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一年後期 『犯人 黒崎ルイ』 

 真夏に比べて少し涼しいが、まだ遮られない太陽の光は眩しく熱い。

 そんな陽気に波打ち際は過ごしやすく、美しく開放的なロケーションもあって、ついテンションが上がる。


 その気持ちはわかる。

 ドラマや映画の恋人たちのように、走りたくなるものかもしれない。

 現に今、誰もいないビーチでは追いかけっこが始まっていた。


「来るなあああああ!」

「待ってえぇぇぇ! ボクの運命の人おぉぉぉ!」

「違うわボケええええ! パンツを脱ぐなああああ!」


 しかし、現実にビーチを彩るのは、男の悲鳴と見たくない肌色だった。


「待って! それなら、とりあえず落ち着いて話をしよう!」

「素っ裸で突進しながら言われても説得力ないんだよ!」


 砂に足を取られながら、僕は必死で逃げた。


「このっ!」


 僕より細いのに、男は意外に体力がある。


 距離を縮められた僕は、フォトンボールで岩場に逃げた。


「こっちだねぇ!」

「うそだろ!」


 ダミーも含めていくつか飛ばしたのに、僕が転移する地点に一目散に走って来やがった!


「なんなんだよ、お前! おい、アメ! いい加減、なんとかしろよ!」


 見ているだけの使い魔に怒鳴った。


(うむ、そろそろいいだろ。おい、貴様。そこに座れ)


 アメの言葉と共に男は砂浜の中心に転移し、きょとんとした顔で正座した。


「おぉ、これがきみの力か! 素晴らしい!」


 男はアメを見上げて手を叩いた。


「んで、なんなんだよお前。あの騒ぎのこととか、聞きたいことが山ほどあるんだ」


 アメの近くに転移した僕は、襲われないように身構えていた。


「うん、そうだね。でも、まずは自己紹介させてくれ。ボクの名前は黒崎(くろさき)ルイ。ルイって呼んでおくれ。文学部の一年生だ」


 ルイと名乗った男は、さわやかに笑った。


「え、今まで会ったことないけど」


 まさか、同じ学部の同級生だったとは。

 けれど、この騒ぎになるまで、この男をどんな授業でも見かけたことがない。


「あぁ、そうだろうね。入学して、ちゃんと大学に通ったのは今日で三回目だから」

「……は?」


 なに言ってるんだろうと思った。

 もしそれが本当なら、前期の単位はゼロってことか?

 気になることが多すぎる!


「ボクのことを気にしてくれて嬉しいよ。でも、そうだね。先に、あの騒動について説明するよ」


 にこやかだったルイの顔が、悲しそうに俯いた。


「ボクも、やろうと思ったわけじゃないんだ。普段、この力を封じてる眼鏡を無くしちゃって。そのせいで周りにいた人と目が合って、あんなことになっちゃったんだ」


 目元の魔力が、炎のように揺らめいた。


「なぁ、お前の目ってどうなってるんだ? なんで、そんな力持ってるんだよ」


 ルイが答えるよりも先に、頭の中でアメの声がした。


(呪いだな。それも……神からもらったな、貴様)

「は?」

 

 神からの呪い。


 そんなの、おとぎ話や古い伝説でしか聞いたことがない。

 そもそも、神と呼ばれる存在なんて使い魔の伝説タイプですら、一〇〇年ほど出現例がない。


 だから、文字通りの伝説であり。

 大妖怪であるアメよりも、ずっと高位の存在だ。


 そんなものから呪いを受けるなんて、こいつはなにをしたんだ?


 僕のいぶかしむ視線を受けながら、ルイは首を横に振った。


「とんでもない。呪いなんかじゃないさ。これは愛だよ。女神フレイヤからの」


 彼は誇らしげに、それでいて幸せそうに微笑んだ。


 その微笑みは、男とは思えないほど美しかった。


 でも同時に、同じ人間とは思えない恐ろしさがあった。

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