夏休み 『本番2』
「長谷川さん!」
僕は考えるより先に飛びついた。
長谷川さんの腰にしがみつき、体重をかけた。
「高若くん? は、離してくれ!」
「できませんよ。そんなこと。まさか、本当に長谷川さんが犯人だったなんて」
抵抗していた長谷川さんは、きょとんとした顔で大人しくなった。
「ち、ちがう! 私じゃない! 信じてくれ!」
「そう言われても……」
もう光玉を出して拘束しようかと思ったそのとき、背後にあったガチャガチャの筐体が倒れた。
「危ない!」
長谷川さんは僕の背後を見て叫ぶと、僕を押さえるように倒れこんだ。
そのおかげでなにかが頭上をかすめたが、僕は何者かに踏みつけられた。
そして、僕らを踏みながら走リ去る男。
その後ろ姿には、見覚えがあった。
「岡村ぁ!」
僕の叫びに振り返った岡村は金属バットを持ち、気味の悪い笑みを浮かべていた。
光玉で拘束しようとしたが、その笑みは煙の中に消えてしまった。
「マイケルさん! ひかりちゃんが!」
慌てて黒服たちに目をやると、みんななにかと戦っていた。
「あれは……おもちゃ?」
繰り広げられる格闘の相手は、様々な姿をしていた。
空飛ぶお面や、手にナイフを持ったぬいぐるみ。ラジコンがありえないスピードで走り、黒服のすねに衝突していた。
それらは僕が持ってきたガチャガチャのカプセルから飛び出していて、どんどん数を増やしていた。
『こちら、観客席の本城! やたら凶暴なおもちゃが暴れまわってる! 鳴水、桃園と共に交戦中!』
『こちら麦畑米富ペア、同じく交戦ちゅいってぇ! 赤い屋根の大きなおうちが腰にぃ!』
ヘンゼルから聞こえるみんなの声で、おもちゃの暴動は会場中に広がっているのがわかった。
援軍は期待できそうもないが、僕一人でもひかりちゃんを守らなければ。
「高若くん!」
起き上がり、走り出そうとした僕に長谷川さんが叫んだ。
「信じてくれ、私は敵じゃない。お願いだ、いっしょにあの子を守らせてくれ!」
長谷川さんは泣きそうな顔で頭を下げた。
たしかに、この状況は岡村が作り出したもので、長谷川さんは無関係のようだ。
それに、ひかりちゃんを心配する気持ちは本物だと感じた。
その意図はわからないが、味方の数は多いほうがいい。
「わかりました。行きましょう!」
僕たちは頷き合い、ステージを包む煙の中に飛び込んだ。
 




