夏休み 『夏の思い出』
僕は叫ぶと、ジュースを乱暴に流し込んだ。
「なんの話をしてたんですか?」
声のほうを見ると、海から上がったひかりちゃんが歩いてきていた。
水滴の光る体から、思わず目をそらしてしまった。
「い、いや、べつに」
「あ、そのジュース。いただきますね」
ひかりちゃんは僕の手からペットボトルを取ると、なんの躊躇もなく口に運んだ。
「あ! そ、それ」
「また、間接キスしちゃいましたねぇ」
いたずらな笑みを浮かべたひかりちゃんは、となりに座って海を見つめた。
「ダメだよ、嫁入り前の女の子がそんなことしちゃ」
「晴人さんジジくさーい。前にもしたんだし、べつにいいじゃないですか」
ジジ臭いには少し傷ついたが、顔に出さないように頑張った。
「だって、晴人さんのおかげでこんなに楽しめてるんですよ? ボランティア部の皆さんとも仲良くなれたし……晴人さんとなら、私はべつに」
頬を赤らめたひかりちゃんは、見たことのない表情をしていた。
心臓がうるさいくらいに鳴り、たぶん人生で一番ドキドキした。
「晴人さん」
とろんとした目が、僕を見つめる。
「ひかりちゃん」
不思議な魔力が働いているのか、瞳の中に吸い込まれそうだった。
そして、惹かれ合うように僕らの唇はその距離を縮め、僕は心の中で長谷川さんに謝罪した。
「フォークス・アタック! サマーバケーションVer~そのへんの海藻を添えて~」
「おぶへぁっ!」
もうちょっとだった。
もうちょっとだったのに、磯臭い海藻を巻きつけたフォークスの奇襲を受けた。
「なにすんですかぁ!」
僕は海のムギさんに叫んだ。
本当に、心からの叫びだった。
「うるせぇ! お前こそ、なにしようとしてんだ!」
「こっちは長谷川さんから、ひかりんのことをくれぐれもよろしくって言われてんだ!」
「お父さんは許しません!」
ムギさんのとなりで信二と衛が同じように腕を組んで立ち、反論の言葉を投げてきた。
「なにしてんのよ、このバカぁ! いいところだったのに!」
「なんて無粋なマネを!」
「最っ低!」
そんな男連中に対して、女性陣からは激しい非難が飛んだ。
同時に、レオーネがムギさんを頭から咥え、信二をヨイチが羽交い絞めにし、衛を巨大化したマイモが包み込んだ。
小太郎とアリエッタは、バンバの腕にぬいぐるみのように収まっていた。
「ごめんねぇ、二人とも! このお邪魔虫共、どっか連れていくからさ!」
「あたしたちのことは、気にしないで」
「ご、ごゆっくり~」
コメさんたちはそのまま移動しようとした。
「ぬおおお! 負けるかぁ!」
「こらっ、抵抗するな!」
男たちが暴れ出し、水しぶきが上がった。
「ぷっ……あははははは!」
その様子を見て、ひかりちゃんは大声で笑った。
そのうち腹を抱えて寝ころび、笑い過ぎて涙を流した。
「……ま、いいか」
僕は再びジュースを飲んで呟いた。
邪魔されたことはものすごく残念だけど、こんなひかりちゃんが見れただけでも十分だった。
彼女を救えたこと、この笑顔を守れたこと。
それだけで、僕は報われる。
……だが、報復がないとは言っていない。
「アメ」
(よしきた)
僕はアメの能力で、必死にもがく三人の真上に転移した。
「とおーう!」
そしてそのまま体を伸ばし、横に並んだ全員にボディ・プレスをお見舞いした。
「あっははははは!」
コメさんたちからも笑いが起き、僕は満足して海面に顔を出した。
だが、その隙に信二から反撃に遭い、激しい水しぶきが上がった。
でも、僕は見逃さなかった。
笑いながら、ペットボトルに口づけをするひかりちゃんの姿を。
決して穏やかではなかったけれど、みんなの笑い声に包まれて。
大学生活初めての夏休みは終わった。




