一年後期 『雄叫びの昼食』
山田さんからの相談から三日。
僕らは第一テニス部の人たちと協力して、第二テニス部との差別化やイメージアップに努めた。
SNSで正当なテニス部としての拡散や、いっそのこと名前を変えてしまおうかというアイディアまで上がり、やりがいと使命感に満ちていた。
また、同時進行で第二の行動も調べることになったのだが、その任務を任されたのは、ほかでもないルイだ。
「あははは。潜入捜査ってことだね。いいよ、楽しんでくる」
こちらの意図を理解しているのか不安だったが、とりあえず任せた。
元がイケメンだからか入部はすんなりといき、意外に忙しいとのことで僕への付きまといは落ち着きを見せ、ボランティア部にも顔を出していない。
まぁ、三日前の発言で女性陣からの評価を下げたから、一旦距離を置けたのは都合がいい。
今後の働き次第で取り戻すチャンスは十分にある。
「きゃはははは!」
高い声の笑いが、正面のテーブルから食堂中に響く。
僕は昼食を取りながら、それぞれ兼部しているサークルに向かった信二と衛を待っていた。
アキラちゃんたちは、コメさんと外のカフェに向かい、ムギさんは再履修の授業に提出するレポートを必死に仕上げているはずだ。
「この色ヤバくない? ウチマジで似合うくない?」
「すごい似合う~! マジいいじゃん!」
「きゃはははは!」
高い声の主たちは、そろいのスポーツウェアに身を包み、食事の食器も下げないまま女子トークを繰り広げている。
それ自体はいいのだが、食堂でネイルは勘弁してほしい。
にしても、大学にまでこんなマナーの悪い人がいるんだなと、ある意味感心してしまう。
「それでさ、新しく入った一年の子すごいイケメンなんだって!」
「今日、その子の歓迎会なんでしょ? 会えるのチョー楽しみ!」
「あんた、今田先輩狙いって言ってたじゃーん!」
会話は聞く気がなくても耳に入るのだが、僕はあえて意識して聞いている。
なにせ、彼女たちが着ているのは例の第二テニス部のスポーツウェアなのだから。
「なんかー、眼鏡かけてるんだけど、めっちゃイケメンなんだって! 体質? の関係で眼鏡は外せないらしいんだけどさ」
「なにそれ気になる!」
「やばーい!」
なにか身になる情報があればと思っていたが、あまり期待はできなさそうだ。
歓迎会のことはルイから教えてもらっていたし、新しい情報もないかな。
「あ、そういえば、第一の奴らがなんかしてるらしいよ」
すすりかけたうどんを止め、聞き耳を立てた。
「なんかって?」
「なんかー、ウチらとの差別化? みたいなのしてるんだって。マジウザくない? なんかウチらと一緒にされたくないみたいじゃん」
いや、実際そうなんだって。
「まぁまぁ、何人かかわいい子取られたりしたから、ひがんでるんだよ。ほら、部長の山田って陰キャっぽいじゃん?」
「それ思ったー! なんかー、この前ウチに入った女の子のこと、ちょっと好きだったっぽいんだよね、あいつ」
昼食を進める手が本格的に止まった。
「なにそれ、寝取られってやつ? 可哀想ー」
「でもさ、今田先輩とかに言い寄られたら、もう無理じゃん? 勝ち目ないし、もう体が夢中になるっていうか」
「やだそれマジで可哀想ー!」
可哀想とか言う割に、三人はまた「きゃはははは」と高い声を上げた。
「あ、やば。次の講義、もう休めないんだ」
「えー、マジで?」
「ほら、行こう行こう」
周りの白い目などお構いなしに、三人は最後まで騒ぎながら去って行った。
ふと、自分が拳を握っていることに気づいた。
山田さんのことはよく知らない。
でも、本気で打ち込んでいるテニスを邪魔され、意中の相手まで奪われていたなんて。
そんなの、ひどすぎる。
「……よう」
「……うす」
衛と信二が、低い挨拶と共に両隣りに座った。
「……聞いてたか?」
「まぁ、な」
「聞きたくなかったけどな」
きっと、注文を待っている間に聞こえたんだろう。
二人からはなんとも言えない、重い空気が漂っている。
そして、僕らは一呼吸置いて。
それぞれの飯をかきこんだ。
僕はうどんを、衛はカレーを、信二はそばを。
誰もなにも言わず、周りも気にせず、すべて平らげた。
「……ごちそうさまでした!」
ほぼ同時に食べ終わり、三人揃って手を合わせた。
それと同時に、ルイからメッセージが届いた。
『歓迎会の場所、ここだって~。時間は一九時から。なにか質問あるかい?』
二人にも画面を見せると、待ってましたと言わんばかりの顔をした。
「……いくか!」
「おう!」
「っしゃ!」
二人も僕と同じ気持ちなんだろう。
例の相談に対する思いが、さっきまでとはまるで違う。
奴らを許さねぇ。
そんな雄叫びを心で上げていた。




