07話 討伐対象の初戦闘
さて、今日は初の戦闘をしたいんだが……。
俺はステータスを確認してから、おもむろに拠点から顔を出して周囲を見回した。
それにしても、最近海が荒れてるんだよなあ。
特有の荒れている波と魚たちの騒々しい動きを鼻先で感じる。
これがいわゆる魔力反応というやつだろうか。
この数日で環境は激変していた。
環境変化――何らかの要因での環境の移り変わり。
例えばこの海で言うと、食物連鎖のピラミッドが崩れたり、魚たちが大移動したりする変化だろうか。
そうするとその変化についていくためにモンスターたちは進化したり、居場所を求めてまた違う場所に移っていき、その先でもまた環境変化が起きる。所謂バタフライエフェクト。
そうだ、何で海が荒れてるかわかる? 大石。
【……】
だよなあ。
何となく大石に聞いても意味のない質問はわかるようになってきていた。本当にAIと似ていて、客観的かつ明瞭な回答が可能な質問以外は受け付けないらしい。にしてはたまに人間臭いところもあるから侮れないんだが。
さて前置きは置いておいて。
ついに戦闘に挑むぞ!
環境変化は少し懸念材料だが、それこそ早く強くなった方が環境変化についていけるだろう!
いつもの格下を狙う捕食とはワケが違う、何が起きるかわからない初戦闘。
まず相手にするのはあいつ!
頭がデカくて丸っこい形の姿をしたちょっと可愛いモンスター。
何だろう、フグ?
【「フグもどき」です】
もどき仲間!
別に嬉しくはないな。
大石、俺はあれに勝てるか?
【お答えしかねます】
だよなあ。
まあ「もどき」だし、モンスターとしての格は俺と同じか、それ以上だろう。
良い勝負になる。俺も成長したし次の獲物としてはうってつけだ。
よしいくぞ!
水魔法発動!
いつものごとく渦を発生!
その場に縛り付けられたフグもどきは、回転しながら硬直しているぞ。しめしめ……。
ん? かと思ったら、瞬間的に膨れ上がった!?
はー……超でっかい。
って、うわっ、毒々しい色の弾が飛んできた!?
こいつ、そんな魔法を! もどきの風上にも置けないやつめ!
「加速」を使い、その攻撃をすんでの所でサッと避ける。
被弾した岩の塊を見ると、ジュワァ……ブクブクと見るも無残、焼けただれたように溶けていた。
毒弾! 間違っても当たりにはいきたくないな。
俺はなおも毒弾を吐きかけてくるフグと距離をとり、攻撃をかわしつつ、中距離から加速を加えた渦の刃を放り投げた。
サメもどき、怒りの鉄拳!
――シュパン! と円盤状の刃はまるでバターでも切るように、滑らかに対象の体をスライスしていった。
あれ?
なんだ、案外楽勝だったな。あの毒弾は怖かったが、膨らむ巨体は見かけ倒しか。
さて、目の前に残っているのは事切れたフグ。
こいつ食えるのか?
どう考えたって毒あるよな、毒弾を吐いてきたわけだし。うーんこの間の電気草みたいに運良く耐性ついたら耐えられるか? 少量ずつならいけるか? どうするかな。
なあ大石、こいつの身ってやっぱり毒あるよな? 俺でも食えるか?
【毒はありません。捕食可能です】
あ、そう。それならいただきます。
バクン!
うんうまいうまい。いつも食べている魚たちよりも味はしないが、身はしっかりと、どことなく高級感のある……
【――能力「巨大化 Lv:1」を取得】
ン?
うぐっ、腹が……痛ァい!!
吐き気とともにガチガチと震えだした俺の体。
灼けるような痛みが腹を襲いはじめ、泥の中に倒れ込んで転がる。
お前えええええ!! 何で毒ないって嘘ついたの!? メッチャクチャ腹痛いし吐き気はするし汗はダラダラでしんどいんだけど!?
【「毒」はありません。「毒能力」は持っています。現状 ”安全に” 捕食することは不可能です】
ああ“毒”ではないし”食える”ねえ! 食べたあとのことは知らない!
