6. 夢を手に入れ、恋人を失った。恋人を失って、夢を手に入れた。
誤字があれば修正します。
ひの - - -
俺 「ごちそうさまでした。」
和 「ごちそうさまでした。」
陸 「あー、悪い、買い出し組、材料無くなってきたから、買ってきてくれねぇ?」
買い出し組 : 俺・一・蒼
陸 「今回は、あたしも行くわ。」
龍と唯奈に見送られ、いつものスーパーに行く。時間帯的に客が少ないから、知人に見つかる可能性も少ない。ある意味俺らは常連客だ。
朝の会話のせいで、話すことが何も無くなってしまった。さて、なにを言えばいいのやら。
陸 「あ、そうそう、唯奈に活動の協力、何か頼めないかな?」
さすが陸、話題提示が上手い。
一 「手空いてるやついねぇのか?」
俺 「、、、いなくね?」
陸 「ひの、なんかできない?楽器とか。」
俺 「俺は代償持ちの人を探すのに精一杯だ。買い出しも担当してるし。」
蒼 「和は何かできねぇの?」
俺 「和がしたいなら、させてもいいが、難しくないか?」
陸 「感覚があればな~。」
一 「ていうか、他に何が必要なんだ?」
陸 「ドラムと、ギターがもう一人と、経理がほしい。」
一 「、、、じゃ、経理じゃね?」
蒼 「え、俺ら儲かってんの?」
陸 「龍が把握してる。それを知るための経理だよ。」
蒼 「じゃ、説明は龍に頼もうぜ。」
俺 「そうだな。」
一 「ドラムかぁ。ピアノとギターだけじゃなぁ、、、。陸はギターと歌唱両立してるから大変だろ。」
陸 「まぁ、楽しいからいいよ。」
一 「ドラムは楽器ソフト使ってるけど、けっこう大変なんだぞ?」
陸 「ん~~、、、あっ」
一 「どした?」
陸 「、、、いや、なんでもないよ?」
なぜ俺の後ろに隠れるんだ?
俺 「、、、、、、さっきの人か?」
陸 「え?ん、まぁ、、、ね?そういうことになるのかな?」
蒼 「あ~ね。」
一 「ん?」
ここから、暗い話になる。
陸 「あたしの代償。夢を手に入れて、恋人を失った。」
俺 「その、、、さっきすれ違った人が、その恋人ってことだろ。」
陸 「目は合ってないけど、姿は見られたと思う、多分。」
一 「でも、話かけられなかったから、大丈夫だろ。」
陸が足を止めて、近くにあった自動販売機にお金を入れ、ボタンを押す。買ったジュースをとり、キャップを開け、そして飲む。
陸 「家がすごい厳しかったっていうのは、前も話したけど、歌すら許されていなかった。誰にも見つからないように、一人でこっそり歌ってたんだ。何回も死にたくなって、いつのまにか、歌が好きになって、こんなに上手くなっちゃってさ。そしたら、歌が止められなくなってた。『お前は会社を継いで、社会のために役立つんだ』って言われて、、、。会社を継ぐなんて嫌だ。そんなことしたら、実力じゃなくて、商品で人を幸せにしてしまう。そんなの、絶対に嫌だ。だって歌は、全ての歌は、誰かの実力で出来てるんだから。、、、夢っていうのは、誰かにあたしの歌を聴いてもらうこと。頑張ってお父さんを説得しようとしたんだけど、『出ていけ』って言われちゃった。いくつも都道府県を超えて、あの家に行ったんだ。大変だったよ、ここまで来るのに、、、。毎晩路上ライブしてさ、ある日、常連さんに声をかけられたんだ。そしたら、だんだんと、その人が好きになっていった。その人に、家のこと色々話して、、、。ただ単に、慰めてもらいたいだけだった。あたしは、あの人を利用してただけなんだ。共感してほしかっただけなんだ。本当に、悪かったと思ってる。あたしが歌ばっか夢中になってたら、いつのまにかその人、いなくなっていたんだ。手紙が届いてさ、『幸せになってくれてよかった』って。そのときあたしは、代償を持ったんだ。」
また誰かが、過去を話す。俺は、それを聞いているだけ。毎回毎回、俺は聞き手になってしまう。
陸 「ひのも、」
あぁ、とても
陸 「よく、聴きに来てくれたよな。」
俺 「上手すぎて聴き入ってしまったよ。まさか代償持ちになるなんてな。またやってくれよ、路上。」
ボトルのキャップを閉め、笑った顔を見せて言う。
陸 「おう!やってやるよ!」
今回は陸の過去を明かしました。
アニメや漫画、小説でもそうですが、一番明るくて元気のいい子が、人生に不満を抱えていると知ったとき、「切なっ!」って思いません?(作者はアニメが好きなだけで、オタクではないです。)
ここから陸の裏話に入ります。
陸の家が大企業なのは話の通りですが、陸は子供のときから今のようにチャラくはなかったんです。
お嬢様扱いを受けてきた陸は、「私が会社を継がなければならない」という責任感を持っていました。その責任感に追い詰められ、中学生のときに鬱になってしまったのです。部屋に引きこもるようになった陸に、一人の使用人が寄り添いました。
「なぜ会社を継がなくてはならないのか。」「なぜ私を普通の人間として見てくれないのか。」
自分の持っている権力を使わず、自分を特別扱いしない。そのような心を持つ陸を、使用人は尊敬しました。そこで使用人は、陸に、歌をすすめました。陸が歌を聞いたら、今まで知らなかった「歌」という共感者がいたのです。「私も誰かの共感者になりたい」と思った陸は、性格を無理矢理変え、自分なりの、歌という人生を送ることを決意しました。
そして、陸の彼氏は、辛い事情を持ってる陸を幸せにしたくて寄り添ったけど、陸はすでに歌で幸せになっていたから、離れて行った ということです。