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一年前期 『その後』

 規則正しいアラームの音で、目を覚ました。


 あの日の夢を見るなんて、いつぶりだろう。

 そういえば、まだあのときの答えを教えてもらっていない。

 アメ曰く、僕はまだまだ子供なのだそうだ。


 胸に懐かしさが浮かんできたが、浸っている余裕はない。

 すぐに準備をしなければ。


 本田との戦いは、僕らに非日常の体験をさせた。


 決していいものだったとは言えないが、現代の日本でも予想外の危険があるのだということを、身を以て知った。


 本田を警察に引き渡し、一連の事件は解決した。


 聞けば、本田はあれから放心状態が続いており、意思疎通ができないらしい。ヴァナ・リゴも健在のはずだが、術者同様なにも反応がないという。

 事件の解決はテレビや新聞でも報道された。しかし、本田がどうやって人を襲ったのか、具体的な方法や状況については世間に知られることはなかった。


 偶然とはいえ、本田は禁術の力を手に入れた。


 それも、今まで成功例のない使い魔のキメラを誕生させた。誰から見ても、その存在は危険だ。そして、一部の人間から見ると貴重な存在でもある。


 本田は逮捕後、すぐに専門機関に保護され隔離された。

 僕らは小さく表彰されたものの、事件については強く口止めされた。取材などはもちろんなく、ムギさんは「ヒーローになり損ねた」と悔しがっていた。  


 警察に行ったり、いろいろと忙しかったのだが、僕らがどこよりも先に向かった場所がある。


 コメさんのところだ。


 事件の終息と僕らの無事を報告すると、コメさんは目を真っ赤にして、思いっきりムギさんをひっぱたいた。


「な、なんで殴られるの?」

「ばか! あんたが死んだら永遠に立ち直れないだろ!」


 力いっぱい抱きしめて、コメさんは大声で泣いた。

 ムギさんは照れながらも、優しくコメさんの頭を撫でていた。


 僕は朝食代わりに、テーブルに置いていた饅頭を一つ口に突っ込んだ。


 先日、江田さんからもらったお土産だ。お母さんの体調は良くなったらしいが、大変だったのにわざわざ僕の分も用意してくれていた。

 すべてが終わったことを報告すると、いつものようにどもりながら生本たちと一緒に僕の無事を喜んでくれた。


 彼女には長老たちとの約束を果たしたとき、書庫の案内を頼んだ。

 書庫は狭苦しかったが、僕の期待通り、みんな生本たちに驚き感動してくれた。


 中でもいづみちゃんは長老と気が合ったらしく、信二があくびするほど長い昔話を熱心に聞いていた。みんな喜んでくれていたが、一番は他でもない生本たちだろう。途切れることなく誰かが話し、一日中書庫が静まることはなかった。

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