13話 討伐対象は眷属をつくりたい
魔法で山賊を退治し、村で歓迎を受けたと思ったら、実はヤバい宗教に巻き込まれて人肉食を進められた俺。
当然俺は逃げた。
しかし、村長邸宅から外へ出た俺は、村を眼下に収めて、足を止めていた。
こ、ここまでとは……。
内情を知った上で、このシャーロット村を俯瞰で見ると、よりその酷さがわかった。
あの男冒険者が「しけた村」と言っていたが、そんな言葉では足りない。
村には飢餓、伝染病、貧困、瘴気が蔓延っていた。静かに死んでいく村はそれ自体が棺桶のようだった。
確かにこれでは誰も寄り付こうとはしないだろう。
なるほどな。
いくらあの像とうり二つとは言え、俺のような雑魚モンスターすら彼らが崇めてしまう説明がつく。
あれは死を目前にしての行動だ。そして、この厳しい状況から目を背けるための。
――だとすると、いや、待てよ?
有りだな。
これは考えようによっては悪くない環境じゃないか?
海竜兵にも、冒険者にも見つからない上に、村人は手厚く扱ってくれる。
そしてこの村は人がまず寄り付かない村……。
ちょっと村人の思想が怖いことを除いて、俺が身を隠すのには丁度いいじゃないか。
うんうん。
俺がまた地上に降りると、イリスがバタバタと追いついてきた。
「おお、この村の下見ですか!? 上空から灼き尽くすための! 流石です!」
歓喜の声が上がり、またもや村人たちの期待の目に囲まれる。
いや、違うんだけど……うん。ここは乗ってあげようかな。
イリス、翻訳頼む。
俺は頭に浮かんだいかにも邪神らしい台詞を放った。
『――この村の事はよくわかった、安心するが良い。この俺がお前たち人間に"安らかな死"を与えてやろう!』
一拍おいて、ドカーン! と爆発的な歓声が沸き起こった。
こんな感じで良かったのかな。もう少し威厳のある口調で言えば良かったかも。まぁみんな喜んでるしいいか。
村人が熱狂している間に、俺はその輪の中からイリスを呼んだ。
盛り上がってる所ごめん、ちょっとこっち来てくれる?
「素晴らしいお言葉でした!! 私が一番目の生贄ですか? 光栄です!」
違います。
これをやっておくように村人たちに伝えてくれるか?
あとこれと、これと、これ……。
「……?? わかりました」
頭にはてなを浮かべたまま、彼女はその指示を村人たちに伝えに行った。
彼らはその"神託"を興奮冷めやらぬ、といった面持ちで熱心に聞いていた。
フフフ……。
さて、まずは食料とそれから、瘴気の原因であるモンスターを排除して……。
あとは治療費とか……。村の外部の力も借りて……。
何よりあいつらの体調を何とかしなきゃ。
俺が彼女に頼んだことは、この村を存続させる為に必要なことだった。
騙して悪いが、俺はお前たちを死なせるつもりはない。
予言なんてクソ食らえだ。神の代わりに好き勝手やらせてもらう。
……お前たちを見捨てはしないぞ。
*****
「き、奇跡だ! 病が治っている!」
「体が軽い! まるで若い頃みたいだ!」
村中で喜びの声が聞こえる。
俺が彼らに何をしたのか。
【――眷属契約完了】
そう、契約だ。眷属契約。
全員眷属にしちゃった。
「眷属契約」は相手からマナを徴収し補完することができる。簡単に言うとマナ・ヤクザだ。
その代わり、眷属は対価としてステータスの強化に加え、主の能力によって様々な恩恵を受けることができる。
つまりこの時、俺がマナを徴収しなかった場合、眷属はただただステータスの強化が受けられることになるわけ。
これで重病の人間もじょじょに快方に向かうはずだ。
マナは生物の根本エネルギーみたいなもので、俺みたいに常時減っていく呪いがかかっている奴以外は、自然と回復していくようになっているのだから。
これで簡単に死ねなくなっただろう!
お前たちはせいぜい生きて、"安らかに死ぬまで"俺に尽くすんだなぁ! 最低でも俺が死ぬまで付き合ってもらうぜ、ハーッハッハッハ!
ふう。さてと、次は食料。
マナを増やすのに最も手っ取り早いのが食事だ。
この村の今の主食は謎のイモや麦みたいな作物らしい。
あれはうまかった。増やしたい。
残念ながら瘴気と連作によって畑は痩せ細り、ほとんどがダメになっていたが、元気になった若い村人たちに全て耕し直させ、俺が肥料代わりに魔力入りの水を注いだ。
魔力を多く含む土なら瘴気に打ち勝つだろうと思ってのことだ。
基本的にこの世界では魔力が無くなると死ぬ。生物も、無機物ですら死ぬ。
じゃあ逆に魔力を注げば生き返らせることができるのでは? と思いつきでやったら思いの外いけた。
まぁ生き返るといってもエネルギーを与えただけだから、けっこう無理矢理だし、味は保証できないけど。
土魔法ならもっとうまくいくんだろうか……。
また、以前山賊に破壊光線をバンバン撃ったのが効いたらしい。その魔力が地中に影響して、まだ瘴気に侵されていない綺麗な地下水が湧き出していた。
とにかく予想以上の成功を収め、村の枯れた土地は蘇り、今や大量の野菜が実っていた。
さらにそんな無理矢理な方法だったせいか、作物の生育も早かった。
最低でも半年はかかるらしい作物がたった数週間で収穫可能。この生育スピードなら輸出で稼げる。同じものを作り続けると土にも悪いので、連作を防ぐという意味でも、イモや麦だけでなく、他の野菜や果物もほしい。
一面に広がった緑を前にした時の彼らは、信じられないといった様子だった、が次の瞬間、涙を流し歓喜に打ち震えていた。
「神よ! レヴィア教万歳!!」
「レヴィア教万歳!!」
……彼らは終始この調子で、俺も神扱いされることにだんだんと慣れてきてしまっている。
美味い作物を作ってくれ。もっと捧げものを頼むぞ。
ひとまずそこからは村のみんなに畑を任せて、俺はといえば、瘴気の原因であるモンスターを狩りまくった。
素材をどこかの町に売りに行ってもらえれば、そのお金で重病の村人の為に医者も呼べる。取引もできる。取引ルートさえ見つかればこの村に金を引っ張ってくる方法はいくらでもある。
それにこのシャーロット村は元・漁村だ。
きっと浅瀬に巣食うモンスターを片っ端から俺が食っていけば、自然と環境は変わっていき、村人が安全に魚を捕まえられるようにもなるだろう。
よし。
これで村の問題をほとんど解決できたんじゃないか?
「レヴィア教万歳!! レヴィア教最強!!」
「レヴィア教万歳!! レヴィア教最強!!」
ふふ、すっかり元気になって。
以前の彼らは俺のことを生と死の象徴が云々……と言っていた。ただ、恐らく単純な彼らの事だからもう忘れているだろう。
村人たちの顔からは死相が消えて、毎日楽しそうにやっている。
前より元気になったからか、信仰がより暑苦しくなって鬱陶しいけど。
――しかし、一つだけ気がかりがあった。
何度尋ねてもはぐらかされるが、彼女の様子がどうもおかしい。




