一年後期 『男女の約束』
「やべええええええええ!」
「み、みんな目をつぶって!」
「やだあああああああああ! もうチ〇コ振り回して走るのやだああああああ!」
「フォトンボール!」
慌てふためくみんなが魅了されるよりも早く、なんとかフォトンボールをルイの目に仕込むことに成功した。
「おぉ! やっぱりきみはボクのベストフレンドだ!」
一時的に危険がなくなったとは言え、ルイが喜んでこっちを見てくる。
「晴人おぉぉぉ! ありがとなああああ!」
「心の友よおおおお!」
みんな心から安心したようで、ムギさんと信二は泣き叫んで抱きついてきた。
「じゃあ、顔のほうは僕がやるから」
嬉しそうに見つめてくるルイの視線を感じながら、床に下ろして縄をほどき、解放してやった。
「あははは。なかなか刺激的な体験だったよ、ありがとう」
みんなそのとき、ルイの素顔を初めて見た。
眼鏡を外し、髪をかき上げた姿。
イケメンだった。
昨日は正直、行動の気持ち悪さが勝っていたが、ただ立っているだけでものすごく絵になる。
「こりゃ女神も贔屓にするわ」
コメさんが感嘆のため息をついた。
「……さて、晴人くん?」
「はい……」
ムギさんたちは一限目を諦め、図書館へ昨日の手伝いの続きをしに向かった。
ルイもなぜか同行し、部室には女性陣と僕だけが残っている。
「多くは語らないけど……でも、わかるわよね?」
「はい……」
昨日見てしまった三人の姿。
正直、目撃して嬉しい気持ちもある。
しかし、怖い。
逃げ場なく囲まれるこの状況と、このあとの展開は恐ろしさしかない。
「まぁ、あれはうちの馬鹿にも責任があるよ。デリカシーがなさ過ぎた」
視界の端で、小さくなっているヨイチの姿が見えた。
「で、でも、ヨイチたちも必死だったし」
「それはわかってるの!」
いづみちゃんが頬を膨らませて遮ってきた。
「晴人くんもヨイチもマイモもレオーネも、みんなわたしたちのために頑張ってくれたのは知ってるよ? でも、その、あんなエッチなところ見られたなんて、恥ずかしくて」
「いづみ、はっきり言葉にしないで! 恥ずかしいから!」
アキラちゃんは顔を赤らめ、僕から視線を逸らした。
「とにかく、晴人くんをそこまで責めるつもりはないの。でもね、私たちにだって恥じらいはあるから。いろいろ考えた結果こうすることにしました」
首をかしげていると、アキラちゃんといづみちゃんが両脇に立ち、みんなで向かい合った。
「はい、手を出して。小指を立てて」
コメさんに言われるがままに、右手を突き出し小指を立てた。
三人も同じように小指を立てると、僕を巻き込んで複雑に絡ませた。
「いたたたた。こ、これなんですか?」
「我慢なさい。じゃあ、晴人くん。改めて聞くけど、昨日見たことは誰にも言いませんか?」
「はい、もちろんです」
コメさんの言葉に、深く頷いた。
「なにかに書いたりするのもダメだよ?」
「書きません」
「え、えっと。とにかく、誰かに教えちゃだめ! 誓いますか?」
「はい。どんな方法を使いません。誓います」
アキラちゃんといづみちゃんの質問にも、同じようにした。
「私たちも、これ以上晴人くんを責めません。米富、誓います」
「鳴水、誓います」
「桃園、誓います」
「じゃあ、指切りの言葉は知ってるよね? いっしょに言うよ、せーの」
疑問を口にする前に、指切りの合唱が始まった。
「「「「ゆーびきりげーんまん うそついたら はりせんぼんのーます ゆびきった」」」」
次の瞬間。
足元に描かれていた魔法陣が輝き出した。
「え! なにこれ!」
赤い光が落ち着くと、三人は満足したように絡めた指を解いた。
「ゆびきりが、遊女と客の約束が由来って聞いたことない? だからね、ちゃんと魔法陣組んで手順通りすれば、男女の契約にもってこいなのよ!」
コメさんがフフンッと笑った。
元々は、なにかあったときにムギさん用で準備をしていたものだという。
「もし誓いを破ったら、小指がちぎれるような激痛が走るからね。一年間」
「えっ!」
もちろん誰かに言うつもりなんてなかったけど、ペナルティが重すぎる!
でもまぁ、三人も同じ条件なんだから、さすがに文句は言えないか。
「さてと。これでおっけー! 私たちも図書館に行こう!」
「「はーい」」
僕は憑き物が落ちたような、それでいてなんだか別の重みを背負ったような気持ちで部室を後にした。
ふと、ルイのことが頭によぎった。
もしあいつが女神以外の誰かを好きになったら、どうなるのだろう。
想像もできないが、もペナルティがあるのなら小指程度じゃ済まないことはたしかだ。
(お前の女難もたいがいだな)
青い空をバックに、男でも女でもない存在が笑っていた。




