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夏休み 『アルバイト・オン・ザ・ビーチ2』

 日を浴びたひかりんの肌には濡れた髪が張り付き、滴るしずくは玉のようになっていた。


 かわいい。


 もう何度目になるかわからないが、この娘には毎度見惚れてしまう。


 水気を含んだシャツが、その下にあるブラジャーを映し出していた。

 辛うじて欲望に打ち勝った僕はなんとか目を逸らすことに成功した。


「だ、大丈夫だよ。でも、ちょっと喉が渇いたかな」

「あ、それならジュースがありますよ! ちょっと待っててくださいね」


 ひかりんは、僕の背後にあった大きな木に小走りで向かった。


 折り重なった葉が、黒く分厚い影を作っており、見るからに涼しそうだった。

 その影の中に、小さなレジャーシートとクーラーボックスが置かれており、ひかりんは中から飲み物を取り出した。


「おい、アメ。なんだか準備が良すぎないか? っていうか、この炎天下の中、僕のこと五分も放置してたのかよ」

(違う違う。さすがに儂でもそんなことせんわ。最初はな、公園にお前たちを連れて行ってたのよ。ほれ、例のあの公園だ)

 

 アメの言っている場所は、僕にとってあまりいい思い出がなかった。


 僕は大学に入学した初日、宗教サークル『サーチ・ライト』に襲われた。


 なんとか難を逃れたが、それがきっかけとなり、五人もの人が使い魔を失うパートナー・ロスト事件が起こった。

 その犯人であるサーチ・ライトの元部長、本田と対決した場所がアメの言う例の公園だった。


(一応、人目につかんように繁みの中に隠しといたぞ。お前はここ数日の疲労からか、情けないことに意識を失ってしまったんだよ)


アメが馬鹿にしたような目で、僕を見下ろした。


(中でのことはことは、ひかりんに聞いた。まぁ、せっかくだから、儂厳選の穴場スポットに連れて行ってやろうと思ってな。飲み物とかをお前の財布からくすねた金で買って、先に遊んどったんだ。だからお前はさっきまで、日陰の涼しい繁みの中におったんだ。安心しろ)

「ちょっと待て! さっきまで公園に放置されてたのか? なんで体に葉っぱがついてるのかと思ったら、それが理由か! 誰かに見つかってたらどうするつもり……ん? 今、金くすねたって言ったか?」

「お待たせしました!」


 アメに不満と怒りをぶつけていると、両手にペットボトルを持った天使のような笑顔が戻って来た。


「どっちがいいですか? 右は新発売の果物ジュースで、こっちは、その、私も好きな炭酸飲料なんですけど」

「炭酸で!」


 喉に潤いと爽快感が欲しかった僕は、ひかりんが言い終わる前に左手のボトルを取り、口に流し込んだ。


 甘さと炭酸の刺激が気持ちよく広がり、生き返った気がした。と、同時に手にしたペットボトルに違和感を感じた。


「うまい! けど……これ、もしかして開いてた?」


 首をかしげる僕に、ひかりんは足下に視線を落として答えた。


「は、はい……あの、買ったときに私も飲んじゃったんです。ちょっとだけ。その、わ、私も、それ好きだから……」

「……ってことは」


 恥ずかしそうに、もじもじとしていたひかりんは、耐え切れなくなったように海に向かって走り出した。


「助けてくれたお礼ってことにしてくださーい! アメ、さっきの続きやろう!」


 僕が選ばなかったジュースを砂浜に放り投げ、ひかりんは海へ入って行った。

 あまりのことに、僕も今すぐ走り出したかった。


 現役アイドルと、間接キス。


 ファンに殺されそうな幸せを得てしまった幸福感と、恥ずかしさと喜びで、太陽の光が嫌に熱く感じた。


(どうだ、晴人。儂になにか言うことはないか?)


 愉快な笑いとともに、アメの声が頭の中に響いた。


「……ありがとう」

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