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11話 討伐対象は村人にチヤホヤされる

 

 崩れた門の前で、白目を向いている悪人顔の数々。セーフ、死んでない。

 当初は眷属にしてあげようかと思っていたんだけど(強制)、捕縛された彼らは後で通報して警邏隊? とかいう怖い人たちに連れていかれるそうです。残念。

 村の方も門と俺の攻撃により地面に開いたいくつかの穴以外に被害はないようで、一件落着。

 良かった良かった。

 ということで既に俺の役目は終わっていた。


 じゃあ俺は今何をしているかって――。

 

「救世主様! ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

 

 ――絶賛、村人たちに土下座されています。

 何で土下座!?

 と、いうかその前に俺は一応モンスターなんだけど……何でこんなに歓迎されているんだ?

 結果的に山賊を撃退したとは言ってもそれが無差別に人を襲っていたという可能性だってあるわけで、危ないとか考えないのか? あのゾッとする光線の威力見ただろ?

 

「救世主様! 本当にありがとうございます」

「本当に救世主様が来られた!!」

 

 そ、そんなに何度も土下座しないで。

 俺はてっきり、自分も通報されてその警邏隊に引き渡されるものだと思っていた。だから山賊の容態を見た後にすぐ飛んで逃げようかと思っていたら、コレ。

 ここまでくると逆に怖い。

 たった一匹の極小モンスターを中心に、取り囲むように人垣ができあがっている今の状況ははたから見れば、ちょっとヤバい光景だった。

 村人総出の土下座に、俺は完全に圧倒されていた。

 

 土下座って万国共通なんだなぁ……。みんな地面に頭をこすりつけて喜んでるなぁ……。全員マゾなのかなぁ……。

 ん?

 ていうか「救世主様」って何?

 

「これは予言通りです!」

 

 不思議に思って首をかしげていると、漆黒と純白、二色の布で全身を覆っている怪しい人間が立ち上がった。

 体の線を全てその衣類で覆い隠しているだけでなく、目まで黒い布を巻いて隠している。

 口を開いてその鈴のように澄みきった声を聴くまでは、彼女が少女だとはまるでわからなかった。

 何だ、あの格好は?

 修道服?

 何で目隠しをしてる? 前は見えてるのか?


 気づけば彼女は俺を背にして、村人へ向かって何やら演説をはじめていた。

 どうやらシスターか預言者か、その類いらしい。

 彼女は大げさに手を広げてこう言った。


「『救いの時は近づいている! 大いなる青の光が大地を穿つとき、救世主は来たれり!』――予言通り、まさにこの御方こそ神の生き写しであり、救世主なのです!」

「うおお……ッ! やはり救世主様が我々をお救いに!」

「何とありがたい、神々しいお姿じゃ……!」

 

 ははぁ、なんか盛り上がってきたな。

 じゃあ俺はこのへんで。

 

「さあどうぞ、救世主様、料理にておもてなしさせていただきますので、さあ! さあ!」


 いや、いいよ……人の料理は嬉しいけど、なんか怖いし。


 熱狂的な集団から退散するため、そそくさと浮き上がろうとした俺の目前にその怪しいシスター少女がザッ! と回り込んだ。

 あっ、思ったよりアグレッシブ! 近い、グイグイ来る!

 ああわかったから苦し、お前ッ、ガッチリ胴体を担ぐな、胴体を! 行くから!


