一年後期 『諸悪の根源』
僕らは食堂を出ると、ルイと合流するため東棟へ向かった。
太陽が雲で隠れ、今にも雨が降りそうだ。
「おーい、晴人くんたちぃ~」
テンションの高い声で、ルイが現れた。
どうやら合流を早めるためにこちらへ歩いていたようだ。
しかし、手を振る男は一人ではない。
「お、きみたちがボラ部の三人組?」
艶々のオールバックに、顎髭の男が声をかけてきた。
足下には、魔犬の使い魔が毛並みを自慢するように歩いている。
「へぇ~、なんかアニメのキャラっぽいね。それぞれ個性があるっていうか」
「いやいやいや、一人個性あり過ぎるだろ! きみさ、どんだけ鍛えてんの?」
マッシュルームカットの優男と、小太りの金髪眼鏡が馴れ馴れしく話しかけてくる。
「えっと、ルイ。この人たちは?」
「あぁ、第二テニス部の先輩たちさ。魔犬連れてるのが部長の今田先輩。こっちのアイドルみたいな人が、谷口先輩。で、もう一人が桜庭先輩だよ」
敵の本丸が、急に目の前に現れた。
っていうか、ルイは本当に何考えてるんだ。
「どうする? このままやるか?」
衛が靴紐を結ぶフリをしてささやいたが、僕は足を横に振って「ノー」を伝えた。
「いやぁ、ルイって本当に面白いやつだよな。いい友達持ったよ、きみたちも」
「……ども」
僕らは敵意を隠しながら、今田の言葉に耳を傾けた。
「そうそう、今日ルイの歓迎会するんだけどきみたちも来ない? 第二のOBが経営してるバーを貸し切りでやるんだ。どう?」
突然の誘いに、気まずく「あはは」と笑うことしかできなかった。
「まぁ、いきなり言っても困っちゃうよね? でさ、もし来てくれるんならお願いがあるんだ」
谷口が胡散臭い笑顔で言った。
「きみたちの部にさ、ハーフの子とその従妹の子がいるよね? その子たちも連れてきてくれない?」
「え、なんでっすか?」
信二が、危うく睨みつけそうになりながら返した。
「いやね、あの子たちと入学早々もめちゃってさ。そのお詫びをしたいなって。お酒と高い食べ物もたくさん用意するから、ちょうどいいかなって。ルイよりきみたちのほうが仲がいいんでしょ? 頼むよぉ」
どこか甘えるような口調と、中性的な顔立ちで警戒を緩めてしまいそうになる。
年上なのに、弟を相手にしているような雰囲気だ。
「あとさ、どうにか米富さん呼べない? おれ、お近づきになりたいんだよなぁ」
桜庭は笑いながら、信二の背中をバンバンと叩いた。
「てめ」
「いいっすね! 一応声かけてみます!」
わざと大きめの声で、信二の動きを制した。
怒りが爆発しそうになった信二だが、寸でのところでなんとか止めることができた。
「お、いいね。じゃあ、来るならルイに連絡してくれ。女の子たちがどうなったかも、教えてくれよ」
「じゃあね」
「あとでな、ルイ!」
三人はにこやかに去ろうとした。
だが、今田が振り返り笑みを浮かべて付け加えた。
「来たらいろいろ食べれるからさ。期待していいぜ?」
言葉と共に向けられた指は、正確に僕の股間を指さしていた。
それが彼らなりのユーモアだったのか、三人は「ぎゃははは!」と笑い、去って行った。
「あははは! ねぇ、どうだった?」
いつもならなんともないルイの笑い声が、今は妙にイライラする。
「てめぇ、どういうつもりであいつらと会わせたんだ?」
衛がルイの胸ぐらを掴み、低い声で聞いた。
普段なら止めるが、今はそんな気にならない。
「どういうつもりって。ただ知ってほしかっただけさ。第二の先輩たちを」
足が宙に浮いても、ルイの笑顔は変わらなかった。
「で、どうだい? 僕の歓迎会、来てくれるのかな?」
衛は馬鹿らしくなったのか、乱暴に放し「行かん!」と吐き捨てるように言った。
「おれもだ。行くわけねぇだろ」
「そっか。晴人は?」
笑顔のルイが僕を見た。
本当に何を考えているのかわからない。
でも、なぜだろう。
こいつは味方だと、信じていいと思えた。
「行かないよ。でも、お前にいくつか頼みがある」
僕の返答がわかっていたのか、笑顔がより嬉しそうにほころんだ。
「きみの頼みなら、なんでも聞こうじゃないか」
そして、午後七時。
駅から十分ほどのバーに、第二のメンツが集まりつつあった。
僕、信二、衛、アキラちゃん、いづみちゃんの四人は、息を潜めてその様子を見つめている。
ムギさんとコメさんはなにやら別でやることがあるようで、この場にはいない。
「さっそく連絡があったと思ったら、また面倒なことに巻き込まれてるのか」
代わりに、苦笑いを浮かべるマイケルさんがいる。




