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夏休み 『トラブルシューティング』

 額から汗が流れる。


 冷房が効いているはずなのに、嫌に暑く、息苦しく感じた。

 

 いや、まぁ、そりゃあそうだ。


 イベント会場には超満員の人と使い魔が押し寄せ、集った熱気は冷房の力を上回っているのだから。


 僕はグッズ売り場の売り子として、お客に限定フィギュアを手渡した。


「ありがとうございましたー」の声とともに、目の前の列を見ると、後方で妙に浮ついたムギさんとそれをたしなめるコメさんの姿があった。


 

「明日のイベント当日。会場でこの子の護衛と、可能であればストーカーの確保まで頼めないかしら」


 森さんの口から出てきた要請は、およそ一般の大学生に頼むようなことではないようなことだった。


「え、それってどういう」

「高若晴人くん? あなたの使い魔がダイダラボッチであることはわかっています」


 思わずハッとしてひかりちゃんを見たが、首を激しく横に振り、自分は言っていないことを示してくれた。


「こんな業界で働いていると、それなりに情報網はあるんですよ。その力を見込んで、ぜひご協力をお願いしたいと思っているんです。それと、そこの永犬丸信二さんは……」

「そんなことより、護衛と犯人確保ってそこの人たちじゃダメなんですか?」


 声を向けられた信二が、マイケルさんを指さして言った。


「……ええ。彼らでは難しいでしょう。いえ、なにも実力が伴っていないとは言いませんよ。いざとなれば、体を張ってくれると信じていますとも」


 棘のある森さんの言葉を、黒服たちは無表情で耐えていた。


「当日、彼らにはひかりの周辺を警護してもらう役目があります。お客やスタッフの中まで、気を回すことは難しいでしょう。そこで、あなたたちに手伝ってもらいたいんです」

「なんで僕たちが?」

「……これを」


 森さんは持っていたハンドバックから、四つ折りにされた紙を取り出した。


『ひかりん愛してるぼくがいちばん愛してる やっと近くで会えるね運命だね こんどのイベントはぼくも参加するからね 今までみたいに遠回しじゃロマンチックじゃなかったね ひかりんも女の子だもんね だから直接ぼくの気持ちを伝えるよ そしたらもうぼくだけを見ればいいからね ほかの男なんて気にしなくていい やっとぼくだけの天使にもどれるよ 邪魔する奴はゲームみたいにぼくが狩ってやる だからまっててねひかりん これが最後のチャンスかもしれない ぼくも本気を出すよ だからひかりんもちゃんとついてきてね やくそくだからね 愛してるよ愛してるよひかりん 

 心から愛してるぼくのすべてが愛してるきみのすべてを愛してるきみが生み出すすべてを愛してる笑顔も涙も歌も声も汗も血もぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ

 だからきみもぼくを愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる

 まっててね』


 書かれた文を読み終えたとき、今まで感じたことのない不快感と嫌悪感が全身を駆け巡った。

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