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15話 討伐対象と内政


 村を見て回る俺の隣には、綺麗な朱色の目を持つ見紛う事なき美少女がいた。そよ風に靡く銀髪、傷一つ無い肌。ただその殆どは未だに着用している怪しげな修道服に隠れている。

 彼女はもちろん、例の布を取り去ったイリスだ。

 今の彼女はもうすっかり吹っ切れた様子で微笑み、発展していく村を見渡していた。能力によってではなく、彼女自身の目で。

 

「この村の噂を聞きつけたのでしょうか、外から人々が集まっていますね」


 彼女が言う通り、村人の数は増えつつあった。外から来るのは貧困や迫害の末に他国や領地を追われ、何の因果かこの辺境の東の地に辿り着いてしまった人々だった。

農作業や村の修復で人手が足りない今は誰であろうとありがたく、食料の供給は有り余っているということで彼らを受け入れることを俺は村長と話し合い、決めた。彼らは一歩間違えればこの前のような山賊に身を(やつ)してしまいかねないほど追い詰められていたらしく、感謝しながらおいおい泣いて、新たに村に加わっていった。


「……レヴィア様、何もその神々しいお姿を隠さずとも。むしろ見せつけていきましょうよ!」

 

 彼女が俺に呼びかける。

 彼女が抱えている"バスケット"の中で俺は首を振って否定した。


 万が一知らない人間に通報されたらどうする!?


 村人が俺を受け入れ過ぎてるだけで、村にモンスターがいるなんて本来は異常なことだ。特に新しく村に来たばかりの人間が歩き回る屋外では用心をするに越したことはない。

 だから俺は急ごしらえでもこの籠の中に隠れて、以前のイリスのように布を被り、しっかり身を(うず)め、編まれた細い(つる)の隙間から外を見る。

 人の目をやり過ごすために。

 何も知らない人間が傍目から見れば、ただシスターが昼御飯でも持ち歩いているようにしか見えないはず。まさかその中にモンスターが潜んでいてバスケットを魔法でフワフワ浮かせているとは思うまい。


「レヴィア様、心配いりませんよ。新しく来た皆さんも、漏れなくレヴィア教徒になりますから」


 なにそれ洗脳?

 その言葉に思わず被っていた布がパサ、と少しずれる。

 一体彼女はどこまで信仰を広げれば気が済むのだろう。


「どの国もレヴィア教を正教にすべきだと思います!! 信仰しないなんて有りえない!」


 とんでもない爆弾発言が返ってきた。彼女の目、本気(マジ)だ。

 落ち着け、落ち着け! ステイだイリス!


 しかし実際のところ、その”信仰”を利用してマナを溜めている俺は今、何かを言える立場にないと自覚していた。

 ――……あれは、教会でイリスと眷属契約を結び終えた時のことだった。

 眷属を増やせばモンスターとしての「器」が上がりマナが増えるということは以前大石から聞いていた。

 しかし、俺が得たのはそれだけではなかった!

 イリスと契約を結んだあの瞬間、まるでボーナスのようにアナウンスが聞こえ、気付けば俺は新しいスキルを身につけていた。


【眷属が一定数を突破しました――能力(スキル)「信仰心」獲得】

【効果:眷属の数・忠誠度によって主のマナの容量・吸収効率を上げる】


 簡単に言えば、あいつらの信仰が増せば増すほど俺に魔力が集まってくるというスキルだ。

 確かにこのスキルが付与されたそばから、魔力の元であるマナが少しずつ自分の方へ集まってくるのを俺は感じ取っていた。

 文字通り、これは信仰の賜物。

 このスキルのせいで、図らずも俺を崇めるこの村がマナタンクのようになってしまっていた。

 何でだろう。マナは増えたはずなのに、以前より使いづらくなった気がする。

 と、とりあえず、これは無駄遣いはしないでおこう。いつか「信仰返せ!」って言われたら返せるように。



 さ、さて! 人も増えたことだし、もう少ししたら村の警備や監視役も増やすべきだよな!

 幸い村人は全員俺の眷属になったこと、しっかり栄養を摂取させていることもあって、やたらと元気が有り余っている連中ばかり。なんならちょっとしたモンスターぐらいは軽く倒せそうでこっちが怖いくらいだ。まあそれでも、一応俺の眷属であるし、俺が守ってやらないと。


 イリス、警備は増やせそうか?

