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代償  作者: 月明かり 桜月
3/17

3. 幸せを手に入れて、存在を失った。存在を失って、幸せを手に入れた。

ちょっと文章力がないので色々おかしいかもしれません。誤字があればすぐに修正します。


加野江田かのえだ あおい - - -



 皆へ唯奈(ゆいな)の紹介が終わって、気が付けば日が沈んでいた。楓と陸と龍が作った飯を食って、寝る。そして、たまに運動して、代償を持っている人を探して、絵を見てもらって、妹がいて、、、。俺の生活はそれだけだ。それが幸せなんだ。


 この前まではそんなことはしなかった。そんなことは、できなかった。そんなことは、許されないと思っていた。


 いつも隣には父がいた。父は、俺を視界に入れなかった。俺は、父の視界に入れなかった。そしていつの間にか、誰の視界にも入れなくなっていた。



「父、母、妹、俺の4人家族だった。俺が3歳の時、妹が生まれた。妹が生まれて2ヵ月がたった時、父と母の喧嘩が絶えなくなっていた。そして、大好きな母と妹と離れることになった。でも、俺がどれだけ辛くても、どれだけ俺が泣いていても、父がいつも側にいてくれた。


 父は、俺のために嘘をついた。『母と妹は、病気で死んだ』と告げた。俺から、離婚という辛い現実を忘れさせるために。でも、3歳のときの記憶だ。2人の顔は覚えていなくても、母と妹がいたことくらい、覚えている。俺は信じるふりをした。


 小学校を入学した。家に帰っても、誰もいない。それはいつものことだった。でも俺には、3人の友達がいた。学校が終われば、友達の家に行って、漫画を読んで、ゲームして、ネットにある面白い動画を見て、いっぱい喋って、本当の家に帰る。貧乏だったから、ゲーム機だなんて口に出すことすらできなかったけど。友達は、俺の家の事情を知っていたから、いつも遊びに誘ってくれた。今思い出しても、本当にいい奴だった。


 父の仕事がどれだけ忙しいかは知っていた。父は毎日、日付けが変わっても目の前の画面を見ながらキーボードを打っていた。父の睡眠時間は、たったの数時間しかなかった。父は午前5時半に家を出て、午後6時に帰ってくる。朝ご飯は、父が仕事帰りに破棄処分予定のパンを貰ってくる。夕ご飯は、米と簡単な野菜だけだった。一見貧しい食卓にみえるが、味はとてもおいしかった。


 俺が小学4年生になろうとするとき、父はもう限界に達していた。睡眠不足、自由の無さ、運動不足、栄養不足、お金、何もかもが不足している父には、ストレスと怒りしか残っていなかった。


 初めは暴力から始まった。それは半年間続いて、気が付いたら頻繁に出来ていた痣や怪我は一つも無かった。父は仕事しかしなくなった。ご飯はパンしかなくなり、いつも腹が鳴っていた。たまに父が買ってきてくれる服も、愛情も、なにもくれなくなった。


 友達は、それに気が付いていた。体の痣や怪我が頻繁にできていること。それが急に消えたこと。いつも腹が鳴っていたこと。新しい服を着なくなったこと。僕は知らないふりをしていた。友達は知らないふりをしてくれた。家でのことなんて考えたくもなかったから、その嘘は何よりもありがたかった。何よりも嬉しかった。見て見ぬふりが、ここまで嬉しいことだなんて気付かなかった。


 休日はいつもお泊り会だった。家には置き手紙を置いて、俺が3人の家に、順番に泊りに行くだけ。3人の両親は、薄々俺の家での扱いを察してくれていた。目を細めて俺の体を見て、急に目を大きく開ける。一回ならまだしも、見るたびに痣や怪我をしていたら、虐待を疑うのは当たり前のことだろう。


 何回か、その両親に聞かれたことがある。


『普段、家で何してるの?』 『お父さんとは、うまくやれてる?』


そのたびに同じ答えを返す。


『父さんは、家でずっと仕事してるから、絵描いたり、本読んだりしてる。仕事の邪魔したらいけないから、普段はあんまり喋んない』


嘘はついていない。暴力について隠しただけだ。でもたまに、困る質問が飛んでくる。


『その怪我、どうしたの?』


そのときは、誰も嘘だと証明できない嘘を作る。


『この腕の怪我は、登校中に転んじゃって、足の痣は、この前ドッジボールしたときに、強く当たった』


先生からもよく同じような質問を受ける。そしたら、また同じように嘘を作る。そんな嘘を作るのは、難しそうで、結構簡単なんだ。それが怖いところなんだけどな。


 でも、俺の腹が鳴り始めたとき、友達は、なにかおかしいと考えて、俺に聞いてきた。友達は俺の家の事情を知っていたからか、全てを隠し通すのは無理があった。何もかもを打ち明けた。母のこと。妹のこと。父さんのこと。怪我のこと、、、。


 告白がこんなに怖いことだとは知らなかった。でも、ちゃんと言えたのは、みんないい子で、多少苦労をしていて、嘘はつかないけど、一人ひとりが秘密を持っているから。告白した後に約束した。


