第十三峠 動き出す幼馴染(胴体)
それぞれは元は一つだった。
だが、7つに分かれた幼馴染は別々の行動にとろうとしていた……。
今作の幼馴染こと頭乃峠が二階で修羅場を迎える数十分前のこと。
撫島の母と峠が台所で洗い物をしていると峠が「撫島んとこ行ってくる」と言って二階に向かったことをいいことに、洗い物の残りを終わらせ趣味の編み物をしていた。今日は無難にマフラー作り。昨日から始めてまだ短いが、少しずつ長くなっていくのを感じるのが堪らない。途中で色を変えるのもいいし、何なら飾りも付けようか……。
そんな母の耳にある鳴き声が聞こえた。
――キャンキャン!
「あら……何かしら?」
台所の方から動物のような鳴き声。もしかしてこの家に迷い込んだのだろうか。と、母が心配そうに台所に向かい、窓を開けて見ると――、
「あら」
左腕が人の手でそれ以外が獣の体の少女が猫のお座りポーズで待っていた。顔立ちがどこか峠に似ている人間の女の子。それでいて明らかに人の量ではない体毛が少女の体を覆っている(左腕以外)。中途半端な人の子は、どこか見たことがあるような……。撫島母が怪訝な顔で眺めていると、
「撫島いるか?」
猫の声の少女が人の言葉を発した。その声を聴いた撫島母は目を丸くして驚き、昨日のことを鮮明に思い出した。
それから場所は二階の撫島隆明の部屋へ。隆明の部屋に胴体が人間、手足が機械の頭乃峠が強襲してきて3分が経った。隆明の部屋から3キロほど離れた真ゐ(い)が通う【惢罫見江中学校】にまたも顔立ちが同じ顔の頭乃峠(右足が人間、それ以外が包帯だらけ)が立っていた。真ゐ(ターゲット)を追って再び学校まで戻った時、左足の峠と意識を共有していた右足の峠の頭に隆明の部屋で起こっている全てが入ってきた。このまま胴体のアタシが魂を取り込む気ならどうなるか。……あいつを止められるのは現状このアタシしかいない。
右足峠は自分が置かれている状況を把握すると、ある行動にでた。
撫島家二階現場。そこではプラモデルの峠が木っ端微塵に胴体峠によって破壊された直後。撫島隆明は砕け散るプラモデル(おさななじみ)を見てあの瞬間を思い出した。
――五年前、撫島と今生の別れをしたあの記憶。僕と頭乃は30回目の山に登った時だ。この町はいくつもの山に囲まれているため、色んな山に登ることが出来た。だから頭乃の他にもよく県外から登りに行くと聞いたことがある。なのでよく自分たちが山を登るとよく人とすれ違うことが屡あった。でも30回目の山は誰一人すれ違うことがなかった。別に今までと変わらない昼頃に山に登って帰るだけ。この山も他の山とそれほど違わない高さで、親にも危険はないと聞いたので、今までと変わらない長袖長ズボンと水筒と屋上で食べる弁当と帽子と虫スプレーをかけて行った。それが最期の山登りになるとも知らずに……。
そういえば少し変わったことと言えば……頭乃は今までにないほど元気に駆けまわっていたことだろうか。いつも以上に声を張り上げ何度も足の遅い僕を呼ぶ声。
「どうしてそんなに元気なの?」
「なんかわかんない……けど、何だかめっちゃ力沸くんだよねー!」
僕も負けじと頭乃の後を追いかけ……、追いかけようと水筒の水を一杯飲んで……気づくとまだ山の中腹の所で水筒の中身が空になっていた。……そうだ。あの日は日が照って暑かったっけ。だからすぐ飲み干したんだ。でも頭乃は全然平気といった様子で、一滴も水を飲まずに駆け上った。そこに崖があるとも知らずに……。後に聞いた話では直前まで崖はなかったそうだ。よりにもよって僕らが上る時に限って崖ができたらしい。僕の体力ではどんなに速く走っても、頭乃に届くことはなかっただろう。頭乃のあの僕の手を絶対に繋げると思っている顔が忘れられない。運動神経ゼロの僕になぜそこまで期待できたのだろう。自分がもっと体を鍛えていればよかった。そうすればあの手を……、あの時、あの瞬間、絶対あり得ないと思って、思いこもうとした後の未来がここにある。
また起きてしまった。目の前に手を伸ばしたはずの頭乃の腕が、体が何もかも粉々に砕けるさまが見える。頭乃が崩れていく。もう一度会えた頭乃の姿が心の中と目の前で同時に崩れていく。……また、何もできないのか。また、間に合わないのか。絶対にあり得ない……そんなわけないのに――、
「…………あ」
(……っ! 雰囲気が変わった?)
隆明の手足の付け根を機械の手足で押さえつけていた胴体峠が異変に気付いた。機械と人間では圧倒的に機械が強いはず。なのに隆明が声を零した後から少しずつ、押さえている機械の手足が震え始めた。
(もう一人のアタシと言っても、一番元の体に近いアタシが死ぬのは嫌よね……でも!)
