決戦 『アメが降る』
「……あれ?」
月が雲に隠れたものの、並んだ街灯で辺りはうっすらと明るかった。
カエルと虫の鳴き声が聞こえる。
僕たちは川にいた。
前に衛が自転車を引き上げた場所に近い、広い駐車場になった場所に立っていた。
休日には、ここでバーベキューを楽しむ人もいるらしいが、今は誰もいない。
僕たちと、浅瀬でぽつんと立ち尽くす本田がいるだけだった。
「……なに、これ」
「なにが起こった?」
「さっきまで公園に……」
「ファイアボールは?」
本田が水に囲まれたため、シャドーの使い魔は展開できず、ファイアボールもキャンセルされたようだ。
本田の足下で悲しげに漂う、ヴァナ・リゴらしきものが見えた。
「いったい……これは……」
「感謝してくださいよ。あとちょっとでも遅かったら、あなたも死んでいたんだから」
唖然としている本田に、僕は進み出ながら言った。
もしあのまま攻撃を続けていたら、ムギさんが言ったように、本田も魔力を使い過ぎて死んでいた。結果として、本田の命を助けたことになったってしまった。
しかし、そんなこと気にならないくらい、僕は充実した気持ちになっていた。
体中に魔力が満ちている。
久しぶりの感覚、自信が溢れてくる。
やっと、僕のすべてが揃ったのだ。
「晴人くん?」
いづみちゃんの小さな声がした。
見ると、いづみちゃんは今の状況が飲み込めていないようで、どこか恐ろし気な表情で僕を見ていた。
となりにいるアキラちゃん、信二に衛、ムギさんも、信じられないといった顔をしていた。
不安と不審の眼差しが、僕に向けられている。
恐れていたことが起きようとしている。
でも、みんなを助けるためには、これしか手はなかった。
もう、怖がるのはやめた。
みんなに僕のすべてを見せよう。
なにが起きても、受け止める覚悟はできている。
「ごめん。ずっと、みんなに嘘をついてたんだ。僕の使い魔はフォトンボールじゃない。本当は」
僕は本田の背後を指さした。
みんなの視線が、その先に集まる。
ゆったりとした風が雲を動かし、月明かりが僕らを照らした。
「これが僕の本当の使い魔。伝説タイプ、国造りの大妖怪。ダイダラボッチのアメです」
月の光に照らされて、本田の背後に巨人が姿を現した。
胡坐をかいた半透明の黒い身体。立てば高層ビルくらいはある。
その中には蒼白い光の粒が無数にあって、蛍のように舞っていた。
僕がフォトンボールとして使っていたのは、この光だ。
僕の体から借りていた光が浮かび上がり、アメの中へ戻っていった。光の玉が目・鼻・口の形を作り、表情を読み取ることができた。
アメは笑っていた。
してやったりというような、自慢げな笑み。こちらがどれだけ困っていたかなど、お構いなしだ。
風が吹き、アメの散切り頭が静かに揺れた。
 