『お願い。これは秘密にして。誰かに言っても、大人には絶対に言わないで。』


 こんな約束ができたのは、みんなを信頼していたから、みんなが信頼してくれていたからだった。


 大人は信頼できなかった。父が嘘をついたときに知った。大人は簡単に嘘をつく。嘘の重さを知らないで嘘をつく。嘘は人を傷つける。嘘は人を殺す。嘘で人を殺すことができる。嘘で人は死ぬ。


 先生が言う。『正直に言ってごらん。誰にも言わないから』。それが嘘ということも簡単にわかった。先生が大人だったから、嘘だとわかった。


 父は嘘で、俺の大好きな母と妹を殺した。それが違うとわかっていても、父の中の母と妹は死んでいる。俺が母と妹の生存を知らなければ、俺の中の母と妹は、完全に死んでいた。もしかしたら、本当に死んでいるのかもしれない。と、騙されそうになる自分は見慣れていたし、見飽きていた。


 友達は約束通り、誰にも言わなかった。でも、もしかしたら、もしかしたらだけど、誰かに言っていたほうが、後々楽だったかもしれない。


 小学校を卒業した。父は卒業式に参加しなかった。先生は疑問に思っていたが、俺にとっては当たり前で、嬉しいことだった。父の顔を見ながら卒業するなんて嫌だから。


 中学生になった。友達は別々の中学に行った。そして、俺はわかったんだ。なんで今まで、いじめられなかったのか。

、、、友達がいたからだ。あいつらの存在が、俺を守ってくれていたんだ。あいつらが近くにいてくれたから、俺はいじめられなかったんだ。気付くのがあまりにも遅すぎた。


 はじまりは、ちょっとした嫌がらせから。机に白いチョークで『貧乏』と書かれていた。机に傷が入っていなかったのは、不幸中の幸いだった。でも、噂が広まるのは本当に早かった。まずはクラスから。それから同級生、他学年、学校。数週間であっという間に広がった。噂が流れるのは仕方がないことだが、そこからが大変だった。


机への落書き。物を隠される。教科書やノート、課題の紛失。無視。


 一番辛かったのは無視だった。はじめは数人からはじまった。止めてくれる人もいた。でも、噂が広まるように、無視も広まっていった。そしていつの間にか、誰も俺を視界にれなかった。俺は誰の視界にもはいれなくなっていた。透明人間のようだった。誰も俺に気が付かなくなった。影が薄いなんてレベルじゃなかった。姿はあっても、存在感がまるでなかったんだ。修学旅行には行かなかった。いや、行けなかった。旅行費があまりにも足りなかったから。誰も俺を見つけられなかったから。


 なんとか中学校を卒業して、父とも離れた。まぁ、俺が勝手に出て行ったんだけどな。


 それから、友達の家を訪問した。二人はどこかに引っ越していた。でも、一人には会えた。見た目と声がかなり変わっていて驚いた。性格は全然変わっていなかったけどな。泊めてもらいたいと説明をしたら、『もちろんだ』と言ってくれたから、3日ほど泊めてもらった。その3日、開放感と倦怠感で、何もできなかった。完全に体と心が弱っていた。


 3日たって、これ以上いたら迷惑になるって判断して、お礼を言って、出て行ったんだ。ここからも少し大変で、公園で寝たり、空き地で寝たり、色々なところに行ったんだ。俺の服がどれだけ汚れていても、誰も俺を見なかった。やっぱり、存在感がまったく無かったんだ。


 ある日、大きなデパートに行ったんだ。デパートに行った記憶がなかったから、すっげぇ興奮した。でも、また開放感と倦怠感で、足が動かなくなった。ベンチで休んでたら、俺と同じくらいの女の子が声をかけてくれたんだ。


『あんた、めっちゃ服汚れてるじゃん。大丈夫?顔色悪いぞ?』


って。誰かから声をかけられるなんて、久しぶりすぎてびっくりした。『大丈夫』だって言っても、帰ってくれないから、色々説明したら、


『じゃ、あたしの家来ていいよ。お金とかいらないからさ。』


そう言われてついて行ったら、この家だったんだよ。


、、、。おい、唯奈、寝たのか?」


隣の妹の唯奈が、こちらに背を向けて寝ていた。お前のために、兄として話してやったのに。途中で寝落ちする可能性も考えてはいたけど、本当に寝るとは、、、。まぁ、寝たふりかもしれないから、最後まで話しておこう。


「で、この家に住まわせてもらうことになったんだよ。名前を聞いたら、『青野あおの りく』って返したんだ。そしたら、ひのが俺たちを見つけてくれたんだ。ここからは、お前でもわかるだろ?


 あと、倦怠感の理由、陸が言うには、栄養不足とストレスのせいだって。俺は俺のことに必死すぎて、ストレスが溜まってるだなんて、気付きもしなかった。


 、、、最後に、


『真実を見なさい。それを信じなさい。真実を見て、傷つくときがきたら、過去を受け入れなさい。』


『嘘をつくときは、誰も傷つかない、そして、誰も嘘と証明できない嘘をつきなさい。一番いけないのは、自分が作った嘘に、自分が騙されることよ。』


母さんがよく言ってた。真剣な顔で、力強い声で言ってたんだ。


あと、俺は、幸せを手に入れて、存在を失った。最初、お前が俺を見つけられなかったのも、そういうことだ。


 長くなってごめんな。疲れてただろ。、、、おやすみ。」





最初は蒼の過去を明かしました。こんな感じの過去をメンバー全員が持っています。

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