決戦 『仲間』
(ふははは。間一髪だったな、晴人よ)
頭の中に、使い魔の声が響いた。
久しぶりに聞いた、体の芯を揺らすような声。たった数ヶ月だというのに、妙に懐かしく感じた。
「誰のせいだよ。お前がすぐに戻っていれば、こんなことにはならなかったんだ」
僕は笑う光を睨んで言った。
(そう言うな。ちゃんとピンチは助けてやっただろう。第一、友に恐れられることを嫌って、儂を遠ざけたのはお前じゃなかったか? それに、儂が訪れたところでないと転移もできんのだ。市内にはいたんだから、大目にみろ)
アメは、頬杖をついて僕を見下ろした。
小馬鹿にしたような目で見てきたが、嫌な気はしなかった。悪意がないことは、術者である僕が一番わかっている。
(さて、ここにいる連中とは初めましてだな。改めて名乗ろう。儂こそが、かの有名なダイダラボッチ様である!)
アメが立ち上がり、口角を限界までつり上げて笑った。
両手でガッツポーズをする姿は、いささかダサくも感じたが、なにしろデカい。その迫力は、圧巻と言わざるを得なかった。
さらに、アメの声はテレパシーで脳内に直接伝わる。耳を塞いでも意味がなく、慣れないみんなはこの大音声に顔をしかめていた。
「デッケー!」
小太郎が尻尾を振りながら、声を上げた。
「お、おい晴人。こいつ……本当にお前の使い魔なのか?」
となりで、信二がアメを見上げて言った。
「う、うん」
「で、今こいつが言ったのはどういうこと? あたしたちに恐れられる? 晴人くんが?」
アキラちゃんは腕を組んだまま言った。
問いかけたアキラちゃんの傍らでは、ヨイチが口を開けたまま固まっていた。
「うん。正直に言うと、僕はアメの力をすべて制御できない。強過ぎて、いつみんなを傷つけてしまうかわからない……こんなものだって知られたら、距離を置かれるんじゃないかと思って」
一瞬の沈黙が流れた。
「……ヨイチ」
「御意」
なにが起きたのかわからなかった。
気がつくと、ヨイチの顔が目の前にあり喉に絵字不刀が突きつけられていた。
「ア、アキラちゃん?」
「……あたしのヨイチでも隙をつけば倒せるじゃん」
優しく頼もしい微笑みが、僕の心に染みていった。
「そうだな。ほら、このまま俺が殴ればきっと再起不能だぞ?」
「うおっ!」
いつの間にか、衛にも距離を詰められていた。
戦闘強化の状態で、わざとらしく拳を振りかぶっていた。
「ふふん。それに色々と未熟だぞ、晴人? 上にばっかり気を取られてちゃあ、足下が危ないぜ」
「信二、どういうこ……」
「ワン!」
見ると、小太郎が足下で尻尾を振りながら座っていた。
「えい!」
「おっふ」
今度は後ろから、かわいい声と柔らかいものが僕の背中に突撃してきた。
「わたしだって、晴人くんのこと捕まえられるよ!」
「お、おっふ」
いづみちゃんは、僕のことをぎゅっと抱きしめた。
すると、必然的に柔らかいものが押し付けられて、なんとも言えない気持ちになった。漂ってきたマイモが薄いピンクに光ったが、どうやら慰めてくれているようだった。
「いいな! オレも!」
「俺も!」
「黙れあんたら」
二人の挙手に、アキラちゃんが鋭くツッコんだ。
「はっはっはっは。晴人、心配することなかったな!」
ムギさんは近づくと、明るく言った。
「それによ、俺のフォークスよりも何万倍もレジェンドタイプっぽいじゃねぇか! 羨ましい……なぁ、晴人。昔になにがあったか知らんが、俺たちをなめるなよ? なんてったって、正義のヒーローボランティア部だぜ? 器が違うんだよ。もっと、仲間を信じていいんだぜ」
ムギさんは僕の頭に手を置いた。
嗚呼、ダメだ。
せっかく笑えていたのに、我慢していたものが出てきてしまう。
「……はい」
僕はもう、流れる涙を止めることができなかった。
(ふははは。なんだ、いい友を持ったじゃないか、晴人)
アメは年の離れた兄のように笑った。




