夏休み 『新たなトラブル』
「あー、疲れた」
「そうだな」
僕らはひかりん捜索で生じた遅れを取り戻すべく、通常よりも長く仕事をするはめになった。
もちろん、時給である僕らには給料が発生するのだが、積もる疲労感はキツイものがある。
所属するボランティア部の部長であるムギさんに、自宅まで集合をかけられていた僕たちは、いつもより重たい足を進めていた。
「晴人のせいだからなー。このあとムギさんたちと血祭りにあげてやるぜ」
「やるぜ」
「なんでだよ」
そっくりな笑顔を浮かべる一人と一匹にツッコミを入れながら、僕はふと空を見上げた。
日照時間が長くなったとはいえ、外の世界は薄暗く、白い月がじっとこちらを見つめていた。
「あれ? そういえばアメは?」
信二がコンビニで買ったアイスを舐めながら言った。
「そういえばいないな。またどっかで夜景スポットでも探してるんだろ」
「便利だな」
「自由にできればな」
僕らは涼しくなった風に汗が染み込んだTシャツを乾かしてもらうように、のんびりと進んだ。
「あ」
「あぁ……」
ムギさんの家が近づくにつれて、辺りは見知った景色に変わっていった。
そして、使い魔のキメラを使役した本田と対峙した、あの公園までやってきた。
「……突っ切るか」
「おう」
ムギさんの家に行くには、このやたら広い公園を迂回するより、中を進んだほうがはやい。
僕らは、必要のない緊張感を抱きながら、カラフルな車止めを跨いだ。
「止まれ」
ランニング用に整備された道を歩いていると、男の低い声がした。
振り返ると、スーツ姿に身を包み、サングラスをした黒人男性が、僕らを見下ろしていた。
「え? え?」
「ア、アイドントスピークイングリッ……あ、日本語でいいのか」
男性に気を取られていると、どこから出てきたのか、同じ黒服姿の五人の男が僕たちを取り囲んだ。
「な、なんだ、あんたら!」
「ガルルル!」
信二が印を結ぶ構えを取り、小太郎が牙を剝いて威嚇した。
「待って」
一触即発な信二たちを、僕は左手を上げて制止した。
たしかに怪しくておっかない人たちだ。
でも、その姿には見覚えがあった。
「もしかして……」
「なにも言わずについて来い」
「こんな怪しい連中にそう言われて、素直に行くかよ。着火!」
小太郎の体が燃え上がり、炎の熱気が僕らを襲った。
「信二、やめろって!」
「この小僧が……」
「おい、手荒な真似はするな!」
今にも戦いの火蓋が落ちそうななかで、僕と黒人男性がお互いの陣営を止めていた。
「とりあえず、落ち着けよ。な、信……」
「フォークス・アタック! サマーバージョン!」
睨み合う男たちの、誰のものでもない声がした。
今度はものすごい聞き慣れた声だった。
と同時に、頭上をフォークスが通り過ぎ、小振りのバケツに入った水を撒き散らした。
「うおっ!」
「なんだこれは!」
「ガキのいたずらか?」
突然のことに、黒服たちは怒りと驚きの声を上げた。
ほんの一瞬の出来事だったが、隙を作ることには成功したようだった。
「連れになにしてんだ?」
「逃がさないよ」
「動かぬほうが身のためだ」
いつの間にか、黒人男性の背後に強化状態の衛が立っていた。
取り囲んでいた黒服たちも、使い魔のレオーネに跨ったコメさん、絵字不刀を構えたヨイチとアキラちゃん、フォークスをキャッチしたいづみちゃんが、睨みつけていた。
「な、なんだこいつら!」
困惑した男たちは、臨戦態勢を取ろうとした。
「待て! 動くな、お前たち!」
黒人の男性が、他の黒服を制止した。
やはり、彼がリーダーのようだ。
「みんな、なんで?」
状況が掴めずにいる僕の問いに、コメさんが答えてくれた。
「みんなで、この公園で花火しようってなってね。そしたら、囲まれてる二人が見えたからね。小太郎くんは燃えてるし、ただごとじゃないと思ってさ。こんなことになってるわけ」
よく見れば、衛の後ろに隠れたムギさんは、大量の花火を持っていた。
「いや、なに隠れてるんですか」
「仕方ないだろ。花火するつもりだったから、小刀持ってきてないんだよ」
ムギさんがむくれて言った。
「とにかく!」
コメさんがワンドを突き出し、黒服たちに向かって吠えた。
「私たちの仲間に、なにをするつもりですか。場合によってはこのまま全力で抵抗しますし、警察も呼びますよ!」
「あとはワンタッチで電話できるからね」
「お、大人しくしてください!」
アキラちゃんがスマホを掲げ、いづみちゃんがかわいらしい威嚇を叫んだ。
「わかった。わかったから、我々には争うつもりなんてない」
黒人男性が両手を挙げると、他の男たちもしぶしぶそれに倣った。
「ほ、ほら、みんなも落ち着いて! 大丈夫だから!」
僕は鎮静化するには今しかないと思い、必死でみんなをなだめた。
「っていうか、さっきからなんだよ、晴人。お前だけ妙に冷静で」
小太郎の着火状態を解いた信二が、不機嫌に言った。
「こいつらが誰なのか、知ってるのか?」
元の大きさに戻りつつ、一番ガタイの良い黒服とボディビル勝負を始めていた衛が口を開いた。
「うん。あの、あなたたちは、僕に用があって来たんですよね?」
「……あぁ、そうだ。せっかく人目につかないところまで待ったのに、これでは意味がない」
黒人男性が、自分たちに呆れたように笑った。
これで、彼らの正体に確信ができた。
「あなたたちは、ひかりんのSPの人たちですね」