 

「はい。この村には元々腕が立つ方が大勢いますし人数的にも問題ないかと」


 あれ、そうなんだ。あの山賊たちに村人は無抵抗だったからてっきり戦えないと思い込んでた。


「装備さえあれば森で狩りもできるそうです」

 

 狩り! それはありだな。

 村人が強くなって狩りに行ってくれれば俺自ら村周辺のモンスターや害獣を狩る必要も無くなる。俺はただ安穏と玉座に座って捧げものを待っていればいいわけだ。……良い! そうそうそういうのだよ、それこそ俺の考える最高に平穏な生活だ!

 よし、装備ね。確かにあの冒険者とかいう化け物たちでさえ装備を固めているのだから、村人にはもっと頑丈な武器や防具がいるだろう。

 装備の素材は俺がモンスターを狩って手に入れるとして、あとは金。


 俺は()()にちらっと目を向けた。

 

 最近、どこから噂を聞きつけたのか耳の早い商人が複数人やってきていた。

 彼らは急速に成長する村、新たな市場・農作物を前に目を光らせているようで、今はそれぞれ村長や村人と何やら話しこんでいる。

 やはり、身を隠しておいて正解だったな。

 

「――いやぁ~、このシャーロット村周辺に生息するモンスターたちは我々では手の施しようがありませんでしたが、よくご無事でしたねぇ。それもここまでの復興はさぞや苦労したでしょう。是非、今後は我々もご協力させて頂きますとも」


 揉み手をして、ベラベラと喋る商人。


「全ては領主様のお導きがあってこそです」

「ほう、それはそれは。さぞや素晴らしい領主様なのでしょうな」

「ええ! それはもう!」

 

 そうだろう! そうだろう! 村長よ、俺をもっと褒めてもいいぞ?

 と、言わせている場合じゃない。村長には商人と取引をしてもらって、金を引き出してもらわなきゃいけないんだから。

 イリス、村長に伝言を頼む。


「はい!」



*****



 俺が考えたプランはこう。

 まずはこの村のあり余る収穫物を商人に売ってもらう。そして得た金で、彼らからもっと高い品種の苗を買って、育てて売る。俺たちが作る植物は育成スピードが尋常ではないので、すぐに数を増やし、しばらくすれば次の品種に移れるだろう。ひとまずはそれを繰り返していくことになる。

 起きる価格の暴落! 市場は破壊される! そしてゆくゆくはシャーロット村がこの国の市場相場を操り……! ……とまあそこまでやるとこの村が目を付けられるので丁度良いところで止めて、装備やその他生活必需品を買っていく、と。

 

「今後とも良い取引ができそうですな! それで……そちらの新しい領主様には是非、今すぐにでもお会いしたいのですが」

「お取引ありがとうございました。申し訳ありませんが、領主様はご多忙で謁見(えっけん)するのは少し難しいかと」


 後ろにいるけどな。

 商人は残念そうに眉尻を下げた。


 ちなみに。「領主様」というのはこの村における俺の役柄名である。村長が実質的なトップだから別に俺の立場はどうでも良いだろうと思ったが、それでは気が引ける、ということでそうなった。

 このシャーロット村は「無主地」である。「どこの支配も受けない無所属の村」……そういえばまだ聞こえは良いが、ただ見捨てられただけの村に過ぎない。

 故に村はあれど、領主はいなかった。そこに俺を据えたわけだ。


「そうですか、残念です。せっかく直に吉報をお知らせできると思ったのですが」

「吉報?」


 村長が聞き返すと、商人は急に元気を取り戻し胸を張って言った。


「ええ! 我々、クリーデンス商会は”依頼(クエスト)”を出しました! これからの道路整備や討伐依頼は、何から何まで我々商会にお任せ下さい! ええ!」

「今、何とおっしゃいましたか?」

 

 依頼(クエスト)

 依頼って言うと、あれか?

 ……組合経由で、冒険者にモンスターを討伐させたり、護衛任務をさせたりする、あの依頼!?

 

 よく見ると村人の中に物々しい雰囲気の人間たちが複数混ざっていることに気づいた。

 その中には見覚えのあるあの二人もいた。がさつそうな男と几帳面そうな少女の歪なパーティー。

 

「うお、すげえな、おいレイ見てみろよ! 商人までいやがるぜ! ヒュー!」

「うるさいし指を差すな。見ればわかるわよ。でも、この短期間でこんな復興をどうやって」

 

 冒険者……俺を殺しかけたあの二人まで……!

 ちょっと商人!? 何してくれてんの!?


主人公がバスケットに隠れるのは米俗語「go to Hell in a Handbasket(手提げかごで地獄に行く)」からきています。(必然性は)ないです。

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