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一年前期 『晴れと雨』

(ほう。お前は晴人というのか)


 巨大な人影が僕を見下ろす。


 周りにいた大人たちは、みんな怯えて逃げてしまった。

 父さんと母さんも、僕を守るように抱きながら、細かい震えを止められずにいた。


「うん、そうだよ。きみのなまえは?」


 たぶんその中で唯一、この巨人を恐れていなかったのが僕だ。


 当たり前だ。僕が呼び出したのだから。


 僕の声を聞いて、僕のことを感じて、僕のために来てくれたのだから。


(名は、ダイダラボッチだ。さっきも言っただろう)

「じゃあ、ダイダラボッチはなんていうしゅぞくなの?」

(……ダイダラボッチだ)


 きらきらした粒子の目が、気まずそうに視線を逸らした。


「それって、なまえなの?」

(ダイダラボッチはこの世に儂一人。人間のように個の名前などいらんのだ)

「へー。でも、よびにくいよ」

(ならば、好きに呼べ。お前には、その権利がある)

「ほんと? えーとね、ならね」


 このとき、あまり深く考えていなかったと思う。

 三歳の子供では、知ってる言葉も少ない。だから、僕は頭に浮かんだままの言葉を言った。


「アメ!」


 当時、僕は雨の日が好きだった。


 地面や傘、雨粒があらゆる場所に当たり、弾ける様子がとてもきれいに思えた。

 アメの体で踊る光の粒が、同じように見えたのだ。


 理由は、ただそれだけのことだった。


(はっはっはっは! お前が晴れで、儂が雨か! 面白い。よし、今日から儂はお前の使い魔、アメだ! よろしくな、小さき主よ)


 このとき、僕は自分の身に余るこいつを使い魔として迎えた。

 僕が名前をつけたことで、絆と誓約が結ばれたのだ。


(……晴人。ひとつだけ、儂と約束してはくれんか?)


 アメは、ざわつく大人をよそに僕に話しかけた。


「なに?」

(……できるだけな、長生きしてくれ。それだけだ)


 こいつが真剣になにかを頼んできたのは、このときだけだった。


「いいよ! ぼく、ひゃくさいまでいきるよ! でも、どうして?」


 首をかしげる僕に、雨粒のような光が微笑んだ。


(大きくなったら、教えてやるよ)

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