夏休み 『アルバイト・オン・ザ・ビーチ』
真夏の日差しが容赦なく襲いかかる。
閉じていた瞼の上からも眩しさを感じ、思わず顔をしかめた。
おもむろに立ち上がろうとすると、細かな熱い砂が手を包んだ。
耳には風と波の音が流れ、潮の香りが鼻を通る。
僕は海にいた。
誰もいない、殺風景なビーチ。
背後には山が広がり、ここまで続くアスファルトの道路は、砂に覆われて車が通った形跡もない。
まるで、滅んだ世界に僕だけが取り残されてしまったかのようだった。
「きゃはははは!」
いや、そうではなかった。
息を飲むほど澄んだエメラルド色の海で、美しい少女が笑っていた。
太陽に祝福され、風に抱かれ、海と遊ぶ姿はどんな映画のヒロインよりもきれいだった。
まるで、この場所は彼女のためにあり、彼女のものであるような。
アキラちゃんやいづみちゃんとも違う、見る者を巻き込む美しさだった。
聞こえる無邪気な笑い声も、可憐な妖精が戯れる……
(ふはははははは!)
酔ったナレーションを巡らしていると、脳内に腹の立つ笑い声が木霊した。
言うまでもない、僕の使い魔ダイダラボッチのアメだ。
(ほぉら、こっちだこっち)
「も~、アメったら~」
というか、ひかりんとめちゃくちゃ仲良くなっている。
アメは海に浸かった状態で、ひかりんのことを見下ろしていた。
指でひかりんの周辺を指さし、その方向にひかりんが潜っては顔を出している。
僕のことほっといてなに遊んでんだ。
「あ! 気がついた!」
ひかりんは僕と目が合うと、嬉しそうに笑った。
(おぉ、晴人。やっと気がついたか。よし、今ひかりんと遊んでるから邪魔するな)
「なんだその言い方は。っていうか、なにして遊んでんだよ」
さすがにムッとして、即座に反論した。
(なに、ちょっとした宝探しだ。一分毎に儂が移動させるお宝を、十分以内に掴めばゲット。今、五分経過したところだ)
「お宝ってなんだよ」
(儂が見つけた、クソデカい真珠の入ったアコヤガイ)
「ガチな宝じゃねぇか! 僕にもやらせろ!」
使い魔に吠えていると、海から上がったひかりんが僕のもとへ駆け寄ってきた。
「あの、大丈夫ですか? 気分とか悪くないですか?」




