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10話 討伐対象、上陸

 

 マナ……足りませんでした!

 夜中、要求マナを満たすために俺は頑張った。魚だけではとてもじゃないが足りないので、海藻やよくわからない生物、その他目に入るもの全部食った。岩すらも。味はともかく、鉄の胃袋のお陰で全て消化・吸収できた。だがご飯の美味しさに気づけたこの体で、無機物を口にした時はもう……。

 それでも足りない! 

 タイムアップだ。

 空が白みだし、水平線の奥から光が満ちてくる。

 

 「人化」して何食わぬ顔で上陸すれば、この海から脱出できると思った。

 しかし1万マナは遠い。それにマナがこう常時減っていかれては貯めようがない。

 

 ……もういっそこのまま上陸してしまおうか。

 

 いやさ、今考えたんだけど水魔法で体の周りに水をまとわせながら上陸ってできそうじゃない?

 エラで呼吸して、ぴちぴち跳ねてさ。

 それで隠れながら何とか生きていけばいいじゃないか。途中河川などに寄ったりしつつ。

 そうだ、逃げるため、いや生き残るためなら、俺は何でもするぞ。泥を這ってでも、泥水をすすってでも。

 俺はなんとしても上陸する!

 こんな危険な(ところ)にいられるか!


 よし。やってみよう。

 

 まず、潜水しながらシャーロット村近くの河口から、上流へ向かう。

 目指すは森の方。

 まだ朝早い時間帯だから起きている村人もいないだろうが、誰にも見つからないように村から少し離れた丁度良いところで顔を出し、状況確認。よし!

 陸へと身体を一気に乗り上げる……の前に、体全体を水でしっかりコーティング!

 よし!

 いざ! 森へ!

 ぴちぴち、ずりずりとワニのように土の上を移動していく。

 それは海から初めて陸に上がった原始的生物くらい不格好だったが、俺は着実に進んでいた。

 疲れて止まったら、水を追加してまた跳ねた。

 

 これが生物の進化……!

 

 はあーめちゃくちゃ疲れた。大石、食べ物の検索よろしく。

 

 俺はしばらく飛び跳ねていって、草木が生い茂る場所で一度足を止めた。

 後ろを振り返れば、もう大分進んだことがわかる。

 森はもう少し先だがここまでよく頑張った。

 あとはそこら辺の草むらにでも隠れて、と。

 俺は今から陸生モンスターになろう。

 

 今日からよろしくな、森のモンスターたち!


 

*****


 

 鬱蒼と生い茂る林の間をぬって優雅に滑空する生物がいた。

 そう、俺だ! サメもどきはついに空を飛べるようになったのだ――!



 ――上陸してからというもの、はいずる俺は地上を荒らしていた。

 と言ってもモンスターに出会ったら死ぬので、大人しく落ちている木の実だけを食べるだけだが。

 中でも赤い木の実は甘酸っぱくてうまかった。水生モンスターとしてそれで良いのかと思わないでもなかったが、良い。美味いものは正義。

 ただそんな地べたに這いつくばって果物を食む俺を見て、哀れに思ったのか、


【風マナが100を突破しました。能力(スキル)「風魔法Lv:1」を取得可能です。100マナを消費して取得しますか?】


 と大石が提案してくれた。

 この森の食物は土や風など海には無い魔力を含み、お陰でマナが溜まっていたらしい。

 もちろん取得した。

 そしたらこうなった。

 局所的に舞い上がった風によって、ふわふわと体が浮き始めたのだ。

 風属性の適正がある、ということはステータスで以前から知っていたがまさか飛べるようになるとはなぁ。

 イメージで言うとホバー飛行。魔力操作で魔力の出力先をちょっといじれば……上下左右、自由自在に操れた。


 水陸両用サメもどき!

 楽しい! イエーイ!

 うっ、ゲホッゲホッ……少しスピードを出すとエラに勢い良く風が入ってちょっと苦しい。

 今も水をまとっているからある程度は呼吸できるはずだが、うん。無理はいけない。


 そういえば、下流から這いずってここまでどれだけ進んできたんだろうか?

 気になった俺はゆっくりと上空へ浮いて、これまでの道のりを見下ろした。

 海から村、河口から今の地点まで頑張って来たんだよな……え? 全然進めてないじゃん。

 あの作戦は失敗だったかぁ。

 まあでも、そのお陰で今があるんだもんな。偉い偉い。

 


「ヒャッハー!!」

「行くぞ野郎ども!!」

「抵抗する奴は皆殺しだァ!! ヒャッハー!!」


 ……!? なんだ?

