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決戦 『化け物の正体』

「なぁ。これいけるんじゃないか?」


 信二が、さらに興奮した声で言った。

 みんなも、期待を込めた目で現状を見つめていた。


 影は、静かだった。

 静かに、音もなく、一本の腕が生えてきた。


 人の腕に似ていたが、吸い込まれるような黒さは影の延長であることを表していた。


 そして、静けさが壊された。


 腕の先に、バランスボールほどの火球が現れたのだ。


 それは大きさは同じだが、かつて見たチャドラのものとは比べものにならない魔力の密度だった。


「やべぇ!」


 信二が慌てて印を結んだ。

 衛とヨイチが飛び出し、ムギさんの下へと急いだ。


永犬丸流(えいのまるりゅう)印術(いんじゅつ)防火乃術壱式(ぼうかのわざいちしき)盾盤(じゅんばん)!」


 信二が叫び、小太郎が激しく燃えながら飛んでいった。


 同時に、ムギさんに向かってファイアボールが放たれた。


「うわ!」

「きゃあ!」


 凄まじい爆風が砂を巻き上げ、数本の雑草を吹き飛ばした。


 僕らはとっさに遊具の中に隠れたが、飛び出した衛たちは大丈夫だろうか。


「間に合った!」


 よかった、無事だった。


 小太郎が炎で盾を作り出してファイアボールを防ぎ、衛とヨイチが壁になって、爆風からムギさんを守っていた。


「ムギさん!」

「え、なんでお前ら……」


 僕たちも駆け寄った。

 ムギさんは目を丸くして、ぞろぞろと集まる僕たちを見ていた。


「なに一人でカッコつけようとしてるんですか。そうはいきませんって!」


 信二が得意げに笑った。


「水臭いですよ。あたしたちだって、戦えますから」


 アキラちゃんが、刀を構えたヨイチを指さした。


「あいつにムカついてるのは、先輩だけじゃありません。俺にも、一発殴らせてください」


 衛が指を鳴らしながら言った。


「一人で抱え込まないでください。わたしたちも、力になります」


 いづみちゃんが優しく微笑んだ。


「来るのは当たり前ですよ。僕たちは正義のヒーロー、ボランティア部なんですから」


 そう。そしてあなたは僕たちの頼れるリーダーだ。


 だから放っておくことなんて、できなかったんですよ。


 僕が親指を立てると、ムギさんは照れたのか、頭を乱暴に撫でてきた。いつものムギさんが、そこにいた。


「バカ野郎! 俺の見せ場を取りやがって。今度、みんなで上着買って俺にプレゼントしろ! 今のでどっか飛んだから」

「あ、ならついでに俺のシャツも」


 半裸の衛が両乳首を押さえて言った。

 僕たちはおかしくて、化け物の前だというのに声を出して笑ってしまった。


「さーて、気ぃ遣って待っててくれてありがとうよ。それとも、この人数に諦めたか?」


 僕たちが現れてから、化け物は再び静かになっていた。

 本当に、観念したのだろうか。


「……ばかだね」


 あのときと、同じ声が聞こえた。


 目の前の影の中から。残念ながら、勘違いではなかったのだ。


「大人しく学生生活を楽しんでいればいいのに、わざわざ来るなんて。本当にばかだね、きみは」


 かすれた、変に上擦った声。

 鳥肌と共に、感じたことのない恐怖が全身を巡った。


 いや、その前に。


 こいつは今「きみ」と言った。

 今度はみんなにも、声が聞こえている。

 なら、誰に向かって言ったのだろうか。


「きみだよ。高若晴人くん」


 背筋がぞっとした。


 みんなの驚いた視線が集まる。


 なぜ、僕の名前を知っているのか。頭の中は、その疑問でいっぱいだった。


 影が、また盛り上がった。


 今度は触手でも、腕でもなかった。

 もっと大きいもの。人の形が、浮かび上がってきた。


 それは音もなく伸び上がり、やがて一人の人間が目の前に現れた。


「こんばんは」


 僕は思わず息を飲んだ。


 目の前に現れたのは、かつて僕を襲ったサーチライトの部長。本田だった。

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