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一年後期 『犯人』

 外へ出ると、狂った愛の叫びと悲鳴が近くまで来ていた。


「アメ、とりあえずヨイチの言っていた男を探すぞ。全身黒ずくめの長髪、背が高くてやせ型。少ない特徴だけど、お前と同じような魔力なら、見ればすぐにわかる」

(……あぁ、そうだな)


 アメの声は微かに震えていた。


 さっきの呟きといい、ヨイチの話への反応といい、アメはなにかこの事件に思うところがあるようだ。

 問い詰めたかったが、そんなことに時間を使っている場合ではない。

 女性陣の安全はもちろん、ムギさんたちがこれ以上痴態を晒さないように急がなくては。


「まだ大学の敷地にはいるだろう。片っ端から探すぞ」


 僕の言葉にアメは黙って従い、転移が始まった。


 広大な敷地の中を捜索しながら、被害が思ったより広がっていることに驚いた。

 最初に見た集団から明らかに増えていて、恐らく男の行く先々で被害者が増えているのだろう。


「くそ、大人しくしとけよ」


 おかげで足跡が終えるのだが、いたずらに混乱を増やしているだけなので、迷惑以外のなにものでもない。


「どこぉ? ここかなぁ!」

「きゃあ!」

「邪魔あああああああ!」

「うわあああああああ!」


 狂った人たちの行動はますます過激になり、窓を割ったり恥部を振りかざして取り押さえようとする人たちを追い払っていた。

 側では術者の暴走を止めようと必死な使い魔たちの姿もあり、痛々しくて見てられなかった。


「急がないと……」


 衛が二人を止められてるか心配になりながら、僕は北へと向かった。


 敷地の北側にはテニスコートや運動場などがあり、普段はスポーツ系のサークルが汗を流している。


 北口から見える大学に隣接した建物は男子寮で、学生からは『ジェントル・キャッスル』と呼ばれている。理由は、この寮に住んでいる男がすべて独り身の紳士たちだから、なのだそうだ。


 江田さんに由来を聞くと、女子寮が数年前に無くなったからではないかと推察していた。しかし、ムギさんは「噂はガチ」とまじめな顔で言っていた。


 もしかしたら、この騒ぎの犯人は寮生で、自分の部屋に逃げ込もうとしているのではないか?

 そんな推理が頭をよぎった。


「アメ! 北口の前に飛ばしてくれ!」


 僕の指示に、アメは無言で従った。


 寮に行くには北口を通らねばならないので、考えが当たっていれば先回りになる。それに、門に常駐している警備員はまだ状況を把握していないだろうから、話を通しておけば犯人を逃す心配もなくなるはずだ。


 そんなことを考えながら、北口の前に転移した。


 すると、タイミング悪く誰かとぶつかった。

 見間違えでなければ、この人植え込みから飛び出してきたように見えたけど。


「あいて!」

「いたたたた。あれ、な、なんで人が? 誰もいなかったはずなのに……」


 僕に覆い被さったのは、同い年くらいの男。


 全身黒い服を着て、女性のように長い長髪をしている。


 そして。


「あぁ! ダメダメ! ボクの目を見ちゃダメ!」


 言われたときには遅かった。

 すでに、僕はその目に釘付けになっていた。


 その瞳は美しく煌めいている。

 人のものとは思えない輝きは、まるで星空のようだった。

 そして、放たれる魔力は僕と一番近しいものに似ている。


 だからこそ、気味が悪かった。


(見つけたぞ!)


 アメが叫んだ。


 さっきまでどこか上の空だったくせに、なんだか喜んでいるように思えた。


 一瞬、目の前が真っ暗になった。

 

 再び光が差したときには、僕と長髪の男は砂浜にいた。


 ここは、夏休みにみんなで遊んだ場所だ。


 周りに人の気配はなく、潮の香りと波の音に満ちていた。


「え! な、なんで急に海に? そんな、ボクこれ以上単位落としたらマズイのに」

 

 長髪の男は立ち上がり、絶望の表情で言った。


「……そんなこと、気にしてる場合かよ。あんた、大学でいったいなにしたんだ? あの騒ぎの犯人だろ?」


 僕も起き上がり、距離を取りながら男を睨んだ。

 

「嗚呼、そうだね。あんなことになったら、ボクは……あれ? きみ、ボクの目を見たよね?」


 男は目を丸くして言った。


 相変わらず煌めく瞳は、その美しさに似合わない恐ろしさを孕んでいた。


(儂が遮っている。貴様の魔力がたどり着く先を、その辺の岩に変えている。さっき見つめ合ったときは、儂の魔力に慣れているからか、狂うまでタイムラグがあったからな。ギリギリ間に合った)


 言葉は得意げなのにいつものドヤ顔はなく、真剣な眼差しで男を見ている。


「嗚呼……嗚呼! き、きみなのか? きみがそうなのか?」


 男は突然涙を流し、喜びとも悲しみとも取れる声を上げた。


「きみが運命の人なのか?」

「は?」


 ひと際大きな波が来て、僕らの足を濡らした。


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