ってそういうトンチはいらないんだよ! ああっ、この腹痛どうにかしてくれ!
【「鉄の胃袋」を取得しますか? 消費マナは――】
イエスだ詐欺師め! もう何マナでも持ってけ!
【かしこまりました】
ぐえう……無事取得できたのか、ひどい腹痛はじょじょに和らいでいった。
全く酷い目にあった。こいつわざとやってるんじゃないだろうな?
【「鉄の胃袋」の効果で体に毒の棘を持ったフグやクラゲ、サンゴなど様々なモンスターが消化できるようになりました】
はいはいそうですか。そうやってご機嫌取りするなら最初から騙すなよな、ったく。
で? これは、毒まで消化できるようになるスキルなのか? ただ毒を無効化するのか?
「○○耐性」とはどう違うんだ?
【「鉄の胃袋」はあなたの胃で本来分解できない毒や物を分解し消化が可能となります。
「耐性」はその名の通り根本的な耐性を持つことが可能となります】
ってことは鉄の胃袋は耐性の下位互換スキルなのか。
どうして耐性を取得しなかったんだ? そっちの方が手っ取り早いだろ?
【耐性はスキルとは違い、環境と遺伝の相互作用によって発現するものです】
はー……なるほど。つまりひどい環境、例えば極端だが有毒ガス室に居続ければいつか耐性を獲得できるかもしれないと。まあだからといって毒物を食い続けて毒耐性を手に入れようとするなんて正気の沙汰ではないし、する気も起きない。とても現実的とは言い難い。
結果的にとはいえ、このスキルは取って良かったか。
消化できる・食べられるものが増えたっていうことは成長できるスピードが今より数段跳ね上がったってことだろう? 良いじゃないか!
詐欺師まがいの声にもめげず、勝利と新たなる発見、新スキルに気を良くした俺はまた他のモンスターたちにも挑んでいった。
シュパン。
【――能力「鉄の牙」を取得】
シュパン。
【――能力「硬化」取得】
あれ、もしかしてなんだけど、
シュパン。
やっぱり――
――俺っていつの間にか相当強くなったんじゃないか?
サメもどきなのにまるで負ける気がしない。ほとんど渦カッターで一発KOだ。加速との相性が良いということもあるが、もしかすると水魔法のレベルが2に上がったということがかなり大きいのか?
推測としては、だけど。
単純な能力自体はモンスターを倒せば結構簡単に手に入ること、能力取得時の消費マナも案外リーズナブルなこと……それらを加味すると能力はおまけで、戦闘力を底上げしてくれるのはモンスターレベルと、そしてそれ以上に魔法のレベルやマナだという気がする。
モンスターレベル+(魔法レベル×マナ)=戦闘力 みたいな。
推測に過ぎないがもしこの式の通りなら魔法レベル1→2がいかに大きいのかがわかる。
今まではこれでも慎重にいっていたつもりだったが、俺は案外この海でうまくやっていけるのでは?
なんならもうこのエリアでのトップオブモンスターと名乗っていいよね?
ハーハッハッハ、今や俺こそが最強ォ!! ひれ伏せ雑魚ども、愚民どもぉ!!
『――探せ!』
ひっ!?!?
『絶対に見つけ出せ!! 海竜王様の宝玉を奪った奴を、必ず!』
唐突に降って湧いた怒声、あまりの剣幕に、俺は咄嗟に岩陰に隠れ、身体を縮こまらせた。
それからそーっと頭を出し、様子を伺う。
人のような姿、しかし体表にはどこか見覚えのある蒼の鱗を纏っている。
背中には赤いヒレ。その手には三叉槍っぽい強そうな武器を持っていた。
あいつらは、竜人?
……海竜王様って、あのアビスドラゴンのことだろ?
え、もしかしてアイツら、アビスドラゴンから俺が宝玉を奪って逃げたと思ってる?
というか何なら俺がアビスドラゴンを殺したみたいに思ってない?
で、あいつらが俺を殺気立って追っていると。
ひええ……。




