一年後期 『消えたもの』
あの日から時が経ち、僕らの生活にも平穏が戻り始めている。
あのあと、第二の関係者はマイケルさんが手配した救急車によって病院に運ばれた。バーの従業員や幹部連中の容態は少し心配だったが、全員翌日には意識も回復し、体にも異常は無かったという。
しかし、第二テニスサークルはその日以降、事実上の解散となった。
今田をはじめとする幹部たちは、退院した当日に警察へ自首した。自ら逃れられない証拠を持参し、止める家族を振り切っての行動だった。バーの従業員たちは全員第二のOBで、同じように過去の罪を告白したらしい。
すべての罪を認め、自分から重い処罰を求める彼らは、常になにかに怯えている。そんな噂がささやかれていた。
女性部員のその後は、誰も知らない。
三人とも大学には来ず、自主退学となったらしい。実家に引きこもっているとか、海外に移り住んだとか定かではない情報が飛び交っている。
そうだ、これも忘れてはいけない。
あのときルイに群がっていた女性たちは、第二と関わっていた時期の記憶が抜けてしまっていた。
突然の浦島太郎状態で混乱していたが、第二が使った怪しげな薬や暴行による身体的なダメージもすべて消えていた。今はカウンセリングを受けつつ、第一に戻った人もいる。
そして、僕たちボランティア部には改めてルイが加わった。
「そうか、フレイヤ様に会ったんだね。いいなぁ〜」
ルイはあの場で正気を取り戻し、何事も無かったかのように笑った。
事の顛末を聞くと羨ましそうに目を細め、のんびりと語った。
「大丈夫。ボクはこの力を無闇に使うつもりはないよ。フレイヤ様が楽しみって言ってくれたんだ。すべてをもらわれる者として、ふさわしい人生を歩み、ふさわしい人間になる。そのために生きていくさ」
ボランティア部は、その理想にうってつけなのだそうだ。
色々と性格に問題はあるが、眼鏡も取り戻したし魅了の力については一先ず安心だろう。なんにせよ、一層僕の周りはにぎやかになるはずだ。
……嬉しいような、困るような。
あ、第一テニスサークルは、ムギさんたちのおかげで第二とは無関係な団体として周知されている。
僕らが女神フレイヤと対峙していたとき、ムギさんたちは県内外の大学に対してイメージ払拭に奔走していたらしい。
ムギさんは「俺たち顔が広いから」と笑って自慢していたが、広いにもほどがあると思う。
本当に色々あった。
語りたいこと、聞きたいことが山ほどある。
なのに、その相手がいない。
あの日から、アメは何も言わずに僕の前から姿を消した。
入学時とは違い、どんな呼びかけにも応じずフォトンボールすら発動できない。こんなことは初めてだった。
みんなも手を尽くしてくれたが、今日まで何一つ手がかりは見つかっていなかった。
これじゃあ、なにも楽しめない。
心に広がるのは喪失感ばかりだ。
空を見上げると、静かに雪が降り始めた。
ふと周りを見ると、すでに世の中はクリスマスの装飾で飾られていて、サンタの到来を待っている。
こんな変化にも気づかなかったのか。
「……どこにいるんだよ」
白い呟きは空気に溶け、頭にはなにも響いてくれない。
出迎えのない部屋に帰ると、なんだか体が重たく、なにもやる気が起きなかった。
荷物を放り投げ、ベッドに倒れた。
なんだかいつもより、寒い気がする。




