03話 討伐対象と大いなる意思
【――ユニークアイテム:『水の王冠』を取得】
【――能力:『眷属化』を取得】
……えあ?
ふと目を覚ます。夢の中で何か聞いた気がしたんだが、気のせいか。
ここはちゃんと異世界で――夢ではない。
俺は、そうだ。あの場から逃げてここまで来たんだ。
で、この岩穴に逃げ込んで眠ってしまって、今目を覚ました、と。
うっ……ぐううう。
安心感とともに腹がぐうぐうと主張してきている。
だが外は危険だ、出るべきではないだろう。どのくらい時間が経ったかはわからないが、あの冒険者がこのエリアまで浮上してきていてもおかしくはない。
ここは身を潜めているべき。
たかが食欲だ、石でもかじって耐えよう。
石と言えば、と俺は大きく口を開き、青いアレを吐き出そうと試みる。が、何も無い。
あれ、おかしいな。
あの宝玉が無くなってる?
くわえたままここまで逃げてきたから、途中で落としてきてはないはず……。
えっ、もしかして飲み込んだ!?
ど、どうしよう、あ、あれは形見なのに……。
ぐううううぅぅ!
ああもうダメだ。耐えられない。
もちろん宝玉のことも気にかかるけど、今はこの空腹問題の方が先だ。
思い切って穴から顔を出し、辺りをきょろきょろと見回す。
鮮やかな魚影、静かに揺れる海藻――今のところ危険ではなさそうか?
まず何を食べる?
目に入るものは当然、初めて見るものばかり。とてもではないが何に手を出して良いのか今の俺には判別がつかなかった。
ゲームの中では背景にすぎなかった植物や生物はその一つ一つが生きていて、全てに特徴があるはず。
例えば毒だ。そんな危険は避けたい。
本来のサメもどきなら人を食べに浅瀬まで浮上するだろう。それで逆に冒険者の餌食になる、と。
流石に返り討ちにはされたくないのでこれはナシ。人を食べるなんてグロいし。
しかし、食べ物を食わなければそれはそれでいつか死ぬ。
むむむ……!
ああもうとにかく“腹を満たせるもの”なら何でもいい、食うぞ俺は!!
うおおおおおおお!
とにかく口を目一杯開けて穴から飛び出し、目の前を通り過ぎようとした魚の大群へ無策で突撃しようとした――。
【" 腹を満たせるもの "でサーチします……検索中】
お?
ピタァッ! と動きを止め、辺りを見回す。
大いなる意思=大石と名付けた謎の声がまた頭の中に響いてきたのだ。
今何て言った大石?
サーチ? 検索? 何か教えてくれるのか?
じゃあまず、お前を消す方法で。
【検索キャンセル。オフに……】
あっ、あっ、嘘ウソウソ!!
ごめんつい冗談だよ、サメジョーク、サメジョーク!
邪険にして悪かった。続けて、どうぞ!
【……再度検索……】
大石はまた動き始めた。
さっきと違うのは少し機嫌が悪くなっているのか渋々という風に声が変わったところだけ。
悪かったって。
ついふざけはしたが今は藁にもすがりたい状況。その状況を飲み込めてはいないのだからなおさらだ。
【検索完了】
【周囲に存在する”腹を満たせるもの”は現在2種類のみ。「レッドハウス」と「イエローバラック」です】
どうやら、この声は食べ物の在り処を教えてくれるようだった。
ふんふん。レッド何とかとイエロー……名前覚えにくいな。
特徴は?
【レッドハウスは赤い小さい魚類モンスター、イエローバラックは黄色のいかにもマヌケそうな魚類モンスターです】
ひどい言いようだな。小さい赤色と黄色ね、了解……。
穴から出た俺は彼女の言う通り、素直に赤と黄色の魚を探す。
見つけた!
岩穴の中に赤い小さめの魚が数匹身を潜めている。あれではまるでモンスターには見えないがどこかしらで俺の知っている魚とは違う部分があるんだろう。ただ少なくとも骨格はほぼ魚と変わらなかった。
今の俺でも安全に食えそうだな。
俺はそのまま思い切り、巣穴の反対側から体当たりしていった。そしてすぐさま出口に蓋をするように口を開けて待つ。衝撃に彼らが慌てて飛び出してきた所を、がぶり。
えっ。
うまっ……うんまっ!?
ただの生魚のはずだけど、これは……。
この味覚の変わりようには我ながら驚きだ。
その勢いのまま、次の巣穴、次の巣穴へ。結局、付近にいる小魚は全部食べてしまった。
うますぎっ、ご飯ってこんなに美味かったのか!?
もっと食いたい! 食欲が止まらない!
もういっかいサーチしてくれ! もういっかい!
【検索中……後方3メートル……イエローバラッk】
すぐさま後方へ飛んでいった。
お次は黄色の魚。オラァ!
うまい!
ああー……沢山食べた。一ヶ月分くらいは食べた気分。
ありがとう大石、助かった。
できればその調子で質問に答えてくれる? 何で俺はサメもどきに?
【お答えしかねます】
ですよねー。
うん。彼女には答えられないことの方が圧倒的に多い。チュートリアルやガイドと言うよりは「使い勝手の悪い知恵袋」という表現しかできない。
これに頼り切りではあまりに不安だった。
使えね……いやいやこれも嘘だよウソ! サメジョーク、サメジョーク!
*****
彼女にここ一帯のサーチを続けてもらい、俺は近場の赤と黄色を一心不乱に腹に詰め込んでいた、その時。
唐突にあの紋章がドクン、とうずいた。
うっ!?
【水マナが100を突破しました。能力「水魔法Lv:1」を取得可能です。100マナを消費して取得しますか?】
えっ、魔法?
その謎のアナウンスとともに俺の紋章は熱を持ち、眩しいほど強く光を放った。
身体の中心から周囲にかけて、鮮烈な青い光はさながら”魔法陣”のように広がっていく。
……おかしいな。
サメもどきって魔法を使えるモンスターじゃなかったと思うんだけど。




