをする猫の如く机に倒れ込むと大きくため息をついた。
「はあ~、もう何なの? 最後の『詮索はお止めください』って。これ完全に闇の組織的な奴らに捕まってこんな体に改造されたんじゃん! 完璧そうだ! 絶対そうだ! しかもあたしの大好きなオムハンバーグがもう食べれないなんて……」
「……」
己の現状を見れば誰だってこうなる。今ここにいるのが本当にあの頭乃かどうか。今の僕にはどう受け止めていいか分からなかった。でも――、
「ああ~もう、これなら死んだほうがましだぁ」
頭乃の言葉に、僕は反射的に体が動いた。五年前の事故を思い出して……いつの間にか頭乃を起こし思いっきり抱きしめてこう叫んでいた。
「いやだ! 死んだほうがましだなんて言っちゃだめだ。どんな姿で帰ってきても、僕は頭乃に会えてとっっっても嬉しいんだー!!!」
「!(…………今の感じ……何だろ) って、なに抱き着いてんの馬鹿ー!!!」
頭乃は一瞬呆けたように僕の言葉に聞き入った。けど、すぐこの行為が恥ずかしいことだと確信すると、バッと勢いよく僕から離れた。僕はその衝撃で宙を舞い、後方にある分厚い壁に思いっきり頭が激突し、そのまま気絶したのであった。
所変わって鯛安芸町の鯛安芸中学校。主人公が通っている学校だが、主人公が不登校になってから一年が経ち、主人公をいじめていたクラスの生徒数名はまた別の子を代わる代わるいじめていた。そんな朝八時半ごろ、継続して同じクラスを担当することになった教師が教室に入るや、いじめを発見して第一声が「バレてないだろうな?」「は~い(加害者生徒の声)」「ならいい、バレないようにやれよ。俺も大変なんだからな?」だった。
あ、と教師が廊下の方を向くと、「もう入っていいぞー」と声を上げ、足早に一人の生徒が入ってきた。髪は金の短髪、一言でいえばスレンダーな体型の転校生。その名は――、
「父の転勤で、アメリカから来ました『頭乃ダルク』と申します。九歳まで国内にいましたので、そこまで不自由はないと思いますが、至らぬ点がございましたら何なりと言ってください」
「急遽決まった転校生だ。お前ら、もう不登校なんかさせるなよ~?」
「はーい」
ダルクは教師の「不登校」という言葉に反応した。
「先生、不登校とは……」
「ああ、そういえば言ってなかったな。一年前に不登校になった生徒がいて、今でも来てくれないんだよ。誰だったけな……まあいいか。ここの生徒にいじめられたとか言ってな。いじめられたくらいで不登校とか、どんだけ弱いだろうな?」
「そう……ですか」
ダルクは教師の方から2の1のクラスを見渡した後、ふぅーと小さくため息をついて向かいの奥の黒板に向かって軽快な声で言った。
「このクラスのことは解りました。それじゃあ私も不登校になりますね♪」
そう言うと、軽快な足取りで2の1を後にして去っていった。教師は慌てて引き留めようと追いかけていく。残されたクラスは一同にどよめいた。一連のダルクの行動、さきほどダルクが観たクラスの中に一人、体中が傷だらけで、机の上に酷い誹謗中傷が書き殴られ、彼が使用する場所、物があらゆる形で傷つけられていた。それを見てダルクはこのクラスにそれを止める人が誰一人いないことを悟ったのだろうが、そんなダルクの心を2の1の生徒は知る由もなかった。
「あ~あ、あんなクラスに配属されて可哀そう……。撫島くん、今向かいますね」
廊下を颯爽と歩くダルクはそう言いながら、晴れやかな顔で学校を後にしたのだった。
名前の長い名前になったのはまあ、いい名前が思いつかなかったという理由です。ごめん、ヒロイン! でもいつかこれでよかったと思えるように頑張ります。というわけで、友達に勧められて始めたプラモデルを作っているうちにこんな物語が出来ましたシリーズの始まりです。もっと遊戯王のプラモデルこい! ワールドトリガーのプラモデルでもいいぞ! 髪結いのプラモでも――、