 その時突如、怒号が森の方から聞こえてきた。


 目をこらせば森の中を駆け抜けていく影が複数。

 どいつもこいつも武器を携えて、何かを狙っている風だった。

 俺が目を剥いているとその集団は一気に距離を詰め、シャーロット村の方向に押し寄せていく。

 あの集団、山賊か?


 急いで村に目を動かすと、遠目からでも門には番兵どころか見張りもいないことがすぐにわかった。

 そもそも抵抗する余力すらない小さな村だった。そういう場所だからこそ、彼らも襲撃しようというのだろう。偵察済みという訳だ。

 ……ああいうの、いやだな。

 とは言え俺だってあれと同じ事をして生きているわけだ。「食物連鎖」として彼らは何ら間違っていないのかも知れないし、俺がとやかく言う筋合いではない。

 それに俺はモンスターだから、あんな所においそれと出ていくわけにもいかない。

 人間には見つかりたくない。野蛮そうな連中にはもっと見つかりたくない。

 きっと彼らの目は血走っている。略奪、殺人、その他諸々を脳裏に浮かべ、こちらが罪悪感を覚えてしまうくらい酷いことを今にもしでかす、そんな人相なのだ。

 そしてあの門の中には幸せそうな笑顔、穏やかな時間、数分後には殺されそうになっている無抵抗な女や子供がいて――

 

 思い出すのは、あの時の事。

 アビスドラゴンは俺たちを何の見返りも無しに助けてくれた。

 あの時と同じように今、目の前で罪の無い誰かが殺されようとしている。

 ……あの時の俺は何もできなかった。

 でも今は違う、何かできるかもしれない。


 ――助けよう。食物連鎖だというのなら、俺が山賊を倒してしまっても問題ない訳だからな。

 もちろん俺の身の安全が第一だから、けして気づかれてはいけない。渦の刃よりも目立たない、速く細いビームのような見えにくい魔法で山賊を攻撃して即、離脱。これだ。

 もし山賊を倒しきれなくても、村人が逃げるための時間稼ぎくらいはできる、はず。


 意思を固めた俺は山賊を見据えた。

 そして大きく口を開け、そこに魔力と意識を集中させる。

 注ぎ込むのはマナ。イメージは細く研ぎ澄まされた水の光線。

 ……いけ!!


 その瞬間、「あっ、マズい」と咄嗟に人語が喋れそうになるくらいの直感が体を貫いた。

 放ち終えてから、やっとわかった。

 これが魔法Lv:2の全力。

 背中に汗がブワッと湧き出た。しかしもう手遅れだった。


 一点に集中させた魔力は解き放たれ広がり、一瞬遅れて轟音が響く。一帯を破壊光線(レーザー)が焼き払っていた。

 凄まじい悲鳴を上げて逃げ惑う人の波。倒れ伏す数多の山賊。

 青い光が硝煙のように薄れていき、訪れる静寂。

 

 ……あー、俺のイメージだとあくまで注意をそらすための、警告や威嚇射撃のつもりだったんだけど。

 一点に魔力を集中させすぎたかもしれない。これではまるでダムをわざと満杯にして、決壊させたのと一緒だ。結果的に高威力の砲撃になってしまった。


 ああ……。

 当然、こちらの居場所はバレていた。

 俺に恐れ慄き、地に伏せる山賊たち。さらにそれだけでなく、村人たちまでもがこちらに平伏していた。それも何故か、綺麗に頭を下げて(ひざまず)く姿勢で。

 ……いや、村人は逃げろよ!! 正気か?

 すぐそこに見えてるよな? 今はガタガタ震えてるけど、大勢の悪人面がさ。山賊来てますよ。それに俺が放った極太の魔法見えなかった?

 ほら見て、死屍累々(ししるいるい)の山賊たちを。

 一応、非殺傷の意思を持って撃ったから直撃していても死なないと思うけど。……し、死んでないよな?


 だが慢心はいけない、冒険者ならあのくらいは片手で弾いてくるはず。

 きっとまだ山賊たちは元気だろう。死なない程度に、だけど全力で心を折りにいかなきゃ。


 チッ、クソ難しいな。

 こうか? よいしょ。

 もう一発。

 

 俺は魔力の調節に悪戦苦闘しながらも、もう開き直って魔法をばんばん撃ちまくっていた。マナは沢山あった。人化できなかったから。

 そのうちむしゃくしゃしてきて、なおさら撃った。

 

 そうだ、俺が追われているのも、人化できなかったのも、こうして見つかってしまったのも、とにかく全部山賊のせいにしよう!


 山賊共め、許さんぞ! 殺さない代わりに罪を償わせて、全員俺の眷属にして、魔力タンクとしてコキ使ってやるから覚悟しとけ!


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