 細身の少女に抱き上げられるのは元・男としても、モンスターとしても、これ以上無い屈辱だった。

 体格的にはそこまで変わらないはずだが、サメもどきには中身が詰まっていないのだろうか。

 ……まあいい。彼女には俺をはめようって気は無さそうだし、今更襲われる心配もしなくていいだろう。

 あのサメもどきに対する熱狂度合いや態度は正直理解できないし怖いが……。

 人間の料理も食べてみたいしな。うん。

 いい加減、生じゃないものが恋しい。


 俺はなすがまま、村の中を連れられていく。

 


*****


 

 本当に怖いくらい歓迎ムード一色だった。

 サメもどきが現れたら歓迎しろ、という何ら得の無い馬鹿げた風習でもこの村にはあるのだろうか。

 藁葺き屋根に、石造りの壁。粗末な造りだが、これでも村一番の住居をあてがったらしい。その証拠に中に入ると俺たちを村長らしき老夫妻が出迎えてくれた。

 昼下がりのやや薄暗い家の中を、かまどの火と数本のロウソクが暖かく照らしている。それから囲炉裏。その炉を囲むようにして三人と一匹が座った。

 また、開け放たれた入り口や窓から何人もの村人が顔をのぞかせて、俺の姿を一目でも見ようと集まっている。

 俺はまるでご神体でも納めるみたいに丁寧に、そのまま座布団へ乗せられていた。

 隣には俺を連れてきた張本人が座る。


 その怪しいシスター系少女は自らを"イリス"と名乗った。


「私はイリスと申します! この村に住むレヴィア教の神官で、貴方様の信者です! 貴方様と出会えて何たる光栄、しかも、ああ……隣に座っている!」

 

 めちゃくちゃテンション高いなコイツ。


 ファンタジーハンターの神官というと、預言者とか占い師のような役職だったかな。

 だから彼女は目隠しをしていても心眼かなにかで物を視ることができているのか、なるほどね……それでも屋内でくらい装備は外せばいいと思うが。その格好はすごく怪しいやつに見える。


 また彼女に続いて村長が、その夫人が仰々しい挨拶を俺にした後、奥から鍋を持ってきた。

 目の前に並べられていく料理の数々。

 一つ一つの具材が俺には輝いて見えた。


 うわーっ、うまそう!


 さあ食べようか。……うん?

 なに、急に静かになるなよ。

 さっきまでガヤガヤと騒がしかったにも関わらず、不意に静けさが辺りを支配する。

 きょろきょろと見回すと、イリスと村長夫妻、外にいる村人たちの全員が手を組み、祈りを捧げていた。

 そして神官の彼女が口を開く。その言葉は短かったが、心に訴えかける無垢な神聖さのようなものがあった。


「神よ、今日も糧をお与えくださってありがとうございます……」


 いただきます、みたいな食前のお祈りだろうか。

 ……俺も一応手を合わせておこうかな。


「ではいただきましょう! ささ、どうぞどうぞ! 苦手な食べ物はございますか?」

 

 そう言ってパッと雰囲気が元通りになったイリスはさじを取り、手近にある俺が好きそうな料理をすくって差し出してきた。

 あ、食べさせてくれるんだ。どうも、ヒレしか無いから助かります。

 苦手なものはないです。岩をも食べます。

 

「それは良かった! では、あーん……」

 

 ちょっと恥ずかしいな。あ、あー……


 んッ、んんんん――!?

 うまっ!? 何だこの料理うますぎるっ……!

 

 俺は遠慮しないで目の前に出された料理を片っ端からがっついていった。

 本当に美味しい。人が作ってくれた料理だからか、格別にうまい。海や森の食べ物もいいけど、やっぱり手の加わった料理。これに尽きる。

 あったけえ……。よく熱が通っているだけで涙がこぼれそうだ。


「おぉ……私手ずからお口に……おぉ……!」


 おかわり下さ……イリス? 

 彼女はさっきから変な興奮の仕方している、放っておこう。

 気の利いたことに俺が食べ終わりそうになると、どこから現れたのか村の人が次から次へ、入れ代わり立ち代わりで追加の料理を持ってきてくれた。

 俺が困っているとすぐさま別の人が食べ物を差し出し、食べさせてくれる。彼らも彼女と同様、嬉しそうにしていた。

 

 しかし――どうして、モンスター1匹がここまで歓迎を受けられる?


 ……救世主……予言……レヴィア教……。


 どうもただ山賊を倒してくれたから、という理由だけではなさそうだ。





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