表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/19

18話 討伐対象と招かれざる冒険者たち

 

 薄暗い教会、その屋根裏部屋。ここは床に着地するとギシリ、と鳴って抜け落ちそうになるほど老朽化が進んでいる。

 だがそのお陰で外部の人間は来ず、今の俺にとっては丁度良い隠れ場所になっていた。

 その小さい窓から俺は顔を出し村を見下ろす。目的は冒険者の観察だ。

 依頼に伴って村にやってくる冒険者たちは一人、また一人と増え一つのパーティーとして集結していた。

 全員がそれぞれ刀剣や銃や弓など危険物を携帯し、表情をギラつかせ村を歩き回っていることだろう。

 性別や体格はそれぞれ違っても、全員死線を越えてここまで生存してきた猛者共なのだ。

 彼ら冒険者は歩く死亡フラグと言っても良かった。

 もちろん死亡するのは俺!

 くそう、何でこうなる。やっと身の安全を確保できたと思ったのに。


 俺は折角手に入れた村を手放したくない気持ちと、危険なこの状況下から逃げ出したい二つの気持ちで板挟みにあいながらも彼らの観察を続行。


 しかし――よくよく見てみると、思わぬ状況になっていることに気付いた。


 待て、おかしいぞ? ……あれっ?

 どうした冒険者!?


 ――そう、彼らがめっちゃ弱そうなのである。

 村にやってきた冒険者の一団は、ほとんどが古ぼけたボロい装備を身に着けていた。

 継ぎ接ぎしすぎて元々何の装備だったか分からないようなもの。型落ちのレンタル品のようなもの。

 惨憺(さんたん)たる有様だ。

 そんな装備で大丈夫か?

 よく言えばギラギラとしている彼らの顔は何といえばいいのか、荒んでいるような気がした。覇気こそあるものの、無理やり戦場に駆り出されてしまった新兵のような荒み方だ。

 それにあまり鍛えているようにも見えない。村人の方が贔屓目なしに彼らより血色良く健康だろう。あいつらムキムキだし。

 考えてみるとこの世界の冒険者は体を酷使したり酒や肉ばかり食べて、荒んだ生活を送っているのだ。

 とはいえ、化物揃いの冒険者ならあの森にいるモンスターくらいは余裕だとは思うが……。

 思ったよりも頼りない彼らにあの森を任せてしまって良いのか分からなくなった俺は、念の為イリスに頼んで、彼らが何の依頼を請け負ったのかを尋ねてきてもらう事にした。


 たしか彼女は今、村の夫人たちに混ざって昼ご飯を作っているはず――


「――尋問ですね、かしこまりました!」


 ひえっ!?

 突然の声に驚いて振り返ると、イリス本人が俺の背後に膝をついて控えていた。

 こ、こいつ、いつの間に背後に……!? さっきまで全く気配も音も感じなかったんだが!?


「私はいつでもレヴィア様のお側におりますよ?」


 村人がだんだん人間を辞めていっている気がする。

 これ以上深く考えるのはやめておこう。こいつらの行動にいちいち驚いていたら身が保たない。

 イリス、ちょっとあいつらに話を聞いてきてくれるか。


「はい、お任せ下さい!」


 知りたかったのは二つ。

 一つ目は彼らが何の依頼で来たのか。

 二つ目はそれがもしモンスター討伐なら、討伐対象は何なのか。


 すぐにパタパタと走って戻ってきた彼女は、しっかりその情報を持ち帰ってきてくれた。


「レヴィア様、彼らはどうやら全員で森の『ゴブリン討伐』に向かうようです」


 ゴブリンか!

 それを聞いてこの心配は杞憂だったと分かった。

 ゴブリンはこの世界の中でも一、二を争うほど弱い。サメもどきほどではないけれども。

 彼らは獰猛な種族だが知能が低く、攻撃はワンパターン。低級の属性魔法を使ってくるため集まると少し厄介だが、しょせんは雑魚モンスターに過ぎない。ハンターなら一撃で倒せるだろう。


 なら心配ない。あの化物二人もいるしな。

 新兵軍団と化物コンビ。計二パーティーあればゴブリン討伐なんてすぐに片が付く。

 俺は安心して森に消えていく彼らの後ろ姿を見送った。


 ……というか、どうしてモンスターの俺が冒険者の心配なんてしているんだ?

