夏休み 『ロッカーの天国4』
「ね、ねぇ。とりあえず、この状況をどうにかしよう。一旦ここから出ようよ」
この幸運をずっと味わいたいとも思うが、この暑さでは二人とも熱中症になってしまう危険がある。
とにかく、ここから出るのが先決だ。
「で、出て行ったら、外の人たちに見つかっちゃう」
「それは僕に考えがある。このままだと、二人とも倒れちゃうよ」
「でも……」
「僕を信じて。ここまで巻き込まれたんだ、最後まで責任は取るよ」
潤んだ瞳が僕を見つめた。
恐らく二秒ほどだったと思うが目が合った瞬間、僕には時間が止まったように思えた。
「……わかった。あなたを信じる」
僕はうなずくと、ロッカーの扉を開けた。
そして、出入り口から外を覗き、周囲に人がいないことを確認した。
「アメ、力を貸せ」
僕の体から光の玉が沸き立ち、数個が指さした方向へ飛んでいった。
「すごい、なにあれ」
後ろで、ひかりんが小さく拍手をしてくれた。
「と、とりあえず逃げればいいんだよね?」
「うん。できるだけ遠くに!」
照れつつも、ひかりんを守るように歩を進めた。
周囲は慌ただしく、どうやら大勢で探しているようだった。
「外にさえ出てしまえば、どうにかなるんだけど」
「いたぞ!」
背後から男の叫び声が上がり、ひかりんが息を飲んで僕の腕に抱きついた。
「こっちだ!」
僕はひかりんの手を引っ張り、搬入口から外を目指した。
「捕まえろ!」
ところが、目の前で二人の黒服が立ち塞がり、僕らに襲いかかった。
「離れないで!」
僕はひかりんの体を抱き寄せ、意識を集中させた。
頭の先から引っ張られるような感覚のあと、瞬きをすると、男たちの背後に立っていた。
アメの力を利用した、光玉の能力。
先ほど飛ばした玉の場所へ、僕が存在する地点を書き換える。簡易的瞬間移動だ。
「え? な、なんだ?」
「すごい……」
驚く男たちとひかりんを尻目に、再び外を目指した。
男たちの襲来を何度か躱しながら、どうにか搬入口を突破することができた。
「よし! 出られた!」
「逃がすなぁ!」
ところが、数人の男たちが先回りをしていた。
二人で太陽の光を浴びた瞬間、飛びかかってきた男たちの影に隠れてしまった。
「アメー!」
腕の中にひかりんを抱きしめながら、汗だくのおっさんに唇を奪われそうな距離まで顔が近づいたとき、僕は相棒の名前を叫んだ。