胴体峠は本格的に隆明を抑えにかかった。今までの力の二倍の力、でも隆明の骨が折れない程度の力で押さえにかかった。ピタリと撫島の体は動かなくなった。
だが、
「あああーーー!!!」
隆明はもう一度腹から声を張り上げると、機械の手足が再び軋み始めた。だめだ。これ以上抑え続ければ隆明の手足の骨が確実に折れる。胴体峠は悩んだ。このままの力を使い続けるべきか、緩めるべきか。1、2、3秒と時計の針が動いたその時、
――ボキボキっ
隆明は自らの両肩の骨を脱臼させ機械の手から自分の手を解き放つや、すぐさま腰から上の力を全開にして砕け落ちたプラモデルの元へ這いつくばってでも向かおうとする。一度体勢が崩れると機械といえど、立て直すことは難しい。隆明は駆け寄るついでに力強く体を一回転する。右回転がだめなら左回転、それがだめなら右回転を繰り返すと、抑えていた機械の足の体勢が崩れ、
「くっ……! (なんて力!?)」
ついに機械の手足の胴体峠に尻もちをつかせた。倒れた胴体峠を無視して隆明は勢いそのままに崩れたプラモデルに這いながら近づいていく。このまま二人を一緒にさせるわけにはいかない……そう思った胴体峠は機械の右腕を隆明へ伸ばして、もう一度押さえつけようとした。
その時、
「もう……アタシのせいで、撫島が悲しむとか……マジで無理だから!」
崩れ落ちたプラモデルの中から血管のように張り巡らされた人の形を成した頭乃峠が現れ、魂が揺らめきながら声を発してきた。魂だけでも人の声が出せることが証明された瞬間である。
――トン
同時刻。惢罫見江中学校では、右足峠が軽やかに天高く跳躍した。人を超えた脚力で8メートルを優に飛んだのだ。右足が人間でそれ以外が包帯で巻き付いて中が見えない右足峠は父の命令に忠実で、父を第一に考える女の子。左足峠のいる位置を計算し、南東の方を向いて得心した。
(そこにいるね……撫島隆明……!)
父の憎しみの根源は、自分も同じ。この距離からでも撫島家二階の様子がよく分かる。右足峠の改造した目は十キロ先まで見ることができる。頭乃の中で一番隆明を憎む右足峠は左手を撫島隆明に向けて、父の言葉を思い出す。
(隆明を見つけ次第殺せ……だがもし胴体と接触していた場合、真っ先に胴体を回収しろ)
丁度隆明が胴体頭乃から脱出した今が好機。ある人物に標準を定めた右足峠は、右手のひらから鋭く尖った楔を抉り出すと――、
「胴体ロックオン……発射!」
と声を上げたかと思えば、右手のひらから楔が勢いよく飛び出し、楔の後ろの鎖が次々と手のひらから解き放たれた。先頭の楔は風一つないこの瞬間を最高出力で狙うのだ。一度発射された楔は伸びれば伸びるほど速度を上げ、1秒も経たずに撫島家二階に到達。二階の窓の傍にいた左足峠と真ゐ(い)を一瞬で通過すると、そのまま胴体峠の胸から下の部分をクルクルと巻き付いて5回くらいでしっかりと巻き付くと今度は、
「ファイトォーいっぱーーーっつ!!!!!」
右足峠は大魚を吊り上げるかの如く、鎖を両手で掴むと勢いよく自分の方に引っ張り上げた。胴体峠は全てを察すると、最後の力を発揮した。
「まだ……諦めない!」
機械の両足が伸びたかと思えば、そのまま隆明の体を巻き付いた……かに見えた。
「お前に渡すか!」
隆明に巻き付こうとした機械の足の前を獣の少女が隆明を押しのけ、撫島の代わりになって機械の足に捕まった。
「ちがっ、アンタじゃ!?」
胴体峠が思っても見ない展開に動揺して機械の足を緩めると、獣の少女……左手峠(ヒヒ乃)がガクリと床に崩れ落ちた。その後、胴体峠は巻き付いた鎖に引っ張られ、ズルズルと二階の部屋から強引に連れ去られていった。撫島は朦朧とする意識の中、ふと後ろに目を向くと、悲しそうな顔でこちらを見つめる胴体峠の顔が見えた。
しーんと静まり返る撫島の部屋。まさに嵐が過ぎ去ったように、ボロボロに凹んだ床と崩れ落ちたプラモデル、の上に浮いている魂だけの幼馴染と、獣の少女と撫島隆明……そして二階の窓の外でその一部始終を見ていた後ろ姿の左足峠と胴体峠に連れ去られていた真ゐの5名がそれぞれの気持ちで茫然と佇んでいた。
ここで漸く中学校名判明。多勢が動くと頭がぐちゃぐちゃして大変でした。でもこの物語を書くってことはこう言うことは慣れておかなければ……。後色々見たい映画も見れました。第一にプリキュア超絶面白かったです。そういえばナルト一家って全員プリキュアだったなあと思いました。遊戯王もユベルパックは絶対欲しいし、今後の映画も見たいものが色々ありそうなので期待して待とうと思います。面白い実写映画やドラマないかな~。今んとこアニメと特撮が一番好きです。ナースのお仕事が実写ドラマで好きですね。……では次回。今回暴れたからゆっくり回になったらいいな……。