 逆だよな。変なの。

 


*****



 冒険者が村から一時的にいなくなったので俺は村の中を堂々と移動、イリスと村長の家でまたご馳走にありついていた。

 正直、この料理だけで上陸した価値はあったと思うな。

 その美味しさはもちろんのこと、この食事によって俺はさらなる成長を遂げることができたからな。俺はこの村に来る以前と比べ体長が一回り大きくなったし、マナもわずかだが増えた。あと肌ツヤとかも増したかな。

 うまい! おかわり!


 おおそうだ、大石。久し振りにステータスを見せてくれないか?

 最近は忙しくてあまり確認する暇が無かった。

 こういう時に見ておかないと。


【かしこまりました――能力開示します】


 アナウンスとともに、ブゥン……と浮かぶステータススクロール。



【ステータス】

 ■名前:「Lv:3 サメもどき」

 ■種族:「海竜種・突然変異体」

 ■能力:「水魔法 LV:2」「風魔法 LV:1」「巨大化 LV:1」「加速」「魔力操作」「眷属化」「信仰心」「水圧耐性」「電気耐性」

 ■固有:「水の王冠|(※)」

 ■称号:「鋼ノ躰」「偶像崇拝」



 おお……!?

 見たことのない項目が増えてる!


【あなたは新しい項目、「称号」を獲得しています】

【「称号」は一定の条件を満たすことによって解除されます】


 下部に表示された「称号」の欄。

 なるほど。ゲームの実績やトロフィーと似ていて分かりやすいな。

 「偶像崇拝(ぐうぞうすうはい)」は言わずもがな村のアレだろう……。

 で、もう片方の「鋼ノ(からだ)」というのは何だ? サメもどきはその逆、ぺらっぺらの紙装甲なんだが?


【「鋼ノ躰」 条件:「鉄の牙」&「鉄の胃袋」&「硬化」取得で解除】


 言われてみれば中層で手に入れたその三つの能力が、能力欄から消えて無くなっている。

 どうやらそれらは称号にまとめられたようで、ごちゃごちゃしていたステータスの表示が少し見やすいようになっていた。

 大石は気が利くなあ。


【……称号「鋼ノ躰」の効果によって、元の能力に加えあなたの耐久値は底上げされます】


 おおー! 普通に強い!

 俺はスクロールを手に取って、食い入るように各項目を見ていく。

 ふんふん。

 いいぞ、生存確率がぐんぐん上がっていっている。

 そこに刻まれているのはとてもサメもどきがベースになっているとは思えない程のステータス。

 眺めてにやにやしていた俺はしばらくして今は食事中だったことを思い返し、閉じた。

 そしてふと、イリスの方を見た。

 視線を察知した彼女は、やや首を傾げながらこちらに微笑みを返した。


 そう言えば、このステータスは俺以外にも見えているのだろうか。


「……?」


 彼女は俺の内心を読み取ると手を止め、困ったように眼尻を下げた。


「すみません、仰っている意味がよく……能力ならば神殿に行けば分かると思いますが」


 いやいいんだ。気にしないでくれ。

 彼女によると、ステータスを見ることができるのは今のところ俺とその神殿だけのようだった。

 神殿か。俺がモンスターでなかったら行ってみたかったな。


「あんな所、行かない方が良いです。……はい、あーん!」


 彼女の言い方には少し棘があった。自覚があったのか彼女はそれをかき消すように忙しくカチャカチャと食器と手を動かして――そこで不意に動きが止まった。

 俺が訝しんで見上げると、彼女の視線は外の方を捉えていた。


「……何でしょう」


 急にどうした?


「何か、聞こえます」

 

 そしてサッと血相が変わり、立ち上がる。

 ――確かに、俺にも聞こえてきたぞ。断続的な、息も絶え絶えの声、いや悲鳴が。


「た、助けてくれ!!」


 この悲鳴は冒険者の?

 俺たちが急いで外に出ると、ちょうどその悲鳴を上げていた主の足がもつれて崩れ落ち、近くに居た村人たちに介抱されているところだった。

 その状態からは命からがら逃げてきたことが容易に分かった。少なくない流血、ボロボロになった装備と武器。

 どうしてそんなことになった。ゴブリンなら今の俺でも倒せる相手、あの数の冒険者がいたなら楽勝だったはず。


「はあ、はあ……楽に稼げるって話だったんだ、でも、あんなのが出るなんて一言も……クソッ!」


 うわー……。

 ただのゴブリン討伐では収まらない、何か危険なフラグの香りがするぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