一年冬休み 『帰還』
「「「はあああああ?」」」
「ちょっ、近所迷惑」
その日、みんなにアメの帰還を連絡すると揃って我が家へやって来た。
そして、揃って驚きの声を上げた。
「はっはっは、いい反応だな」
「いやいやいや、なんだその体は! かわいいじゃないか、とりあえず結婚してくださぐはぁ!」
信二のプロポーズは、アキラちゃんのノールックパンチで粉砕された。
「アメって女の子だったの?」
いづみちゃんが、アメの髪のキューティクルに感心しながら言った。
「いや、ダイダラボッチである儂には性別などない。ただ、付いてても邪魔だから生やしていないだけだ。晴人、どうだ? 生やしたほうがいいなら生やすが」
「やめろー!」
咄嗟に動いたが、時既に遅し。
せっかく着せたTシャツを捲くって、アメは下半身を露出した。
「キャー!」
「こら! 男は見るな! アメも、はしたないマネやめなさい!」
コメさんがピシャリと言ってくれた。
「す、すまん」
見下されることに慣れていないのか、意外と素直に謝った。
「まぁ、なにはともあれ戻ってよかったな。晴人も、死人みてぇな顔してたけど、明るくなったみたいで安心したわ」
「あ、その……心配かけてすいませんでした」
ムギさんに笑顔を向けられ、僕はみんなに頭を下げた。
「あははは。そんなことしなくていいさ、笑ってくれたまえ親友!」
ルイが親指を立てて笑った。
「なんにせよ、とりあえず外に出ないか? すまんが狭い」
体のほとんどをクローゼットに突っ込んだ衛が、ひょこっと顔を出して唸った。
たしかに、一人暮らしの部屋にこの人数は多すぎる。
「それに、どのみちこのあと予定あるしね」
「え、マジで? 急に呼んじゃってごめんね」
僕が謝ると、みんなきょとんとした顔でこちらを見つめた。
「あー、本当になにも頭に入ってなかったんだな」
「お前も行くんだよ」
信二と衛にツッコまれた。
「え、行くってどこに」
言い終わる前に、ムギさんが早々に玄関へ行き、満面の笑みで扉を開け放った。
「決まってんだろ? ひかりんの復帰ライブだよ!」
言われるがままに手を引かれ、電車を乗り継いで会場へ向かった。
「ここは……」
あの暑い日々を過ごしたイベント会場だった。
「粋な演出するだろ? えーっと、関係者入口は」
「え、関係者なのか?」
「当たり前だろ」
ムギさんは自慢げな笑みを浮かべたが、決して当たり前ではないと思う。
っていうか、もし夏の関係者のことを言っているのなら、少なくともルイは違うんじゃないだろうか。
そんな疑問は、みんなの中ではとっくに解決しているらしい。
信二の案内で、搬入口が併設された関係者入口へと向かった。
「お、来たな。高若くんも、元気になったみたいでよかった」
身体検査を終え、慌ただしい会場の中に入るとマイケルさんが出迎えてくれた。
「はい、ご心配をおかけしました」
「うん、それはあの子に言ってやってくれ。あのときの男子もいるな……ん? きみは?」
「アメじゃ」
「ちょっと何言ってるか分からない」
マイケルさんにどうにか分かってもらい、アメの来場も認めてもらった。
「と、とにかく。さっそくお願いしたいんだが、頼めるか?」
「もちろんです!」
「へ?」
訳も分からず突っ立っていると、みんなはコートを脱ぎながら迷わず通路を進んだ。
「晴人、俺たちはなんだ?」
ムギさんが振り返り、もったいぶって問いかけてきた。
「ボランティア部です」
「そうだ。なら本番前のここに来た理由は、言わなくても分かるよな?」
「……まさか」
「今から会場設営および清掃のボランティアを始める! 報酬は関係者席で眺める、最高のライブじゃー!」
「「「イエーイ!」」」
今までの活動で、一番テンションが高い。
でも、悪くない。
なんだか、やっと日常に戻った気がする。
「おっと、高若くんとアメはこっちに。ひかりんにも顔を見せてやってくれ」
ヘンゼルで連絡したらしく、僕たち二人は以前にも向かった二階の部屋へ通された。
「晴人さん! アメ!」
部屋に入るなり、ひかりちゃんは思い切り抱きしめてくれた。
彼女も忙しい合間を縫って、今日まで僕の身を案じるメッセージをくれていたのだ。
「よかった、本当によかった」
「心配かけたね」
まだセットする前の髪を、優しく撫でた。
「私は席を外しましょう」
森さんが淡々とした口調で言ったが、僕らに優しい微笑みを向けてくれた。
三人になると、ひかりちゃんは頬を膨らませてアメと向き合った。
「もう、アメ! なんで消えたりしたの! っていうか、なにその体! めちゃくちゃかわいいんですけど! どうする? 今日のライブ出ちゃう?」
「落ち着いてひかりちゃん」
興奮した様子のひかりちゃんを、なんとかなだめた。
「……うむ、ひかりんも無関係ではないか。いいだろう、二人には事の真相を教えてやろう」
アメは偉そうに椅子に座り、僕たちは立ったまま耳を傾けた。
ずいぶんともったいぶっているが、なんとなくアメが話したくて仕方がなかったのではないかと感じた。ニヤリと笑い、僕らを見上げた。
「晴人よ、お前は奇跡を掴んだのだ。この姿は、儂の使い魔としての最終形態とも言えるもの。だが、これにはもちろん条件がある。歴代の主でもっとも近かったのはひかりんの先祖だったが、それすらも超えたのだ」
「僕がどうやって?」
たしかに、朝も同じようなことを言っていた。
「この姿になるために必要なのは環境だ。まず儂以外に、二体の伝説級使い魔が側にいること。少なくとも、そのうち一体が神クラスの力を持つことだ」
「フォークスとルイの呪い」
思わず呟いた。
「その通り。そして、ひかりん。きみだ」
「私?」
指を差されて、ひかりちゃんは目を丸くした。
「儂と過去の主との縁。あの日、ここで儂の声を聞いたきみの血には、色濃くそれが残っていた。まぁ、だろうな。歴代最強の女であったから、あれは」
アメは遠い目でひかりちゃんの顔を見た。
どこか、面影があるのだろう。
「その因子が、儂に干渉した。この姿は見ての通り小さい。だが、その分魔力が圧縮され高出力の魔法を使うことができる。今までとは比べ物にならんほどにな」
得意満面のアメだが、今までも強力過ぎる力だったのに、これ以上なにができるというんだ。
「た、例えばどんな?」
僕の心を、ひかりちゃんが代弁してくれた。
緊張の面持ちをしている彼女の問いに、アメは待ってましたと言わんばかりに答えた。
「晴人、ひかりん。人生をやり直してみらんか?」
「「え?」」
目の前にある無邪気な笑顔は、可憐そのもの。
今まで何度も助けてくれた、信頼する使い魔。
なのに。
でも、今のアメからは得体のしれない恐怖がにじみ出ていた。




