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一年後期 『二つのテニスサークル』

「えー、気を取り直して紹介するな。今回の依頼人、山田くんだ」


 気まずい雰囲気の中、ムギさんのとなりに依頼人の男性が立った。

 部屋の隅では、信二がシクシクと泣いている。


「あー、取込み中だったんなら、出直すけど」

「大丈夫大丈夫! あの子強い子だから!」


 コメさんが笑ったが、強い子の背中は小さく丸まっている。


「まぁ、そう言うなら……気にすんな、信二。誰にも言わないし、今度飯奢ってやるよ」

「ぐすっ、本当っすか」


 奢るという言葉に、信二はやっと振り返った。


「あれ、知り合いですか?」

「あぁ、俺はテニス部の部長してるんだ。知ってるだろ? こいつ、テニス部と兼部してるって」


 そういえばそうだった。

 まだちゃんと練習してるところを見たことがないけど。


「晴人、忘れてただろ? おれはこれでも、第一テニス部期待の小柄な大型新人だぜ?」

「ややこしいわ」

「ねぇ、信二くん。第一ってどういうこと?」


 調子の戻ってきた信二に、いづみちゃんが首をかしげて聞いた。


「うちには第二もあるんだよ。まぁ、ほとんど接点ないけど」

「……相談ってのは、まさにそのことなんだ」


 山田さんの表情が、どんよりと暗くなった。


「なぁ、ムギとコメちゃんは知ってるだろ? あいつらの悪評」

「おう」

「……まぁ、ね」


 二人は言いにくそうに視線を合わせた。


「悪評って、どんな?」


 アキラちゃんが怖い目で聞いた。


「お遊びなんだよ、あいつらは。うちら第一テニス部は、真剣に活動したい人たちが集まってる。大会に出て成績も残してるし、素人でもテニスに興味があるなら大歓迎だ。そこの信二がいい例だよ。はじめはルールも知らなかったんだから」

「脅威の成長ですもんね!」

「やっと、それなりのサーブが入るようになったとこだけどな」


 ふふっと笑い返すと、山田さんの表情はまた暗くなった。


「第二はテニスなんて興味もない連中なんだ。練習だって、週に二回程度。それも、コスプレみたいにテニスウェアできゃっきゃしてるだけ……はっきり言うぞ、ヤリサーなんだよ、あそこは」


 いづみちゃんとアキラちゃんの顔が引きつった。

 

 大学に入る前、そんないかがわしい存在も噂では聞いていた。でも、本当に実在するとは。


「今までは関りもほとんどなかったんだけど、新しい部長になってからひどいんだよ。女子に片っ端から声かけて、噂では危ない手口も使ってるらしい。その悪評が、同じテニスサークルを名乗ってる、うちにまで飛び火してるんだよ。そのせいで、部員は減るし練習試合は組んでもらえなくなるし、マジで迷惑してるんだ」


 山田さんは深いため息をついた。


「同級生が減ったの、そんな理由があったのか」


 信二が悔しそうに拳を震わせた。


「そういえば、入学早々に声かけてきた奴らがいたけど、あれかな?」

「いたねぇ~、そういえば」


 アキラちゃんたちが顎に手を当てて、互いに記憶を確認し合った。


「どんな奴らだった?」

「中途半端な自称イケメンと、金持ちアピールのウザいスポーツウェアの」

「それそれ」

「ビンゴ」


 山田さんとムギさんが指をさして正解を称えた。


「アキラちゃん、無理やり連れていこうとした二人を、ヨイチと一緒に撃退したもんねぇ。ちんちん切り落とすぞって、すごい迫力で」


 いづみちゃんがほんわかした口調でぶっこんだ禁止ワードに、その場にいた全員が反応した。


「いいいいいづみ! なに言ってんの! っていうか、あたしそんなこと言った?」

「言ったよぉ! 『その貧相な金玉切り落とされたくなかったら、二度と近づくな」って」

「気づいて、いづみちゃん! すごいこと言ってるから!」


 アキラちゃんとコメさんに制止され、やっと発言の問題に気がついたいづみちゃんは、顔を真っ赤にして部屋の隅にうずくまった。


「と、とにかくだ」


 ムギさんが仕切りなおすように手を叩いた。


「要は、第二と第一は関係ないってことを証明すればいい。全員で知恵を出し合って、対策を考えよう」

「ねぇねぇ」


 ニコニコ笑いながら様子を見ていたルイが、おもむろに手を上げた。


「どした?」

「ここって兼部オーケーなんだよね? それならさ、ボクその第二テニス部に入りたいなぁ。いろんな出会いがあるんでしょ? 楽しそうだよね」

「……話聞いてたか? お前」


 せっかく輪に入れたと思ったルイだったが、この日最も冷たい視線を浴びることになった。

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