表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/97

決戦 『アメが降る』

「……あれ?」


 月が雲に隠れたものの、並んだ街灯で辺りはうっすらと明るかった。

 カエルと虫の鳴き声が聞こえる。


 僕たちは川にいた。


 前に衛が自転車を引き上げた場所に近い、広い駐車場になった場所に立っていた。

 休日には、ここでバーベキューを楽しむ人もいるらしいが、今は誰もいない。

 僕たちと、浅瀬でぽつんと立ち尽くす本田がいるだけだった。


「……なに、これ」

「なにが起こった?」

「さっきまで公園に……」

「ファイアボールは?」


 本田が水に囲まれたため、シャドーの使い魔は展開できず、ファイアボールもキャンセルされたようだ。

 本田の足下で悲しげに漂う、ヴァナ・リゴらしきものが見えた。


「いったい……これは……」

「感謝してくださいよ。あとちょっとでも遅かったら、あなたも死んでいたんだから」


 唖然としている本田に、僕は進み出ながら言った。


 もしあのまま攻撃を続けていたら、ムギさんが言ったように、本田も魔力を使い過ぎて死んでいた。結果として、本田の命を助けたことになったってしまった。


 しかし、そんなこと気にならないくらい、僕は充実した気持ちになっていた。


 体中に魔力が満ちている。


 久しぶりの感覚、自信が溢れてくる。


 やっと、僕のすべてが揃ったのだ。


「晴人くん?」


 いづみちゃんの小さな声がした。


 見ると、いづみちゃんは今の状況が飲み込めていないようで、どこか恐ろし気な表情で僕を見ていた。

 となりにいるアキラちゃん、信二に衛、ムギさんも、信じられないといった顔をしていた。


 不安と不審の眼差しが、僕に向けられている。


 恐れていたことが起きようとしている。

 でも、みんなを助けるためには、これしか手はなかった。


 もう、怖がるのはやめた。

 みんなに僕のすべてを見せよう。


 なにが起きても、受け止める覚悟はできている。


「ごめん。ずっと、みんなに嘘をついてたんだ。僕の使い魔はフォトンボールじゃない。本当は」


 僕は本田の背後を指さした。


 みんなの視線が、その先に集まる。


 ゆったりとした風が雲を動かし、月明かりが僕らを照らした。


「これが僕の本当の使い魔。伝説(レジェンド)タイプ、国造りの大妖怪。ダイダラボッチのアメです」


 月の光に照らされて、本田の背後に巨人が姿を現した。


 胡坐をかいた半透明の黒い身体。立てば高層ビルくらいはある。

 その中には蒼白い光の粒が無数にあって、蛍のように舞っていた。


 僕がフォトンボールとして使っていたのは、この光だ。


 僕の体から借りていた光が浮かび上がり、アメの中へ戻っていった。光の玉が目・鼻・口の形を作り、表情を読み取ることができた。


 アメは笑っていた。


 してやったりというような、自慢げな笑み。こちらがどれだけ困っていたかなど、お構いなしだ。

 

 風が吹き、アメの散切り頭が静かに揺れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