雨
暫く空を眺めて逡巡していたヌムカであったが、意を決し荷物を纏めると、雨除けの布を体に巻いて歩き始めた。
大粒の雨が頭と肩を叩く。濡れない様に目深に布地を被った所為で視界は悪い。自然と俯き、足元を見る。
一歩、また一歩と繰り出す足先が目に入る。あと何万、何億回とこの光景が続けば目的地に着くのか。そんな考えが浮かぶ。
足元を見れば、無限の様に思える道のりに対し、自分の歩く一歩一歩が何と小さい事か。泥濘んだ地面はより一層ヌムカの足を重くする。
雨の日には動物達も寝ぐらに居るのか、生き物の気配はまるで無く、雨音が耳を覆いたくなる程に鳴り続けている。
腹が減った。
呟いたその言葉も、雨音に掻き消され誰の耳にも届かない。
雨粒が痛い程に激しさを増し、ヌムカの体の至る所を打ち付ける。ヌムカはその時、雨音の中に混じる金属の音に気が付いた。その音は小さく後方から聞こえるようだった。
ヌムカは咄嗟に振り向き周囲を見渡した。
聞き間違いでは無い。確かに今も一定のリズムで音が鳴っている。
雨にくすんだ景色の中には、未だ音の出所は見当たらない。
ヌムカは嫌な予感を覚え、道を逸れ森へ身を隠した。