夏休み 『後日談』
後日。
現役アイドルを襲った今回の事件は、メディアでも連日取り上げられた。
岡村は傷害や器物損壊などの罪に問われ、実刑は免れられないだろう。
イベントは、結果的に中止になりってしまった。
ひかりちゃんの事務所や岡村を雇っていた派遣元も責任を追及されることとなり、事件の影響は日に日に大きなものとなっていた。
ひかりちゃんは療養のためとして、しばらくの活動休止が発表された。
使い魔の偽装を責める声もあったが、バンバとのコンビを好意的に見る声のほうが圧倒的に多く復帰には時間はかからないだろう。
事件後、僕らの元に所属事務所の社長が森さんと共にお礼と謝罪に訪れた。
その際、同行していたマイケルさんたちと熱い握手を交わした。
「なにかあったら、すぐに呼んでくれ。手荒なことから、就職活動まで面倒みるぞ」
マイケルさんは傷だらけの顔で笑うと、連絡先を教えてくれた。
予想外の大騒動になった人生初バイトだったが、ひかりちゃんの事務所から時給以上の謝礼をもらうことで、夏休みの予算は十分に確保することができた。
そして、今。
僕たちは海に来ている。
「きゃはははっ!」
「あぶねぇ! あぶねぇ! やめろぶお!」
コメさんといづみちゃんが水をかけ合い、浮き輪に乗っていたムギさんが衛と小太郎に沈められた。
「あははははは!」
それを見て、大きくなったマイモに乗っていたひかりちゃんが笑った。
その笑顔は、とても自然で楽しそうだった。
ここは、いつか僕たちが二人で遊んだ砂浜。
夏休みも終わりに差し掛かった今日、僕らは最後の思い出作りに来ていた。
治療もあって夏休みはろくに遊べないまま過ぎてしまった。
そこで、信二たちとこのプライベートビーチでの海水浴を計画した。
夏休み前にいづみちゃんから聞いていた水着姿が見たい一心で、男たちは予定を合わせるのに奔走してくれた。
そして、この日の三日前。
長谷川さんと共に、ウチにお礼を言いに来たひかりちゃんも誘ったのだ。
「いろいろあって、お父さんともう一度いっしょに暮らすことになったんです。バンバのことは、むしろみんなにウケたみたいですし、もう年末の復帰ライブも決まったんです!」
笑顔で語るひかりちゃんからは、もう会ったときの重い雰囲気を感じることはなかった。
となりの長谷川さんも、穏やかで幸せそうな顔をしていた。
「高若くん、本当にありがとう。きみには、なんとお礼を言ったらいいか」
ひかりちゃんとアメが、例の真珠について話していると、長谷川さんが頭を下げてきた。
「いや、僕はなにも。美味しいところは信二に持っていかれたし」
「そんなことは関係ない。体を張って、娘を守ってくれたじゃないか。あの子も、きみを信用しているみたいだし……」
長谷川さんは顔を上げると、なぜか涙ぐんでいた。
「正直、父親としては複雑な気持ちだ。でも、あ、あの子が望むなら、私はっ!」
「長谷川さん?」
なにを盛り上がってるんだこの人。
「でも、でもな! 順序は守ってくれよ? もし、結婚前に出来たりしたら……私はっ! きみが泣くまで殴るのをやめないからな!」
「いや、なんの話ですか!」
暴走気味の長谷川さんをなだめ、なんとか海の予定を許してもらった。
そして、天気にも恵まれた今日。
すっかりボランティア部の面々に馴染んだひかりちゃんは、アイドルではない普通の女の子の顔をしていた。
その表情に喜びを感じながら、僕はふと砂浜の二人に目をやった。




