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01話 最弱の討伐対象に転生した


 俺こと聖 葵(ひじり あおい)は平穏な生活を望むやや臆病な性格の人間であり、これまではなるべく死亡フラグを回避し無事に生きてきたつもりだった!

 世の中は死亡フラグであふれている。

 例えばある日外でいきなり誰かに襲われるかもしれないし、あの優しい隣人は実は殺人鬼かもしれない。交通事故に遭うかもしれないし、気づいたら謎の病原菌を移されているかもしれない。

 だから俺はそういったフラグを未然に回避するため様々な犠牲を払うようにしていた。

 振り返ってみれば少し寂しい人生ではあったが、後悔はしていない。

 全ては平穏な日々のため――


 ――そんな俺が、どうしてこんな目に!?


 今、俺の目の前では雨のごとく、核爆弾らしき物体が降っている。"らしき"というのはそれが地球の科学力では測れるものではなく、動作するまでは誰も何もわからなかったからだ。もしそれが地球外から飛んで来たものでなければ、見ようによっては巨大なロブスターの群れのようにも見えた。


「お、俺の平穏な生活がッ……あああああ!!」


 テレビ越しにそう叫んだ時にはもう、地面に突き刺さったロブスターたちから神々しい光が漏れ出ている頃だった。



【――因子の欠損を確認】

【再構成不可、変換】

【変換中……変換中……】


全工程完了(オール・コンプリート)

【「転生」に成功】



*****



 雄大ななにかに包まれ揺られている、そんな感覚。

 この感覚が本当に間違いでなければ、俺は、"水中"で目覚めた。

 透き通った光などはるか遠い、暗い海底だった。

 怪しく光る謎の海藻やクリスタルのお陰でかろうじて周囲は見て取れるが、それが余計にこちらの動揺を誘った。


 ここは? 俺はあの爆発から助かった、のか?

 何もわからない、頭が割れるように痛い。


【変換中……変換中……】

全工程完了(オール・コンプリート)

【「転生」に成功】


 頭の中から何故か声が聞こえてくる……「転生」って?

 そこで俺はふと違和感を覚え、頭を抑えていた自分の手を見た。

 

 ――えっ。


 本来手があるはずのその場所には、魚のようなヒレがあった。

 驚きとともに、あぶくが上がり、ぴくぴく動くエラ。

 呆気に取られて口をパクパクと動かすと、その度ガチン! と歯のぶつかる硬い音がする。

 頭からしっぽの先まで、見事なまでに人から外れている。

 おい、まさか、これが俺か?

 これじゃまるで"モンスター"になったみたいな――。


 待てよ、この体、見覚えがある。

 そういえばこの水中の"フィールド"も見覚えが。

 嫌な予感がする。


 まさかとは思うがこの世界……。

 「ファンタジー・ハンター」?

 いや、まさかね。そんなわけが。


【その通りです。厳密には違いますが】


 あのゲーム!?

 狩猟ゲーム「ファンタジー・ハンター」!?

 プレイヤーが冒険者(ハンター)となり、モンスターや魔族を討伐して素材を集めたり武器を作ったりしてリアルなファンタジーの世界を自由に駆け巡る……ってコンセプトのあれ!?

 だったら俺は!


【あなたは海竜種「サメもどき」です】


 だよなぁ!? 

 サメっぽい特徴的なフォルム、申し訳程度の紋章。

 「唯一の最弱」「ハンターの癒やし」などとプレイヤーたちに散々な呼ばれ方をされていた、俺が知っているモンスターそのもの。


 俺はどうやら最弱の討伐対象モンスターに転生してしまったらしい。

 マジかよ。


【私は神の遣い、「大いなる意思」】


 ……ところで、当たり前のように脳内へ話し掛けてくるお前は誰なんだ?

 そう口を開く前に、謎の声が喋り出していた。


【あなたが転生したこの異世界は、破綻(はたん)しています。そのため救済措置として私が(つか)わされました】


 それはいい、知ってるから。

 ゲームバランスの崩壊した世界、あれが破綻していなかったら破綻という言葉は成り立たない。あの世界では一度のミスでプレイヤーは即死する。死にゲーという形容すら生ぬるいその難易度に心を折られた人間は数知れず。

 そうじゃない。

 教えて欲しいのは、何故、そんな地獄の世界にこの俺を転生させたかだ!

 そして何故よりによってこのモンスターなんだ!

 お前じゃ話にならない、責任者を呼べ!


【神は不在中です。地球の再建作業で御多忙なので……】


 もしかして今の俺って相当ヤバくない?


 この世界は地獄。だがそこで生きる冒険者(キャラクター)にとってはそれが当然。彼らは平気な顔でモンスターを討伐していて……。

 かたや俺はサメもどき。


 絶対人間に討伐される!! 助けて!!



*****

 


【対象が多すぎます】


 ――親と小さい子供たちが俺含め数匹程度。

 そのちょっとした魚群? に俺はいた。

 『助けて!!』と暴れていた俺を彼ら二匹は心配そうに見つめながら体を静かに寄せて、落ち着かせようと試みてくれている。

 周りの兄弟たちも「どうしたの?」と俺の様子に首を傾げているのがわかるくらい、忙しなくくるくる俺の周囲を泳いでいて可愛い。

 おまえらぁ……! 

 ありがとう、もう大丈夫。落ち着いた。

 感謝を表してヒレでピタピタと叩くと彼らは安心したようにまた雄大に泳ぎはじめた。

 正直まだ動揺しているが、これ以上不自然な行動を取って群れから追い出される心配がある。


 何故、俺がそんな心配をしなければいけない……。

 それもこれも全部、お前が悪いぞ。

 大いなる意思? だっけ。

 頼むから説明してくれ!


【対象が多すぎます】


 頭の中に直接語り掛けてくる【大いなる意思】……長いので略して【大石】と名付けることにする。

 大石からはただそっけない声だけが返ってくる。

 俺はこの声に詰め寄った(といっても詰め寄りようがないが)。 

 せめてチュートリアルくらいはやってくれないか?


【それらにはお答えしかねます】


 くそう、情報は何も期待できそうにないぞ。

 ただかろうじて、この世界のことは俺が少し知っている。もちろんこのフィールドのことも。

 まさか、またこのフィールドを拝むことになるとは……。


 フィールド「罔象(みずは)死海(しかい)」。

 あのクソゲーを履修済みの俺にとって、ここは涙が出るほど見覚えのある地形だ。

 崖のような岩肌、複雑に入り組んだ抜け道、地上とは完全に隔絶(かくぜつ)された環境。

 ここは先が見通せないほど暗く、深い。

 しかしその息を呑むほどの光景を前にして俺は少しだけ、ほっ、と胸を撫で下ろした。


『いくら最弱のモンスターになっても、この海にずっと引きこもっていれば、平穏に生きることができるだろう』と、そう思ったからだ。

 俺はこの後、すぐにそれが勘違いだと知る。

 この死亡フラグだらけの世界において、最弱の討伐対象が平穏に生きるということは不可能らしい。




【ステータス】

 ■名前:「Lv:1 サメもどき」

 ■種族:「海竜種・突然変異体」

 ■能力:なし

 ■固有:なし


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